関生支部の歴史と日本労働運動の未来(下)/木下武男(元昭和女子大学教授)

木下武男さん

木下武男さん

連帯ユニオン関西生コン支部は1965年結成以来50年になる。これを記念して、これまでの闘いの軌跡を記録する50年誌を刊行し、その記念シンポジウムが東京と大阪でそれぞれ開催された。前回の記事に引き続き、東京シンポジウムで行われた、社会学者の木下武男さんによる記念講演の後半をお送りする。(コモンズ編集部)
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前号からのつづき

4 戦後労働運動の現地点
労働者の組織率とストライキ参加者数

労働者の組織率とストライキ参加者数



 日本の労働運動でゆっくり落ちているのは組織率です。劇的に下がっているのは、半日以上のストライキに参加した人数と日数です。1975年、スト権ストの敗北、春闘の敗北を契機にして、労働組合の力は低下しグラフの横軸に向かって落ちていきます。資本によって民間大企業の労働組合は鎮圧されてしまった。それは1975年より前のことです。労働統計を見ますと2011年ころには少しだけストがあった事がわかりますが、実はこれは関西生コンを中心としたストです。それほどに、日本の労働運動はひどい状態になっています。

 次のグラフ(加盟団体別単位労働者の推移)をご覧下さい。戦後労働運動のナショナルセンターですけども、一番左に産別会議というのがありました。それから総評、同盟、中立労連。これらが一緒になって連合となる。その下に全労連、全労協。これがまた横軸に向かって低下しています。
加盟団体別単位労働者の推移

加盟団体別単位労働者の推移

産別会議や総評や全労連や全労協などが衰退し解体し、組織率が低下していっている。いろいろ問題があったとしてもこれはたいへんなことです。

 「これは必然的な現象だ」というのが下の「適用法規別組合員数の推移」のグラフです。三公社五現業が激減したのは、国労への攻撃等が理由ですが、その上、地方公務員が激減しています。1995年から2000年を境に劇的に下がっています。これは非常にまずい。なぜかというと、官公部門の組合員比率をみると、連合が15・9%、全労連が48・1%、全労協が50・1%と、全労連と全労協は5割近くが公務員なんです。自治体の構造改革による公務員の臨時職員の増大で、全労連・全労協共々非常にまずい状況にあるということがおわかりと思います。現時点で、私は関西生コンの歴史的教訓を糧として拡げていこうという事が重要だと思います。

5 「関生方式」による日本労働運動の再生―業種別職種別ユニオン
適用法規別組合員数の推移

適用法規別組合員数の推移


 「関生方式」による日本労働運動の再生が問われている。それはシンプルな再生方法です。
  1. 労働運動はほとんど存在していない。大企業の社員はほとんど労使協調の組合に制圧されている。残るは公務員ですが、それはどんどん減っている。
  2. だから労働者の誰もが未組織労働者なんですね。
  3. だから労働運動の再生は未組織労働者の組織化と同じことなんです。
  4. どうせつくるなら、企業別労働組合ではなく産業別職業別ユニオンを作ろうではないか。
  5. それがジェネラル・ユニオンと密接な関係にある。
 こういう事を考えなければならないところに来ていると思います。

 「本当の労働組合」を企業別労働組合の外につくるというのが、私の「外部構築論」であります。つまり、企業別組合の改革を労働運動再生の前提条件にしない。企業別組合の改革を先行しないということです。これは歴史的に見ると、そういう方向にアメリカもイギリスも進んでいます。世界産業労働者同盟(IWW)1905年当時、1920年ころ職業別組合というのがあって、その外に産業別労働組合を作るといった考え方でした。「smashing from without」(外から粉砕する)という路線を掲げて闘った人たちがいます。
 IWW(世界産業労働者同盟)という組織が1905年に結成され、写真は1912年の争議です。未組織労働者の組織化、そして工場の争議を通じて先鋭な運動をアメリカやイギリスの労働運動はやってきたわけです。日本はまだまだやりきれていない。この写真の左側は州兵ですね。右側の労働者たちは腕組みをしながら州兵の銃剣にストライキで立ち向かったことで有名です。

労働力商品の集合取引

個人取引(自由競争)を抑制することで雇用と生活が守られる

 関生型労働運動あるいは産別労働運動をあえて業種別・職種別と分けたのは意味がありまして、「業種別」に団体交渉をします。そして「職種別」というのは共通規制です。つまり本当の労働組合の根本であった「集合取引」と「共通規制」を業種別・職種別ユニオンという形で表現しているわけです(前号参照)。
 業種別・職業別ユニオンの典型はプロ野球労組です。2000年代の衰退する労働運動の中で光を放つふたつのストライキ、これは2004年のプロ野球労組のストライキと関西生コンを中心とした2010年のストライキです。
 プロ野球選手という「職種」に対して、プロ野球機構という「業種」の経営者と交渉するわけです。こういう労働組合をつくろうということです。

