イギリスのEU離脱と新自由主義の行方/大野和興(ジャーナリスト)

イギリスのEU離脱と新自由主義の行方

/大野和興(ジャーナリスト)
反EU感情の背景にはグローバリゼーションへの「嫌悪感」がある

反EU感情の背景にはグローバリゼーションへの「嫌悪感」がある


 イギリスのEU離脱については、いろんな見方がある。懐かしの大英帝国への郷愁説からイギリスナショナリズムの発現説、移民問題の飛び火警戒説などなどさまざまだ。国民投票の結果、離脱が決まったとたん、それを批判する言説がメディアを踊った。
 しかし、離脱賛成の投票行動からは、いま世界を席巻しているグローバリゼーションへの批判を読み取ることができる。「批判」というよりももっと直截的な感情である「嫌悪感」とか「うんざり感」といったほうが適当かもしれない。投票結果に流れるこのいわば庶民感情ともいえる側面に、わたしたちはもっと注目しなければならないのではないか。(大野和興)

◆ ◆ ◆

レーガン・サッチャー・中曽根 1980年代初頭、イギリスのサッチャー首相、アメリカのレーガン大統領、日本の中曽根首相が先頭にたって推進した新自由主義のイデオロギーは、すべてを市場に委ね、市場の決定を最優先するというものであった。
 こうして動き出した新自由主義的グローバリゼーションが全面開花するのは、1989年、ベルリンの壁が壊され東西冷戦が終結、世界が一つの市場になってからである。東側市場に穴があき、世界市場が登場した。

 競争に勝利した資本主義陣営は、どんなに経済的搾取を強め、社会不安が高まろうと共産主義の浸透をおそれる必要がなくなった。難航していたGATT(貿易と関税に関する一般協定)の最後の多角的貿易交渉ウルグアイ・ラウンドは、東西冷戦終結とともに動き出し、1993年末妥結に至る。その後の動きは周知のとおりである。
 1995年、GATTに代わる、より強力な自由貿易推進機関WTO(世界貿易機関)が発足、ドーハ・ラウンドが始まるが、グローバリゼーションがつくり出した世界の分断と不均衡発展によって交渉は行き詰まり、いまではWTOそのものが機能不全に陥っている。代わって主役に躍り出たのが二国間、地域内のFTA(自由貿易協定)である。

◆ ◆ ◆PoorWhite

 いま世界は多層多重なFTA網が張りめぐらされ、WTO発足時に想定されたグローバルな自由貿易秩序形成とは異質の政治的経済的空間が出現している。TPPはその重要な一角を占めている。
 異質性とは経済民主主義の欠如のことだ。WTOは実質はともかく形式的には大国も小国も平等に1票をもつ。しかしFTAはTPPに典型的にみられるように、大国主導の経済的政治的秩序形成がめざされている。ある種の理想主義を掲げて積み上げられてきたEUもまた、グローバリゼーションの一角を形成するセンターの一つに変質していった。

 新自由主義的グローバリゼーションには二つの特質がある。
 一つは貧困と格差に拡大に伴って現れる分断である。国家も、コミュニティーも、家族も分断され、ついには個の心まで切り刻まれて社会と人間の破壊が進む。
 もう一つはグローバリズムとは一見相矛盾する国家主義との親和性である。新自由主義三人衆のサッチャー、レーガン、中曽根はいずれも強い国家を掲げる国家主義者だった。「TPPいのち」の安倍首相は国際スタンダードでは極右に分類できる。
 その一方でグローバリゼーションに反発する層の中にも国家主義に傾斜する勢力が存在する。TPP反対運動では国益論をかざして日の丸を掲げたネトウヨ排外主義者が登場した。
 国家主義の潮流は親・新自由主義派と反・新自由主義派にまたがり、両者は排外主義ということで共通性を持つ。

◆ ◆ ◆
EU離脱の混乱の責任をとって辞任したキャメロン首相後継に内相だった テリーザ・メイ(59)が就任、故サッチャー以来26年ぶりの女性首相に

EU離脱の混乱の責任をとって辞任したキャメロン首相後継に内相だった
テリーザ・メイ(59)が就任、故サッチャー以来26年ぶりの女性首相に



 イギリスのEU離脱という住民投票結果は、こうした状況の下で生まれた。その根底には分断と貧困化のもとで何層にも積み上がった矛盾がある。それはここ30年余り、世界の動かしてきた新自由主義の行き詰まりを示している。

