目指そう「アソシエ のモラル」確立を by 本山美彦(京都大学名誉教授)

本山美彦(京都大学名誉教授) 「グローバリズム、IT化の荒波に適応できない者は、自らに能力がなかったものとして、職場から去れ」という、過酷な競争を経て生き残ったカリスマ的経営者や彼らに擦り寄る著名評論家から発せられる脅迫的言辞が、多くの市民に焦りだけでなく恐怖を与えている世の中になってしまった。

 ごく少数の企業のみが生き残り、多くの優良企業がばたばたと倒産していく惨事を多くの人々が見ている。それは自然災害ではなく現代社会が作り出した人災である。人々は、この惨事に怯え、「生き残るためにはもっと働かなければならない」との強迫観念に駆られて、日々悪化する労働環境の下で、明かりも見えない暗いトンネル内を走り回っている。経営陣からの恫喝にさらされて、市民は、心を萎えさせ、追い詰められている。

 そうした惨状が日常的なものになっている現在の政治・経済・社会システムを、カナダ籍のジャーナリスト、ナオミ・クライン(Naomi Klein)は「惨事便乗型資本主義(Disaster Capitalism)と名付け、人々の心を萎縮させ、そして懸命に働かせる支配者の理論を「ショック・ドクトリン」(Shock Doctrine)として糾弾する著作を刊行した(邦訳、幾島幸子・村上由美子訳『ショック・ドクトリン〈上〉――惨事便乗型資本主義の正体を暴く』(上・下)岩波書店、2011年)。

 新保守主義者たちが、「新自由主義」というイデオロギー装置を開発し、グローバリズムのドクトリンとして世界を支配するようになって以来、確実に見える社会は、極限にまできた各産業の寡占化と、信じられないような所得格差の拡大である。新自由主義が勝利した地域は、どこでも、「判で押したように貧富の格差が拡大した」、新自由主義者は、「富裕層をさらなるスーパーリッチに仕立てる一方で、組織労働者階級を使い捨て可能な貧者へと追い」やっている。その勝利のツケは、「分配される富の拡大」という自由市場敬愛の約束への不信感の広がりとなって返ってきた(クライン、下、六四九ページ)。

 富と権力の偏在が、経済を傷つけ、民主主義を破壊し、人種差別を増長し、コミュニティを引き裂いている。しかし、こうした惨事が横行しながらも、その不合理を民主主義によって阻止する力を人々が蓄え出したことに、私たちは希望に満ちた新しい社会が到来しつつあることを感じられるようになった。自然が人類に示した摂理を私たちは見ることができる。これが、「アソシエ社会」、「共生社会」なのである。そのためにも、「アソシエのモラル=道徳」の確立が求められる。道徳は、きれい事で実現性のない代物のように見える。しかし、何事も敵に勝つことというリアリズムに還元してしまう類いの権力者に対抗できるのは、反抗する人間が身につけた高い道徳であると私は信じる。

 企業にとって、競争というのは神聖なルールである。このルールに則って勝ち抜くことが至上命令であるとの発言を企業人はよくする。しかし、実際には、いかなる手段を用いても、拡大に継ぐ拡大路線を推し進め、市場支配力を不断に増大させるというのが経営者の名誉である。大きく企業を成長させ、さらに世界一を狙う企業経営者が賛美される。勝ってしまえば官軍である。勝つためには人に言えない悪辣なことをしていたとしても、それは問われない。問われるのは敗者である。水に落ちれば、敗者は寄ってたかって叩かれる運命にある。現在の世界は、産業界の競争で勝ち抜き、帝国を築くことが起業家の資格であると見なす価値観で染め上げられている。

 良心のある理論家たちは、自らの理論にモラルを盛り込むべく苦闘してきた。過去の経済学者は、自身の研究をモラル・サイエンス(Moral Science)たらんとしてきた。古典派の経済学者たちの多くは、体制批判者でもあった。いまや、権力者に擦り寄り、権力機構に組み込まれることを誇りとする卑しい学者たちが氾濫している。
 モラルを確立しよう。年頭から恥ずかしいが、報告させて頂きたい。モラルの確立を訴える拙著が今年の三月に上梓される(『アソシエの経済学』社会評論社)。人格を無視されて、単なる物として扱われる社員の「労働の尊厳」を回復させよう。

本山美彦さんの本(Amazonサイト)


(機関紙『コモンズ』67号4面)

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