消費税は廃止すべきだ(前)/大内秀明(東北大学名誉教授)

「消費税は廃止すべきだ!」<前>

「出遅れの消費税導入」での誤り どこに安定的財源を求めるか?

大内秀明(東北大学名誉教授)
大内秀明さん

大内秀明さん
(東北大学名誉教授)


(本稿は、前後2回に分けて掲載します。見出しは編集部責任による)
                       
 東日本大震災から5年、またもや九州の熊本・大分の大地震、地震列島・日本の惨状をまざまざと見せ付けた。犠牲者、被災者には、心よりお見舞い申しあげたい。震災で混乱の中、日本の政治もまた、混迷と激動を続けているが、どこへ行こうとしているのか?
 
 まず、アベノミクスの成長戦略の柱と声高に喧伝されてきたTPPだが、司令塔だった甘利前大臣のスキャンダルもあったが、今国会での承認案と関連法案の成立は断念された。漂流するTPPと甘利疑獄は今後どうなるのか?
 さらに5月末に開催予定のG7伊勢志摩サミット、その前後に懸案の消費税の税率アップも先延ばしにするらしい。消費税の8%から10%への税率アップ先延ばしは、2度目になる。そもそも社会福祉の財源に充てるべき消費税である。税率アップの先延ばしは、取りも直さず社会福祉の先延ばしであり、福祉の足踏みと後退が続くことを意味することにならないか?
     ◆
tax 1989年の3%導入時から、消費税は政治的な騒動の種だった。今度もまた、安倍首相は2014年11月、消費税10%への増税を、2015年10月から2017年4月に延期したのを、さらに再延期する。
 政治的責任もあるだろうが、こんなに混乱や延期を繰り返す消費税は、この際思い切って廃止にしたらどうか?不安定な消費税を財源とした福祉社会は、不安定な福祉社会に他ならない。福祉社会の安定のためには、安定した財源による福祉社会の再構築が不可欠だからである。

 実は、導入の時から、消費税には大反対だった。当時のNHKのテレビ討論にも参加して反対論を主張した経験もある。反対の理由は、贅沢品を中心に課税していた当時の物品税と違って、消費税はサービスにも課税され、広く貧乏人の消費に課税される逆進性が強い。大衆課税の弊害が大きい。
 それだけではなく、3%から出発するが、麻薬と同じで、次から次に税率をアップし、止められなくなり、放漫財政で破綻する危険性を感じたからである。3%が5%、5%が8%、そして10%へと税率を引き上げることになり、「福祉国家主義」を助長しかねないと思ったからだ。
     ◆
VAT大型間接税 心配したとおり、税率アップを繰り返し、アップと延期の悪循環に陥っている。しかも、消費税は福祉の財源といいながら、1%分を地方財源に廻したり、一方で税率アップをしながら、他方で法人税を減税するなど、福祉の充実に使われているとも言えない。むしろ福祉の充実を口実にして、実際は放漫財政によるバラマキが助長されているのだ。
 消費税は、いまや世界最悪とも言われる日本の借金財政の促進剤の役割を演じている。こんな消費税を抱え込んでいる限り、福祉国家は借金財政の頚木(くびき)から逃れられないまま、国民は債務奴隷に身を沈めることになるだろう。
     ◆
 1980年代後半、日本でも消費税を導入しようとの機運が生まれ、大型間接税などの議論があった。そうした中で、ヨーロッパで導入されていた付加価値税がモデルとされたのだ。
 例えば、社会民主主義による福祉国家の実現も目指され、それはイギリス労働党政権の「ゆりかごから墓場まで」の福祉国家の理想像に他ならない。大きい福祉国家のためには、大きな安定的財源が必要であり、そのためには大型間接税の付加価値税が適している、そんな理屈だった。
 消費税は、当時政権党だった自民党だけでなく、野党の一部にも導入賛成の機運が高まっていた。社会民主主義の「大きな福祉国家」主義である。
     ◆
スタグフレーション図解1 こうした消費税導入の高まりの背景には、70年代の2度に及ぶ石油ショック、それによる狂乱型インフレと経済成長の行き詰まりがあった。戦後、日本も同じだったが、アラブの安価な石油に依存した西側諸国の高度成長は行き詰まり、同時に石油値上がりの狂乱インフレとなった。
 当時は、狂乱インフレと停滞・低成長の共存、つまり「停滞」stagnation と「物価高」inflation を組み合わせた造語 Stagflation(※編集部注:スタグフレーション=不況とインフレの同時進行現象)が流行語となっていた。

 成長が停滞し所得が伸びなければ、所得税は上がらない。インフレ物価高で金融資産など資産価値が下がり、資産課税も進まない。Stagflation は、西側ヨーロッパ諸国の経済、特に財政に大きな打撃を与えたのだ。それに対抗するのが付加価値税 VAT=value added taxだった。
     ◆ 
 なぜ、付加価値税が Stagflation への財政対応として有効だったのか?
 それは簡単なことで、モノであれサービスであれ、広く課税できるし、インフレ物価上昇に対しても、一定の税率を決めておけば、インフレに従って自動的に税収が増加するからである。高成長に依存する所得税の行き詰まりを打開するには、もってこいの税だったわけである。
 最初の導入は1954年フランスだったがこれは例外で、70年代を迎え71年ベルギー、73年イギリスと次々にEU諸国を中心に導入されたのである。
 しかし、逆進性もあり、アメリカでは州税としては同種の税があったものの、連邦税には採用されなかった。アジア諸国もまた、付加価値税型の消費税の導入は遅れ、日本でも80年代、その後半になって導入の機運がようやく高まった。
スタグフレーション風刺画     ◆
 このような経緯をみれば、付加価値税型の消費税導入は、70年代の Stagflation への税制の対応、とりわけ西欧社会民主主義の福祉国家主義の「大きな政府」に代表される対応と言えるだろう。とすれば、80年代を経過し、石油ショックの狂乱型インフレが収束し、とくにバブルが崩壊して本格的な stagnation への転換局面での税制とは言えない。
 日本経済は、そうした経済環境の中で、文字通り「出遅れの消費税導入」を選択したことになる。3%という低い税率では、それまでの物品税と比べて大差ない税収でスタートしたのも、まさに時代遅れの消費税だったからではないか?この不幸な消費税の選択が、今日まで政治的混乱の種となっているのだ。(次号につづく)

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