関生労組の歴史と日本労働運動の未来(上)/木下武男(元昭和女子大教授)

■木下武男さん(労働社会学者・元昭和女子大学教授)

木下武男さん

木下武男さん


1 労働組合の目撃者と「本当の労働組合」

 本日のテーマ「当たり前の労働運動」ですが、関生型の労働運動は世界では当たり前なんですけども、日本では当たり前じゃないんですね。だんだん増えてはいますが日本では本当に一握りの運動である。しかし関西生コン型の労働組合は、世界では、欧米ではそもそもそういうものとして出来てきたが、日本だけが違う、ということをお話したいと思います。
 日本の労働運動はたいへんな状況にあります。衰退の一歩手前。したがって今の関西生コンの歴史的教訓をきちんととらえ、それが創った種を日本の労働運動に蒔いていくことが、どん詰まった日本の労働運動の課題だと思います。したがって今日の私の演題も「関西支部の歴史と日本労働運動の未来」という大きいテーマにしました。前半が「本当の労働組合と関西生コンの歴史的教訓」についてお話しします。後半は労働運動の現時点に立って、どのようにして関西生コンの種を拡げていくのかというお話をしたいと思います。

最初になぜマルクスとかエンゲルスとかが出てくるのか。ここでは革命家としてのマルクス、社会主義の理論的創造者としてのマルクス・エンゲルスではなく、労働運動の目撃者としてのマルクス・エンゲルスをとりあげます。
19世紀イギリスの遍歴職人

イギリスの遍歴職人

 1826年以降、イギリスで労働運動は嵐のように行われました。その時、マルクスはドイツにいましたが、エンゲルスはイギリスにいて目撃していたはずです。そしてこの目撃証人のことばこそが、労働組合とは何かをいちばん端的に、本質的に語っているのではないか。
 当時エンゲルスが目撃したのは、職業別労働組合というもので、イラストの真ん中にいるのが「遍歴職人」ですね。エンゲルスが指摘する遍歴職人はある職業の労働組合のパブリックハウス=パブの2階の本部で遍歴のカードを見せて、次の日に職業の紹介を受けて、イギリス全国を回ります。その時彼は「一つの職業に一つの賃金」要求を組織していった組織者です。こういうイメージでエンゲルスは見ていたわけです。

2 労働組合の根源的機能(競争と競争規制)

 本当は労働組合とは何だろうか。労働組合法の賃金の維持・改善だけを見ていると判らない。私は「ジョブ」と「労働」と「競争規制」―この3つがあるのが労働組合だと思っています。これをエンゲルスは次のように表現しています「『一つの職業の賃金は、すべてどこでも同じ高さにたもつこと』をはかった」。一つのジョブ(職業)では同じ高さにする。いま安倍晋三がそんな事は知らずに「同一労働同一賃金」と言っていることの本質は、エンゲルスが1845年に書いている。実は労働運動が築き上げた大原則なのです。
労働力商品の個人取引

労働者同士の競争が成立すると雇用条件が悪化する


 それでは労働組合の根本はなにか。マルクスもエンゲルスも労働者の状態はなぜこんなにひどいのかを提起します。マルクスは「経営者が悪辣だ」とか「権力が弾圧するからだ」とか、そんな事を言っているのではない。「内部にこそ問題がある」と言っています。「避けられない競争によってこんなにひどい状態になっている」と。エンゲルスも「競争こそが資本家の最も優れた武器になっている」と言っています。「労働者同士の競争」に2人は目を向けたわけです。そして「競争を規制するものが労働組合だ」という事を2人は指摘しました。

 それをどういう方法でやるのか。それを述べているのがウェッブ夫妻です。「労働条件を個人取引でやらず、共通の規制のもとでやる」という方法です。ある労働者が「私は時給1500円でなければ働かない」と言い、別の労働者が「私は600円でいい」といった場合、雇用主は「じゃあ600円で雇用する」となる。ここに競争が成立し、労働者の雇用条件が悪くなっていきます。これが「個人取引」です。それではどうすればいいのか。私としては、関西生コンの歴史の中から4つの教訓をまとめてみました。

3 関西生コン支部の教訓と「本当の労働組合」

教訓1 業種別職種別賃金
労働力商品の集合取引

自由競争を抑制することで雇用と生活が守られる

 共通規則のもとで労働力を売りなさいということです。関西生コンは1973年に運転手は10万円という要求を出しましたけども、82年には労資交渉をして同一賃金体系をつくった。これで初めて「共通規則のとおりにやりなさい」という事を決めたという事です。これを企業を超えてこのように支払うと決めたという事は歴史的な教訓であると思います。

教訓2 集団交渉
 共通賃金を決めて、この通りに支払いなさいと要求する。これが関西生コンが決めた「集団交渉」です。ひとりひとりが個人取引をするのではなく、決められた共通規則に基づいて労働商品を売る代表が労働組合ですね。労働組合が個人の代表として集団で労働商品の集合取引をするという事。これが集団交渉です。これを1973年に決めたわけです。

教訓3 企業の枠をこえた職種別統一司令部
産業別労働組合の構造 関西生コンの運動で非常に重要な教訓だと思ったのは、これは産業別労働組合型の末端組織だという事です。欧米の産業別労働組合の一番底は企業ではないんです。例えばA社・B社・C社の組合には執行権、財政権、人事権などの権限を置かない。その上に欧米では地域組織があり、それをイギリスでは「ブランチ」、フランスでは「サンディカ」、アメリカでは「ローカルユニオン」と呼びますが、そこに労働者は個人加盟する。そしてそこに組合権限がある。
 『50年誌』を見て驚いたんですが、関西生コンは結成の時からそうなんですね。「企業を超えた統一司令部」をつくったことが、集団交渉をやり抜く組織的保障となったわけです。集団交渉を実現するには波状スト、統一スト、指名スト、いろんな事をやる。それを全部できたのは企業別ではなく産業別の司令部がそもそもあったからです。
 実は1962年に海員組合が579隻の統一ストを行いますが、関西生コンはここと接触したのではないか。そういうところで本当の労働組合の流れというのを取り入れていったのではないかと推測されます。

教訓4 労働組合主導型の事業協同組合
 さきほど委員長がおっしゃられたとおり、日本資本主義の系列下請け構造の中で事業協同組合を作っていくということです。重層的下請構造の中では公正な商取引はできません。重層的下請構造というものは日本的なものです。私はフランスとイギリスに建設産業の下請け構造の調査に行ったんですけど、そういう構造はありませんでした。なぜかというと、産業別労働組合があるから、一番下の建設産業の労働者が一番上の労働者とそれほど違いがないのです。産業別で全部賃金を決めちゃうからです。そうすると収奪構造が作りにくい。
労組組織率と逸失労働率
 日本では下請構造があるから、限りなき重層的下請け・収奪構造がある。それをどうするかは今委員長が述べられた通りです。ここで興味深いことに、日経連会長の大槻文平が「関西生コンの運動は資本主義の根幹に関わる運動であって、生コン支部の運動は箱根の山を越えさせない」と言ったんですね。これはおかしいと思いました。関西生コンがやっている運動はフランスやドイツやイギリスやイタリアでは当たり前なことなんです。そこで資本主義の根幹がゆらいでいるわけがない。ところがよくよく考えてみると、これが「日本資本主義の根幹に関わるものだ」ととらえるならばまさしくそうです。こういう収奪構造の中で関生型の事業協同組合を作り、資本と闘う。こんなことをやられたらたまらん、というのが大槻文平の真意だったのではないかと思います。事業協同組合を作ってこれが資本に立ち向かう。これが教訓の4です。
→次号につづく

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