沖縄・代執行訴訟の和解と今後の課題/花輪伸一(沖縄意見広告運動全国世話人)

花輪伸一さん

花輪伸一さん

 昨年10月13日に、翁長雄志沖縄県知事は、法的な誤りがあるとして前知事の公有水面埋立承認を取り消しました。これに対して、政府は、知事の権限を奪って自ら埋め立てを行うために、11月17日に地方自治法による「代執行裁判」を提訴しました。しかし、今年3月4日になって突然、福岡高裁の勧告を受け入れて「和解」すると発表しています。現在は沖縄県と政府の和解が成立し、工事は中断しています。この和解の意味、今後の課題について、琉球新報や沖縄タイムス、東京新聞などの情報をもとに考えてみます。
工事中断は当面の勝利だ
「工事を止めたぞ!」喜ぶ市民たち

「工事を止めたぞ!」喜ぶ市民たち(辺野古)



和解受け入れが発表され、工事の中断が伝えられたとき、キャンプ・シュワブのゲート前では、座り込み参加者たちが喜びの声を上げたと伝えられています。
3月4日は、辺野古テント村(海岸)は4338日目、シュワブゲート前(県道)は607日目を迎えていました。長年月におよぶ住民、市民、支援者の粘り強い座り込み抗議行動、阻止行動が、政府を工事中断の和解に追い込むための大きな力になったことは間違いありません。沖縄県も弁護団も、当面は工事を中断させることを重点に施策を練り、対応を重ねてきたように見受けられます。

もし、今回の「和解」がなかったら、どうなっていたでしょうか。高裁での代執行裁判が続き、その結果、どちらが勝っても負けても最高裁への控訴は避けられません。その場合には、裁判の期間中に工事が中断されることはなく、むしろ政府は警視庁と県警の機動隊、海上保安官、ガードマンを最大限に動員して、座り込みや小型船とカヌーによる抗議行動参加者を、これまで以上に暴力的に排除あるいは拘束し、埋立と基地建設を加速させ、既成事実化するために工事を強行し続けたと思われます。

一方、代執行裁判の結果はどうなったでしょうか。日本の裁判所は、行政に関わる事件については、これまでの例を見ると、政府に有利な判決を出す傾向にあることは明らかです。仮に下級裁判所では勝訴できても最高裁では勝てそうにありません。米軍基地に関係する場合には、三権分立と言いながら政権の意向に配慮したり、第三者行為論で判断を回避しているのが現実の姿です。したがって、和解で当面の工事中断を勝ち取ったことには、大きな意味があると考えられます。

しかし油断はできない
和解内容について説明する翁長知事

和解内容について説明する翁長知事



ゲート前では喜びとともに、油断はできないという声も上がっています。まさにそのとおりです。安倍首相は「和解案にのっとり、県側と協議を続け解決に向けて話し合いたい」と言いながら、一方では「国の考えに変わりはない、辺野古が唯一の選択肢である」と、矛盾する発言をしています。和解と協議の意味をまったく理解していないと言わざるを得ません。
さらに、和解のわずか3日後の7日には、政府(国交大臣)は沖縄県に対して、埋め立て承認取り消しの是正を指示する文書を送付しています。しかし、沖縄県の「指示文書に指示の理由が記されておらず、地方自治法の定めに反している」という指摘によって、国交大臣は、16日に文書の出し直しを余儀なくされるという失態を演じました。

まだ協議が開始されていないのに、大臣が是正指示を行うとは、しかも不備な文書をいきなり出してくるとは、政府は県と話し合いをしても県の要望に応じるつもりはないという態度に他ならないと言えます。
和解と政府の対応に対して、ヘリ基地反対協議会は13日に、以下の声明を出しています。現地で座り込みを続け、闘いの最前線にいる方々の声として、全文を掲載します。声明に示した政府への5項目の要求は、和解協議の重要な前提です。

「辺野古代執行訴訟『和解』に際し、新基地建設問題の真の解決に向けた声明」

3月4日、安倍政権が沖縄県知事を訴えていた辺野古代執行訴訟で「和解」が成立した。その内容は、(1)政府と県は、埋め立て承認取り消しを巡ってそれぞれが起した訴訟を取り下げる (2)政府は承認取り消しに対する審査請求・執行停止を取り下げ、工事を直ちに中止する (3)政府は承認取り消しについて、地方自治法に基づく是正を指示し、県は不服があれば指示取り消し訴訟を起す。双方、判決には従う (4)判決確定まで普天間飛行場返還と埋め立てについて円満解決に向け協議する―というものであった。
政府が突然「和解」を受け入れた真意を測りかねながらも、この間、辺野古の海上、陸上における海上保安庁や警察機動隊の暴力にさらされ、厳しい闘いを強いられてきた私達は、一時であれ現場の作業が止まり、一息つけることを歓迎した。
しかしながら安倍首相は、「和解」受け入れの発表と同時に「辺野古が唯一の解決策」との姿勢を改めて強調。わずか3日後の7日、国土交通大臣は是正措置(知事の承認取り消し処分を取り消すこと)を指示した。協議も始まらないうちの強権発動は、政府の言う「和解」が、県民の声を真摯に耳を傾けることではなく、代執行訴訟における政府の敗訴を避け、今後の訴訟を有利に運んで新基地建設を促進させるための方便であることを明らかにした。
「和解」後1週間、辺野古の現場では、知事の承認取り消しの効力が復活して作業は止まっているものの、海上の作業船や海を仕切るフロートやオイルフェンスは置かれたままであり、警視庁機動隊もなお配置についており、私達は警戒を緩めることはできない。
政府と県が「円満解決に向け協議する」ためには、最低でも次のことが前提になると私達は考える。
1.東京 警視庁機動隊、海上保安庁、海・陸における民間警備会社の撤退
2.キャンプ・シュワブ作業ゲート前の警備車両及び波型鉄板の撤去
3.辺野古・大浦湾の臨時制限区域の撤廃
4.フロート、オイルフェンス及びトンブロックの撤去と作業台船の撤退
5.陸上におけるすべての新基地建設関連工事の中止
政府が以上を真摯に実行することを私達は要求する。それなくして「和解」も「円満解決」もありえない事を安倍政権は認識すべきである。
沖縄の過去の歴史を踏まえ、未来を展望するとき、さらには日本の未来にかかわる「唯一の解決策」は、政府による「辺野古新基地建設断念」しかないことを、私達は改めて確認し、翁長知事・稲嶺名護市長とともに真の解決まで闘うことを表明する。

