「福島市長選が提起したもの」 大内秀明(東北大学名誉教授)

新しい政治力の結集の方向

「復興・協同」通信第12号より

福島市長選に大勝した小林香さん


ダブルスコアの大勝!

 地方自治体の首長選挙として、全国的に注目を集めているのが、11月17日に投開票の行われた福島市長選挙です。自民・公明の政府与党、それに野党の社民党まで支援した現職が敗れ、無所属・新人の小林 香氏が当選しました。
この選挙結果について注目されるのが、
  1. 仙台市長選、宮城県知事選の現職オール与党VS共産の古い図式ではなく、市民派の無所属・新人候補が勝利し、古い枠組みが崩れたこと。
  2. 自民・公明が支持した現職に対して、無所属・新人が予想もしなかったダブルスコアの大差で勝利を飾ったこと。
  3. 仙台市長選、宮城県知事選の投票率が、すでに述べましたが記録的な低投票率で、被災地なのに選挙離れが著しいのとは対照的に、福島の選挙が前回の投票率を10%以上も上回ったこと。
  4. 福島県では、今年に入り郡山、いわき両市長選で、与党の推す現職が相次いで敗れ、今回の福島市も新顔が勝利していること。
  5. 選挙戦では、震災復興の遅れ、特に放射能除染が進んでいない点で、現職の責任が厳しく問われ、新顔の勝利に期待が寄せられた結果であること。
以上、こんなマトメができるように思います。

汚染除去が最大の争点

 実は、当選を果たした小林 香氏は、東日本大震災の震災復興を巡って、一緒に視察や調査に出かけ、シンポジュームなどにもご協力をお願いした仲でした。筆者が所長を務めている一般財団法人「みやぎ建設総合センター」の「低炭素社会構築モデル事業」の委員会などに協力をお願いし、その関係で福島市にある土湯温泉の小型水力、温泉熱の利用、さらに仙台市郊外の住宅団地や学校のソーラー発電事業など、3・11の大震災以前からのお付き合いでした。

 福島県伊達市出身、大学卒業後1988年大蔵省(当時)に入省、環境省に移り、東北地方環境事務所長を務めていた時、ご協力をお願いしたのが切っ掛けのお付き合いでした。官僚らしさを全く感じさせない、どちらかと言えば学究肌の人柄からすれば、とても政治家を想像することが困難な人物です。その小林氏の市長選出馬の話を聞き、驚きよりも選挙戦を勝ち抜けるものか、まず心配だった。しかし、福島原発事故を抱え、震災復興の行き詰まりを迎え、既存の政治や政治家を完全に脱皮した,新しい政治の創造、新しい人材の誕生の時代が訪れているかも知れない。そんな思いで、選挙戦の推移を見守り、いま勝利を受け止めています。

 福島県内の放射能汚染による避難地域に限らず、県内各地をはじめ、隣接の各県地域でも放射能汚染の危険は除去されていません。すでに宮城県でも、知事選に関連して書きましたが、福島県に隣接の丸森町では、汚染度が福島県内の避難地域とあまり変わらないのに、除染作業や災害補償は宮城県であるがゆえに、行政の縄張りによる格差と差別に苦しむ。疎外された被災県民は、「やり場のない怒り」に震えながら、しかし知事選には結びつかなかった。他にも宮城県の栗駒山の山麓地域では、井戸水は汚染がひどく、水道しか利用できなくなった話。広瀬川もイワナについては汚染の危険があり、ただ釣るだけといった話など、汚染の話題を探せば限りがない。行政が動かず、電力も補償を広げたくない。それよりも、住民が風評被害の拡大を恐れて、「触らぬ神に崇りなし」が定着しかけている。汚染から逃げ出して移住してしまう市民も少なくないのが現状です。

 しかし、これで良いのか?という市民の危機感が高まってきた。市民の生活に直結する放射能汚染の除去が、福島市長選の最大の争点になったのは当然だと思います。瓦礫が片付いても、道路が復旧しても、集団移転の話がまとまっても、復興住宅が建ち始めても、復興特区が指定されても、それは復旧・復興の部分的で局部的な話に過ぎない。市民生活の根本のところは生活の基盤であり、それは放射能に汚染された庭であり、住宅であり、田圃・畑であり、河川と海であり、森であり、山々である。汚染除去の環境省の現場責任者として、逃げずに市民と共に歩む、とくに聞き質したわけではありませんが、小林氏の立候補の決断の心境の中には、それがあったと思う。市民も、その決断を支持したのでしょうが、廃炉にせよ、汚染水にせよ、除染にせよ、チェルノブイリの先例から見ても、未知への挑戦です。当選の喜びは消えて、目前に苦難の道が待ち構えている。

 さらに、除染や復興の遅れに対する市民の不満の背後に、大きく東日本大震災の「原子力災害」に対する政治不満、政治不安、政治不信が大きく広がっている流れを見逃してはならない。福島市長選では、新人・無所属候補の圧勝として、表面化しました。しかし、既に報告した仙台市長選、宮城知事選の現職の再選に見られる記録的な「低投票率」は、政治に対しての不満・不安・不信の潜在的な高まり、広がりに他ならない。それが福島市長選では、選挙の枠組みがオール与党対共産の古い枠組みではない、新人・無所属の立候補があった。また、除染や復興の遅れが集中し、原子力災害をめぐる政治不信のマグマが一挙に噴出したと思います。そして、それが選挙結果に具体的に表れたのです。

循環型社会へのコミュニティ構築を

 復興優先の掛け声を他所に、原子力災害に対する現政権トップを始めとする「政官財複合体」の本音の部分は、「原子力災害」の負の部分を切り捨てながら、原発輸出を始めプラント輸出、インフラ輸出、さらに「グローバル人材輸出」による対外直接投資主導型の成長路線に大きく舵を切っている。そのための勢力圏としてのTPPであり、集団的安保体制だし、特定秘密保護法の制定ではないか?こうした対外直接投資主導の成長戦略からすれば、チェリノブイリの先例から見て、とても短期には展望の持てない「原子力災害」の復興に、多くのエネルギーを割く余裕などない。原発輸出のセールスの手段としての原発再稼働は行うとしても、むしろ廃炉を進め、ほどほどの避難者の帰還にとどめて、除染基準を見直し、福島原発と周辺を一挙に国有化して、放射能汚染廃棄物などの中間貯蔵施設に封じ込めを図る、そんな戦略が透けて見えて来ました。

 その動きを鋭く感知しながら、すでに「持論・時論」第12回の拙稿「<原発ゼロ>の小泉・構造改革が提起するもの」で論じましたが、小泉元首相は安倍政権を挑発しながら劇場型政治家らしく、新たな第2次構造改革を提起しているのです。その内容など立ち入りませんが、政権側の対外直接投資主導型の国外脱出型の「脱原発」に対して、自然再生エネルギーを基礎として、地産地消型の産業構造と循環社会型の新たなコミュニティ構築のための政策戦略が、ますます必要になっている。当初から環境省は、日本列島に賦存する自然再生エネルギーの利用を、脱原発の戦略にしようとしたと思いますし、さらにまた「環境行政のプロ」「再生可能エネルギーへの造詣の深さ」への市民の期待が、今回の福島市長選の結果をもたらしたと思います。福島新市長への期待は大きいでしょう。

(見出しは編集部)

(コモンズ第66号4面)

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