6 ジェネラル・ユニオン戦略と日本労働運動の未来

 そしてジェネラル・ユニオン戦略の中でこういう運動を位置付けていけば、労働運動の未来が見えて来るのではないか。
ロンドン港のストライキ ジェネラル・ユニオンというのは、職業別労働組合という、徒弟制度の熟練労働者である親方の労働組合です(前号参照)。エンゲルスが目撃したのがこれです。ところがそれが保守的となり、他の一般的な労働者を組織しないようになっていきました。それを打破していったのが1889年のロンドン港の一般労働組合のストライキでした。これを目撃した老エンゲルスは「イースト・エンドの目ざめこそ、この世紀末最大の、最も実りゆたかなできごとのひとつであった。私は命あってそれに出会ったことを誇らしく、またうれしく思う。マルクスが生きて、これを目にすることができたなら!」という文章をマルクスの姪に書き送っています。また彼女に対して「ドック・ストライキでのあなたの活動がうらやましい。私はこの活動にくわわることのできる人たちを再度うらやむ」と。なぜかというと本人がロンドン・ドックのストライキをさんざんしたからですね。
 重要なのは、この時のストライキはたいへん大きなものだったということです。先進的な労働運動ボランティア、活動家集団が行なった。だから企業別の労働組合が指令に基づいて行なうのではなくて、やがて労働運動ボランティアが労働運動の衰退を切り返すことができると思います。

 企業別組合から「残された領域」(広大な)
産業別労働組合の構造

産業別労働組合の構造


 ジェネラル・ユニオン方式というのは、企業別労働組合から取り残された広大な領域を組織するということです。ホブズボウムという有名な歴史家は「職能組合が上層部で確立されていた産業の低階層、組合運動の局地化によって無視されていた全地域」と言っています。例えばイギリスには建設労働組合がありますが、建設労働者の上層に位置している熟練労働者が加盟しています。下の方は昔の運輸一般にあたる組合を組織しています。つまり産業の中の大企業は企業別組合の連合系です。そして下は未組織労働者です。ここに企業別組合とジェネラル・ユニオンという対抗的なものを構築していくというように導き出されるのではないかと思います。

 ジェネラル・ユニオンの根本=「トレード・グループ」(業種別・職種別部会)

 ジェネラル・ユニオンというのは誰でも入れるんですけれども、そこには「トレード・グループ」という、業種別・職種別別部会というものがありまして、そこに入る。関西生コンだとか、圧送だとか、バラセメントだとか、いろいろな業種がありますが、やがてそれがひとつの大きな労働組合になっていく、というのがイギリスの労働組合の歴史です。
 そういう風に考えますと、今日の業種別・職種別ユニオンというのは未来のトレード・グループなんです。だから未来の巨大な全国的ジェネラル・ユニオンのパーツを作ることなんです。関西生コンもパーツです。これからいろんなところでできるであろういろんな組合もそれぞれパーツとしてそれぞれ呼応し合いながら、全国的なジェネラル・ユニオンを作っていく。これが1989年体制です。いま連合、全労連、全労協という3つが分立して立っています。これに対して本当のユニオンのジェネラル・ユニオンができるならば、1989年体制を揺るがすことができるだろう。まだ遠い遠い先の話ですが。

 受け継がれる「関生」の歴史的教訓

 1点目は関西生コンから圧送業界へ、バラセメント業界へと拡がっていく流れです。セメントを運ぶバラセメント、生コンを作って輸送する生コン運転手、そしてそれを圧力をかけて型枠の中に流し込んでいく。圧送は土工、建設産業の専門部なんです。もしも関西生コンの方式で建設産業もやるとしたら、日本の巨大な建設産業にも関西生コン方式の労働組合が拡がっていくでしょう。
 2点目は自治体の臨時職員の中に業種別職種別での結集の動きが見られまして、東京でも出来ています。彼らの中心メンバーは『季刊アソシエ』の関西生コン特集を読んで学習しています。関西生コンの教訓はあらゆる壁を超えて拡がっています。
 3点目は「ブラック企業」対抗ユニオンが出来ていまして、詳細は省きますが、個別の紛争から業種別運動へ拡がっています。これは「たかの友梨」の争議から始まったエステシャンユニオンや、個人指導塾ユニオンなどが闘っていて、テレビなどでも紹介されています。その中で「フツーの仕事がしたい」という映画にもなった、関西生コンのあの雨の中の社前集会に参加した人が自分も起ち上がり、15人の仲間を連れて個人指導塾の社前集会をやって頑張っています。
 このように、関西生コンが作りだした新しい労働運動は世代を超え、ナショナルセンターを超えて拡がっているのを観る時、日本でも新しい可能性が広がっていると感じます。

 最後に申し上げたいのは、「あだ花」を咲かせる土壌はなくなったということです。終身雇用、年功序列賃金という体系は本当の労働組合とは言えない。戦前、アメリカに行き、AFL/CIOの資格を持って戻って来た高野房太郎らによって作られた労働組合期成会が本当の労働組合です。それはやがて戦後、終身雇用、年功序列賃金体系のもとで変質し、企業別労働組合となってしまった。
 こんどはそういうものじゃなくて「本当の花」を咲かそう。種はもうだいたい関西生コンによって作られています。あとは種をまく人によっていろんな業界にまいてゆくことが必要です。この事によって日本の労働運動再生の希望が見いだせるのではないかと思います。(以上)

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