被害者である前に加害者であるという自覚を/野添憲治(ノンフィクション作家)

新年にあたって 野添憲治(作家)

野添憲治さん

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■「明治の日」を作る動き

 昨年は敗戦70年であった。後半を見ると10月7日に安倍第三次改造内閣が発足後に「安全保障関連法」の成立、沖縄の米軍新基地建設に伴う辺野古の埋め立て問題、TPP問題、消費税の問題、原発問題など、日本社会を根底から変えるかもしれない深刻な問題が矢つぎ早やに起きて新聞やTVニュースが伝えられた。この原稿を書いているのは11月下旬なので、これから年を越すまでに何が飛び出してくるかわからない。

 安倍首相は兵器を製造する大企業の幹部を随行させて「外遊」し、訪問先の国でカネをバラ撒き、兵器の輸出や共同開発に向けた協定を次々と成立させ、「死の商人」として頑張っている。「防衛装備三原則」も決定し。防衛装備庁も発足させたので、この後にくるのは兵器産業で利益をあげる「戦争」ということになる。わたしは今、TVやラジオを見たり聴いたりしない生活をしているので、翌日の朝刊を手にするのが怖い日々をおくっている。

 このなかでもわたしが問題視しているのは関心度は低いだろうが、11月3日の「文化の日」を「明治の日」に名称変更しようという動きであった。裕仁天皇の誕生日4月29日が死後に継続審議を経て「みどりの日」から「昭和の日」になった時も、多くの反対があったにもかかわらず、押し切って成立させた。
 「文化の日」を「明治の日」に変更するのも、敗戦70年を経てもなお、旧日本軍が侵略した国々で犯した罪悪を隠ぺいしようとする動きがその底にありありと見えるからである。昨年は運動を止めている明治の日推進協議会が11月11日に集会をやり、3年後には法改正につなげたいとしている。

■「松代大本営」跡地を訪問

「松代大本営」跡

「松代大本営」跡

 個人的なことになるが、2001年から9年間かけて、朝鮮人や中国人が日本に強制連行されて重労働をさせられた北海道から九州までの現場を一人で歩き、ささやかな慰霊をしながら現場を調べた。その時に今は長野市に合併している旧松代町の「松代大本営」の跡にも行き、2日間かけて歩き地元の人から話を聞き、県立図書館で資料にもあたった。

 松代大本営とはアジア・太平洋戦争の末期に旧軍部が米軍との本土決戦に備え、東京から大本営をはじめ、天皇や政府機関、日本放送協会など国家と軍の中枢をすべて松代の山中に地下壕を掘って移そうとした。工事は西松組(現西松建設)鹿島組(現鹿島)が請け負った。

 本工事は1944年11月から始まり、日本の敗戦まで約9ヵ月間に延べ300万人が働いたが、「その中心は七千人以上の朝鮮人労働者でした。国内にいた朝鮮人のほか、朝鮮から強制的に日本に連行された人々が松代に送り込まれ」(「マツシロの旅」)粗末な飯場に入れられた。岩盤が堅いうえに現代のようなシールド工法の技術もなく、削岩機とダイナマイトで堅い岩を掘った。豚小屋のような飯場での食事も量が少なく、栄養失調で死ぬ人も出た。工事中の落盤事故も多発し、「多い時は、日に平均六人が死んだという。けが人なども続出した」(「中央公論」1959年7月号)が,死者はそのまま火葬場に運んで焼いたものの、遺骨はいまだに見つかっていない。

 鹿島組では東京の現場から180人を選んで松代へ連れてくると、人目につかない飯場に入れて秘密の工事をさせた。天皇の御座所と言われているが、工事が終わると口封じのため46人が殺されたという。主に象山、舞鶴山、皆神山の3ヵ所が掘削され、総延長は約10キロもあり、今は恵明寺からだけ入壕ができるものの、死傷者の実数は不明である。敗戦が明らかになった時に本土決戦を考えた、当時の軍人たちの狂気が残されている。私が9年間かけて歩いた現場にも大小の違いはあるものの、狂気の跡がいたる処に残っていたが、一例をあげると説明の看板を建てるなどの保存をしている所は少なかった。その点では松代大本営は、完全とはいえないものの一応保存はされている。

 最後の日に県立図書館へ行き「信濃毎日新聞」をめくって読みながら、松代大本営跡も敗戦後は放置されていたが、篠ノ井旭高校の高校生たちが「平和の史跡」として保存しようと呼びかけてから調査と保存運動が始まったことを知り、胸に光りが灯った。

■「無駄な穴」のための無駄な死

昭和天皇(1946年)

昭和天皇(1946年)

 ところが、敗戦から2年たった1947年10月に長野県を訪れた昭和天皇が案内していた林知事に「戦争中に無駄な穴を掘った所はどこか」(ゴシックは筆者)と尋ねられ、「真正面に見える松代町の山かげにあります」と答えた記事があった。読んだ私は唖然とした。

 どれほど詳しかったかはわからないが、大本営を東京から長野県に移そうとしていることは、昭和天皇にも知らされていたと思う。そうでなければ長野県を訪れた時に「無駄な穴を掘った所はどのあたりか」と聞くはずがない。この工事に7千人ともいわれる朝鮮人強制連行者が働かされ、日に平均6人が死亡し、天皇の御座所の工事をした朝鮮人は虐殺されたことなどは知らされていなかっただろう。だが、軍人たちの狂気の遺産である「無駄な穴」の工事で死んだ多くの人たちは火葬にされたものの、遺骨はどこにも残されていない。いったいどこに捨てられたのだろうか。

 それなのに「無駄な穴を掘った所はどこか」と、いとも軽々しく尋ねたという昭和天皇に怒りを覚えた。この工事に従事して犠牲になった朝鮮人たちは、無駄な穴を掘って無駄な「死」をしたのである。昭和天皇の戦争責任を日本人の手で追及できなかった敗戦処理の間違いが、今も大きく残されていることを、全国を歩いて知らされた。

 敗戦70年の昨年も、被害者としての日本人の姿は多く出ていたが、加害者としての日本人の姿はほんのわずかより新聞やTVには出なかった。そのなかで芽を大きくしたのが2008年に発足した発足した明治の日推進協議会の動きであった。「明治の日」にするというのは天皇の祭祈への前提であり、敗戦70年間を通してきた平和日本を崩そうとする動きの一つである。

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