緊急事態条項改憲とは何か?(4)参院選の重要な争点「緊急事態改憲」とはどのような経緯で語られるようになったのか?/永嶋靖久(弁護士)

参議院選挙の重要な論点をさぐる 憲法・絞殺の企みを打ち砕こう

麻生太郎

当時民主的と言われたワイマール憲法の下でナチスは政権を取り独裁
制を築いていった。自民党・麻生太郎は「このやり方に学べ」と言っ
たが、まさにそれが今、安倍政権によって現実になろうとしている。


前号からのつづき) 憲法に停止ボタンをつける。それが緊急事態条項改憲だ。戦争が始まれば停止ボタンが押される。いつ戦争を始めるかは密室で決まる。戦争を始めた理由は明かされない。戦争以外、どんなときにボタンが押されるか、それも自公が国会で好きなように決める。
 緊急事態条項がなければ緊急事態に何もできない、だから平時に緊急時の議論をすべきだという意見がある。あるいは緊急事態条項がなければ権力者は緊急事態に何をするか分からない、だから平時に緊急時の議論をすべきだという意見がある。
 しかし、改憲は、社会から切り離された実験室の中でおしゃべりされているのではない。もし憲法を制定する権力が移行するような改憲があれば、それは暴力によるものであろうとなかろうと革命だ。権力移行とまで言えないような改憲でも、それはやはり政治的経済的な激動から生まれる。

この改憲はどのような情勢の中で語られているか

自衛隊海外活動拡大の軌跡

(独立メディア E-wave Tokyoより)

 1945年、第2次世界大戦で日本は無条件降伏し、連合国軍の占領下で日本国憲法が制定された。その9条は戦争の放棄・戦力及び交戦権の否認を定めた。
 1950年(この年朝鮮戦争、前年に中華人民共和国成立・NATO成立)、自衛隊の前身、警察予備隊が発足して以降、どう見ても憲法9条に違反する軍事組織が日本に存在してきた。アクロバットのような解釈を積み重ねながら、自衛隊は今や事実上の空母を保有するほどまでにその装備を強大化させ、武器輸出は解禁され、安全保障会議という名の戦争司令塔が作られた。

 1991年(湾岸戦争とソ連崩壊の年)ペルシア湾への掃海艇派遣に始まる自衛隊の海外派兵は、その後またたく間に世界中に広がり、2011年ジブチにもうけられた自衛隊拠点は,拡大・強化の一途をたどっている。それでも、自国が攻撃を受けた場合以外には武力行使は認めない、だから憲法違反はないと強弁されてきた。
 しかし、2014年、安倍政府は憲法解釈を変えた。日本に対して外部からの武力攻撃がない状況で他国の軍事作戦に参加することも禁じられていない、と。続いて、昨年、新たな日米防衛協力のための指針が承認され、戦争法が成立した。

進行する憲法無視の終着点としての改憲

 2007年1月1日、経団連は「希望の国、日本」を発表している。そこには「2010年代初頭までに、新しい時代の日本にふさわしいかたちに憲法が改正されている。」「改正にあたっては…自衛隊が主体的な国際貢献をできることを明示するとともに、国益の確保や国際社会の安定のために集団的自衛権を行使できることを明らかにする。同時に、憲法改正要件の緩和を行う」とある。この年、安倍政府は改憲手続法を衆参本会議で強行採決して成立させた。

 「国益の確保」と「国際社会の安定」のため、グローバルで切れ目のない日米の軍事的一体化がいっそう必要とされている。しかし、そのためには憲法9条がジャマだ。
 ジャマなのはそれだけではない。国民主権とそれに基づく代議制民主主義(国民の意思は議会に代表される)の思想、基本的人権の保障等々、日本国憲法の基本原理のすべてが権力を持つ者にとってジャマになっている。