 イギリスだけでなくヨーロッパ世界そのものが移民問題をめぐって二つの世界に分断されている。アメリカにはトランプが出現、人種問題が深刻な事態を迎えている。その根底にあるのはグローバル化のなかで増殖するプアーホワイトの存在だ。日本では、広範なリベラル層を抱え込んでいた自民党が壊れ、国家主義単色の異質な政党が国民の一定の支持を集めて政権の座を固めている。世界で頻発する「テロリズム」もその流れの上にある。

 新自由主義的グローバリゼーション、新自由主義的国家主義、そこから生まれた排外主義的国家主義に代わる選択を左翼・リベラルはどのように提示できるのか、イギリスのEU離脱が私たちに突き付けている課題は大きい。

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大野 和興

大野 和興ジャーナリスト

投稿者プロフィール

1940年生まれ、ジャーナリスト(農業・食料問題)。本紙編集委員、『日刊ベリタ』編集長、アジア農民交流センター世話人、脱WTO/FTA草の根キャンペーン事務局長、日本国際ボランティアセンター理事、国際有機農業映画祭実行委代表などを務める。『日本の農業を考える』(岩波ジュニア新書)、『食大乱の時代』(七つ森書館)、『百姓が時代を創る』(七つ森書館)、『農と食の政治経済学』(緑風出版)など著書多数。

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18:30 パレスチナ問題連続学習会/大阪 @ エルおおさか
パレスチナ問題連続学習会/大阪 @ エルおおさか
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パレスチナ問題連続学習会/大阪 @ エルおおさか | 大阪市 | 大阪府 | 日本
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11月
17
18:30 パレスチナ問題連続学習会/大阪 @ エルおおさか
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11月 17 @ 18:30 – 20:30
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12月
3
19:00 元陸自レンジャー隊員・井筒高雄さ... @ 元町映画館
元陸自レンジャー隊員・井筒高雄さ... @ 元町映画館
12月 3 @ 19:00 – 21:00
元陸自レンジャー隊員・井筒高雄さん講演会「元自衛官だからこそ語る 自衛隊を憲法に明記してはならない理由」/神戸 @ 元町映画館 | 神戸市 | 兵庫県 | 日本
元陸自レンジャー隊員・井筒高雄さん講演会 「元自衛官だからこそ語る 自衛隊を憲法に明記してはならない理由」 ■ 日 時:2018年12月3日(月)19:00~21:00(開場18:30) ■ 会 場:元町映画館2Fイベントルーム  〒650-0022神戸市中央区元町通4丁目1-12  https://www.motoei.com/access.html ■ 講 師 井筒高雄さん(元陸自レンジャー隊員) ■ 参加費:1000円   ※お申込みなしでどなたでもご参加できますが人数把握のためご連絡くださればありがたいです。  メール:civilesocietyforum@gmail.com まで。 ■ 主 催:市民社会フォーラム  http://shiminshakai.net/post/4784 ■ ご案内  安倍首相は9月3日、防衛省の自衛隊高級幹部会同での訓示で、「全ての自衛隊員が強い誇りを持って任務を全うできる環境を整えるのは、今を生きる政治家の責任だ。私はその責任をしっかり果たしていく決意だ」と述べ、憲法に自衛隊の存在を明記する改正に取り組む考えを改めて示しました。  10月から12月まで開会予定の通常国会でも、安倍首相は憲法改正の自民党案を提出し、早期の発議を目指す方針を明らかにしています。  はたして、自衛隊を憲法9条に明記すれば、日本の平和を保障することになるのか? 9条を現実に合わせて現状追認するだけのことなのでしょうか?  そして、有事があれば命がけで日本を守る自衛官たちも、憲法に自衛隊を明記することを望んでいるのでしょうか?  元自衛官の井筒高雄さんに、改憲発議がされようとする今、自衛隊を憲法に明記することの問題点についてお話しいただきます。 井筒高雄(いづつたかお)さん 1969年、東京都生まれ。 88年、陸上自衛隊第31普通科連隊に入隊。91年にレンジャー隊員に。 92年にPKO協力法が成立すると、武器を持っての海外派遣は容認できないとして翌93年に依願退職。 大阪経済法科大学卒業後、2002年から兵庫県加古川市議を2期務める。 元自衛官の立場から戦争のリアル、コスト、PTSD などリスクを 伝える講演活動を行う。 現在、ベテランズ・フォー・ピース・ジャパン(VFP) 共同代表。 共著に『安保法制の落とし穴』(ビジネス社)、単著に『自衛隊はみんなを愛している』(青志社)など

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