緊急事態条項改憲とは何か?(1)「緊急事態宣言」具体的にどうなるか?
/永嶋靖久(弁護士)

国会議事堂モノクロアート時の政権が、緊急の名を借り、憲法を停止させる

憲法絞殺の企みを打ち砕こう


 憲法に一時停止ボタンを付ける。そのボタンは安倍晋三がいつでも好きな時に押すことができる。
 これが、安倍政府が今夏の参院選後に狙っている緊急事態条項改憲の意味だ。自民党が2012年に発表した改憲草案によれば、内閣総理大臣は一定の場合に緊急事態を宣言できる。この「緊急事態」条項の意味を簡単に言うとそういうことだ。
(緊急事態条項改憲について「国家緊急権」という言葉が使われることがある。緊急事態に「国家」が何かの「権利」を手にするイメージだ。しかし、「国家」が何か「権利」を持っているような言い方は誤解を招く。だから「国家緊急権」という言葉は使わない。)

緊急事態が宣言されるとどうなるか

安倍自衛隊 改憲草案99条1項によれば、「内閣は法律と同一の効力がある政令を制定できる。内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる」。

 これはどういう意味か。

 日本国憲法の下では、最高法規である憲法の下に国会の定める法律があり、その下に内閣の定める政令があり等々、法の体系がピラミッドのような構造を持つことになっている。日本国憲法の下では、内閣は国会の定める法律に反した政令を制定することができない。内閣は議会が決めた法律に従わなければならない。そもそもこれは近代国家の最低限の原則だ。
 しかし、改憲草案によれば、緊急事態には政令は法律と同じ効力を持つ。つまり、これまで国会が制定した法律の一切を無視して内閣が政令を制定することが、憲法上可能になる。内閣が憲法に反しないと考えれば、裁判所法、国会法、自衛隊法、刑法、民法等どんな法律も気にせず、政令を制定できる。たとえば、令状なしに逮捕されない権利は憲法に定められているから、それに反する政令を作ることはできない。しかし、逮捕48時間、勾留10日間(延長すればさらに10日)という期間制限は憲法が決めていることではない。刑事訴訟法が定めているだけだ。だから、逮捕や勾留の期間について、法律と違った政令を作ることができる。共謀罪も盗聴法も、法律という形をとらずに、国会の議論なしに内閣だけで作ることができる。昨年制定された戦争法さえ無視して、自衛隊に軍事行動をとらせることができる。
 緊急事態に、憲法以外の何ものにも縛られない自由を内閣が手にすることになる。

憲法が保障する基本的人権はどうなるか

安保法制反対国会包囲デモ 緊急事態が宣言されると、何人も、緊急事態に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。
 その場合に、改憲草案99条1項は、「第14条、第18条、第19条、第21条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない」と定めてはいる。改憲草案14条・18条・19条・21条は、一応は日本国憲法と同様、法の下の平等、思想・良心の自由、拘束の禁止、集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由についての規定だ。しかし、たとえば、改憲草案の21条は、わざわざ、「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」と規定している。そもそも改憲草案の人権の章が基本的人権の保障と呼ぶことができるかどうか疑わしい。しかし、このように制約された権利の保障さえ、緊急事態下では危ういことを改憲草案は自分で認めている。
 全面改憲ではなく、緊急事態条項を付け加えるだけの改憲だとしても、憲法に残された様々な規定が、内閣にとって、特に安倍政府にとって、何らかの制約になるだろうか。
 緊急事態の宣言は憲法停止の宣言と同じだ。

緊急事態を宣言できるのはどんな場合か

安倍 改憲草案98条によれば、内閣総理大臣は、法律で定めた場合に、必要があれば緊急事態の宣言を発することができる。
 法律で定める場合の例えとして「我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害」が挙げられている。しかし、これらはすべて例えに過ぎないから、どんな場合に緊急事態宣言を出せるかは、結局、法律が決めることになる。この改憲草案による限り、どんな場合に憲法を停止できると決めるか、憲法上のシバリはない。国会の多数党(たとえば自・公)は、昨年9月に戦争法案を成立させたのと同じやり方で(本当に可決されたのか?)、伝染病、ストライキ、大規模デモ、日本海にミサイルが飛んだ、地下鉄でサリンがまかれた等々好きな条件を自由に選んで、緊急事態が宣言できると定めるだろう。そもそも憲法をどんな場合に停止できるか、それを憲法の下位の法律で決めるという改憲草案は、憲法が最高法規だという建前からも完全に逆立ちしている。

緊急事態宣言にチェックはあるか

安倍の軍事化路線 改憲草案によれば、緊急事態宣言は事前か事後に国会の承認がいる。100日以上緊急事態を続けるときは100日を超えるごとに国会の事前承認がいる。また、緊急事態宣言の下で法律と同じ効力を持つことになる政令には国会の事後承認がいる。これが国会のチェックだそうだ。
 しかし、総理大臣(たとえば安倍)が緊急事態を宣言したとき、与党(たとえば自・公)が国会でそれを承認しないということが考えられるか。秘密保護法に関して政府をチェックするとして設置された参院情報監視委員会が、2014年の秘密指定について、政府の運用が適正だったかどうかを判断しないと決めたそうだ。国会のチェックなど働かないことははっきりしている。

緊急事態条項改憲は何をもたらすか

安倍ヒトラー 日本国憲法が、いや、憲法が権力を縛るという考え自体が嫌いで嫌いで仕方ない人たちが、どんな場合に憲法停止ボタンを押せるか自分たちで決める。そして、それに従って、憲法の停止ボタンを押す。押された停止ボタンは元に戻るだろうか。いったん憲法「停止」(「切」)にボタンが入れば、ボタンを押した人たちが自分で進んで憲法「再起動」(「入」)にボタンを戻すことはないだろう。

 緊急事態条項改憲は、お試し改憲ではないし、9条改憲を準備するために狙われているのでもない。緊急事態条項改憲が実現すれば、日本国憲法と法の支配は、本当の終幕を迎えるのではないか。なぜなら、権力を持つ者が好きなときに憲法というシステムそのものを停止させ、権力に対する一切の制約なしにふるまうことができるようにするのだから。(次回「大規模災害時に憲法がジャマになる?」につづく

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