政府批判はテロ認定(石破) 自民党参院国対委員長や幹事長を長く務めて、この夏、議員を引退する脇雅史は「政界全体がダメになっている。国会の言論は死んでいる。」と述べた(お前が言うな!)。代議制民主主義は「決める政治」にジャマだ。法的安定性も関係ない。戦争法とともに制定され、あるいは制定されようとしている秘密保護法、盗聴法改悪、共謀罪などなど、どれも憲法が保障する権利を大きく侵害している。秘密保護法制定に反対する市民のデモを、自民党の幹事長は「テロと本質的に変わらない」と非難した。自分たちの思い通りに政治を進めるには、市民の政治的自由もジャマだ。

 1955年の自民党結党の初めから、改憲は党綱領の中心にあった。しかし、衆参両院で改憲に必要な議席数を得ることができないため、今まで明文改憲できなかった。憲法はジャマだけれど変えることができないから無視をする。そういう政治が続いてきた。
 ただし、経団連でさえ9条を取り換えない限り、自衛隊と同盟軍一体の作戦行動はできないと考えていた。けれど、憲法を取り換えないまま戦争法が制定された。憲法学者はこぞって違憲だと言っている。文字で書かれた憲法明文と政府が言う憲法解釈が限界を越えてかけ離れてしまった。さすがに、憲法を取り換えないとこれ以上進めない。

この改憲はなぜ緊急事態条項改憲なのか

8月30日、戦争法成立阻止のため国会を包囲する民衆

8月30日、戦争法成立阻止のため国会を包囲する民衆

 日本と世界が大きく変わる中で、長い長い時間をかけて憲法の死文化がゆっくりと進んできた。最終的な憲法の全面取替えに向けた制度や運動が準備されてきた。自民党も姿を変えた。

 2012年4月、自民党は改憲草案を発表した。同年12月の衆院選で、自公は、比例区の得票合計が全有権者の4分の1にも及ばないのに,全議席の3分の2を手に入れた。安倍政府は、まず、改憲の手続的ハードルを低くして全面改憲を図ろうとした。憲法96条の改憲だ。ところが、どうやらこれは支持を得られそうもない。閣議決定で憲法解釈を変えて強引に戦争法を成立させたが、国会は10万余の市民に取り囲まれてしまった。

 そこで緊急事態条項改憲が出てきたのだ。今はまだ国会や市民の闘いが政府へのブレーキになる可能性がある。憲法に停止ボタンを付けて、それを押してしまえば、何より簡単に、面倒なく、しかも全面的に日本国憲法を終わりにできる。結局、緊急事態条項改憲に至る議論は、日本国憲法を、どこからどうやって壊すのか、という議論なのだ。

緊急事態条項改憲の先に何があるか

自民党参院選ポスター

「この道」を前へ進めさせてはならない

 第一次世界大戦を終わらせたドイツ革命が鎮圧されてワイマール憲法が生まれた。世界大恐慌に入ると、国会が正常な立法活動をできないという理由で、ワイマール憲法の認める大統領緊急命令が繰り返された。憲法は静かに変遷し、その終着点が1933年ドイツ全権委任法(正式名称「民族および国家の危難を除去するための法律」)だった。第1条「国の法律は、憲法に規定されている手続き以外に、ドイツ政府によっても制定される。」は、自民党改憲草案が定める緊急事態宣言下の「特別政令」にそっくりだ。
 全権委任法制定の翌年、ゲッベルス宣伝大臣はこう演説した。「ドイツは無秩序によって覆いつくされたと諸外国が信じようとも、ドイツ民族はそれに対して唯一の叫び声でもってこたえるでしょう、『われわれすべては、われわれの指導者が行う一切の行動を常に正しいものとして承認する』と」。

 法なき支配が完成する。人の支配が法の支配に取って代わる。権力を持つ者は法の上にあり、何ものにもしばられない。ナチスドイツだけの話ではない。1945年敗戦前の日本も変わりない。その行き着いた先はどのようなものだったか
 そして、今また、1%のための1%による法なき支配、例外状態の恒常化が世界中で進んでいる。安倍政府に緊急事態条項改憲を許したとき、日本もまた、新しい戦争への、あともどりできない道を歩み出すことにならないか。
 「この道を、前へ」進ませてはならない。

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