2016年3月13日        ヘリ基地反対協議会(共同代表 安次富 浩)

なぜ政府は和解に応じたのか
集まった1000人以上の県民の激励に応えて法廷に入る翁長知事(12月2日)

集まった1000人以上の県民の激励の中法廷に入る翁長知事(12月2日)



政府が和解に応じた理由として、6月の沖縄県議会選挙と7月の参議院選に際して、県民の反発を和らげるためとの指摘がなされています。昨年8~9月に工事を一時中断して県と協議をしたのも、国会で「安保関連法(戦争法)」を通すためのその場しのぎの策略と言われました。まったく姑息な手段ですが、辺野古新基地反対の県民世論の中で、自民党・公明党は「工事は中断しており、政府は沖縄の民意に配慮している」と主張できることになります。

一方、選挙よりも「政府はこの裁判で勝てないから和解に応じた」という見方が広がっています。福岡高裁の最初の和解勧告は1月29日のもので、その内容は後で明らかになりました。勧告では「平成11年(1999年)の地方自治法改正は、国と地方公共団体が、それぞれ独立の行政主体として役割を分担し、対等・協力の関係となることが期待された」、「仮に本件訴訟で国が勝ったとしても、さらに今後、埋立承認の撤回がされたり、設計変更に伴う変更承認が必要となったりすることが予想され、延々と法廷闘争が続く可能性があり、それらでも勝ち続ける保証はない。むしろ、後者については、知事の広範な裁量が認められて敗訴するリスクは高い」などとして、A案(県が埋立承認取消を撤回し、国は新基地を建設するが30年以内に返還するよう米国と交渉する)、B案(国、県とも訴訟を取り下げ、工事を中止し、円満解決に向けて協議する。新たな訴訟になればその判決に従う)を提示したのです。

沖縄県は、A案は受け入れ不可能ですがB案ならば可能です。国は裁判に負けるわけにはいかず、和解受け入れとなかったのでしょう。裁判所の和解勧告は、国を負けさせないためのサインだったとも言えます。結果としてB案にもとづき、ヘリ基地反対協の声明に記された概要で和解が成立したわけです。実際には和解条項は10項目であり、沖縄県のホームページで見ることができます。
和解条項を曲解する動き
花輪伸一さん11・22新宿デモ 和解条項の9番目は「(新たな)訴訟判決確定後は、直ちに同判決に従い同主文及びそれを導く理由の趣旨に沿った手続を実施する」となっています。これをもとに「沖縄は、裁判に負けたら基地建設を全面的に受け入れなければならない、そこでまた反対するのは、違法で身勝手だ」というような曲解あるいは誤解に対して、私たちは十分に警戒し反論しなければなりません。

和解条項にもとづき再び裁判(是正指示の取消訴訟)になったときに争われるのは「2015年10月13日の翁長知事による公有水面埋立承認の取消」の可否だけです。仮に裁判に負けたとしても「埋立承認の取消」が取り消されるだけです。知事が埋立と基地建設を受け入れなければならないということではありません。まだ、埋立承認の「撤回」や知事権限のおよぶ設計概要変更申請、土砂運搬方法、仮設道路設置、美謝川切り替えなど、また、名護市長権限による辺野古ダム、漁港の管理など、工事を止める手段は残っています。これらは和解勧告にあるように強力な権限です。
工事中断の間になすべきこと
工事が中断されている間に、辺野古新基地建設を中止させるために私たちは何をしなければならないのか、これを明らかにして実行することが大きな課題です。佐藤学沖縄国際大学教授は「巨額の資金を費やす辺野古新基地が日本の安全保障政策として意味をなさない、在沖海兵隊が尖閣諸島での戦闘に直行することはない、巨大な嘉手納基地がある沖縄が安保の応分以上の負担をしていることなどの事実を、広く国民世論に訴える機会として使わなければならない」と指摘しています(琉球新報3月6日)。
沖縄意見広告運動として
第7期の沖縄意見広告運動が始まっています。昨年は、7218の個人・団体の皆さまのご参加により、琉球新報、沖縄タイムス、朝日新聞、ワシントンポスト紙ウェブ版に意見広告を掲載し、さらに「辺野古基金」に協力して「ヘリ基地反対協」と「島ぐるみ会議」を広告主として、8月末~9月初めに合計51紙の地方紙・全国紙に全面広告(3種類)を掲載しました。
意見広告運動は、工事中断の間に、全国の市民の方々へ直接「辺野古の基地はいらない!」というメッセージを伝えることができます。第7期も、皆さまからの厚いご協力・ご支援をいただけるよう、心からお願い致します。

※沖縄意見広告運動ニュース3月25日号より転載。見出しは編集部にてつけました。

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