映評】映画『永遠のゼロ』についての考察 by まっぺん

■大ブレイクした戦争映画
映画『永遠のゼロ』
 映画『永遠のゼロ』が大当りしている。昨年12月21日公開わずか2日間で42万人が映画館に足を運び、それ以来、観客動員数は6週連続第一位。1月29日には遂に500万人を突破した。興行収入も60億円を超え、『レ・ミゼラブル』(61億)、『スター・ウォーズ エピソード6』(63億)、『ハリーポッターと死の秘宝』(68億)等と肩を並べる勢いだ。

 映画がブレイクする前に原作が超ベストセラーとなっている。2009年に講談社から文庫本で出版され、2012年にミリオンセラー、昨年12月には300万部を突破、400万部に迫る勢いである。これは文庫部門どころか、あらゆる部門を通じて空前の記録である。

■作者は右翼思想の持ち主

 しかしこの作品は激しい議論の的になっている。それは原作者の百田直樹が従軍慰安婦や南京虐殺を否定し、日本のアジア侵略の歴史を教科書から抹殺するよう要求する右翼思想の持ち主だからである。『パッチギ!』などで知られる井筒和幸監督はこのの作品を特攻賛美だと憤慨している。井筒監督の言うように、これは単なる戦争賛美のくだらないプロパガンダ映画なのだろうか。ならばこんなにヒットしているのは、庶民のあいだに極右思想が浸透しているからなのだろうか。

 私はそうは思わない。典型的な右翼映画と比較すれば分かる。東条英機賛美の『プライド』は15億も使って興業収入18億。日本軍を植民地解放の英雄にねつ造した『ムルデカ』などはわずか5億止まりである。『永遠のゼロ』はこれらの安っぽい三流映画とは比較にならないほどの感動を多くの観客に与えているのは確かだ。「映画ドットコム」や「ヤフー映画」には数千人からレビューが寄せられ、関心の深さを示している。

 作品を作者の人格や思想によって評価するのは偏見である。作品は作者の占有物ではない。どんな作品もひとたび世に出れば、多くの人びとの批評の目にさらされ、新たな評価が定着してゆく。だから「良い作品かどうか」は、作品そのものによって決まるのだ。

■何が人々を感動させたのか映画『永遠のゼロ』

 26歳の青年・佐伯健太郎は、祖母・松乃の死をきっかけに、祖父から実は血のつながった本当の祖父が別にいた事を知らされる。彼は同じ26歳の若さで特攻で死んだ。健太郎は戦友会などを尋ね歩くが、祖父・宮部久蔵の評判は悪かった。戦友たちは皆口々に「臆病者」と非難する。しかしやがてその理由が明らかとなる。宮部は松乃に「自分は絶対に生きて帰ってくる」と固く誓っていたのだった。

 宮部は戦友や部下たちにも、少しでも生き残る可能性があるなら絶対に希望を捨てるなと言い続けた。国家のために命を捧げる事を強要された当時では相容れられない、真っ向から対立した考え方であるが、それが宮部を特攻へと追いつめてゆく。

 宮部の部下の一人が訓練中に事故で死んだ時、死者を罵倒する上官の姿はまさしく国家主義を体現している。人の命を虫けらの如く扱う国家主義者に立ち向かい、個人の尊厳を守ろうとする宮部の姿に観客は共鳴するのである。

■人間の尊厳は国家より重い

映画『永遠のゼロ』 物語は60年の時を超えて過去と現代とを行き交い、進行してゆく。そこに戦争についての特定のメッセージはない。だからこの作品は「戦争賛美」とも「反戦映画」ともいえない。だがこの作品は百田のいかなる思惑にも関わらず、「人間の尊厳は国家よりも重い」というメッセージを我々に伝えてくれる。

 映画を観て感動したという安倍首相は、基本的人権を国家の許容する範囲に限定しようとしている。まさしく「人権よりも国家」である。だからこの映画は安倍とも対立しているのだ。時代に逆行する国家主義者・安倍晋三のこのような企みを、はるか60数年の時空の彼方から宮部久蔵が拒絶している。

 戦争と国家主義という逆境を乗り越え、人間の尊厳と夫婦愛の気高さを高らかに謳いあげるこの作品は、「反戦映画」へと成長する可能性を秘めている。多くの観客が自分の流した涙の意味を本当に噛みしめたとき、それは可能となるだろう。



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