書評】武藤一羊著『戦後レジームと憲法平和主義』れんが書房新社

大日本帝国継承に向け暴走する安倍政権への根底からの批判

武藤一羊著 『戦後レジームと憲法平和主義』

大野和興(ジャーナリスト、本紙編集委員)

武藤一羊著 『戦後レジームと憲法平和主義』


武藤一羊著『戦後レジームと憲法平和主義』
れんが書房新社(2016)⇒Amazon書店で見る

 武藤さんとはお会いするたび、話をするたび、文章を読むたびに、ちょっとして興奮を伴った刺激を受ける。ああそう考えるのか、そんな分析の武器があるのか、といった、そんな感じの刺激なのだが、そこにもう一つの刺激が加わった。武藤さんはぼくより9歳年上の85歳になるはずだが、この年齢でこれほどの深い思索、知的冒険ができるのだ、という刺激である。まずそのことに感動した。尊敬します、武藤さん。

 武藤さんは戦後日本の国家原理を三つの原理で説明する。アメリカ帝国の覇権原理、憲法の平和主義・民主主義原理、大日本帝国継承原理(日本帝国の過去の行為を正当化し継承する原理)、である。この三つの原理の葛藤と矛盾の絡み合いの中で日本の戦後国家は成立してきた。本書は、この武藤戦後レジーム論を確認した上で、現在の政治状況の分析に入る。安倍政権論とアジア太平洋をめぐる地政学的分析である。

 安倍政権論の核心は、第三の原理「帝国継承原理」への日本国家の一元化への暴走だと武藤さんは説く。帝国継承原理は国のかたち=国体として戦後国家を陰から規定してきたが、それがいま公然を表に出てきた。1980年生まれの若き政治学徒大井赤亥は「密教の顕教化であり、国際社会が共有する歴史との衝突」とそのことを表現している(『季刊ピープルズ・プラン』73号)。
 問題は、私たちはこの状況に対し、いかなる対抗軸とオルタナティブを用意できるのかということだろう。武藤さんは次のように述べる。

「いいだももさんを偲ぶ会」で思い出を語る武藤さん(2011年6月)

「いいだももさんを偲ぶ会」で思い出を語る武藤さん(2011)

 「原理としての平和主義によって、私たちは安倍政権を倒す。それによって戦後国家に作り付けだった他の二つの国家構成原理の排除に向かう。それは、醜悪な野合をとげている帝国継承原理とアメリカの覇権原理を癒着のまま処分し、平和主義原理によって日本列島社会を組織しなおすことに踏みだすことである」(本書94ページ)

 原理には原理で対抗する。必要なのは「原理上の代案なのだ」と武藤さんはいう。明快な論理で、確かにその通りだと思う。しかしそれだけでいいのか、と鋭く批判を突きつけるのは女性史研究者の加納実紀代さんである。武藤さんの分析は納得できるが、それはあくまで「大文字の政治」の話であって、その政治を支えている、あるいは支えさせられている生活、女、家族、文化といった再生産のシステムに迫ることなしに、国家に対抗することはできないのではないか、と迫る(前掲『季刊ピープルズ・プラン』)。ぼくは加納さん派だな。この論争に参戦してみたい。

(「コモンズ」99号の目次にもどる)

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で

  1. コモンズ最新号目次

特集記事(ランダム)

  1. March_For_Our_Lives 命のための行進

    2018-4-26

    銃乱射事件から一ヶ月 全米で百万人が「命のための行進」

季刊「変革のアソシエ」No.32

最近の記事

  1. 「奴らを通すな!」差別・排外主義集団一掃への反撃体制を構築 全ての権力弾圧を許さず!怒り頂点 …
  2. 暑中お見舞い申し上げます
     大阪北部地震の被災者の皆様、西日本集中豪雨の被災者の皆様に、心からお見舞い申し上げます。  世界…
  3. 「生きる」相良倫子さん
    沖縄県は6月23日、「慰霊の日」を迎えた。73年前、アジア太平洋戦争最後の激戦地沖縄で20万人を超え…
  4. 山城博治さん
     「沖縄を救え」6・16 練馬集会(詳細記事別掲)における、山城博治さんの発言(要旨)を紹介する。 …
  5. 「沖縄を救え」6・16 練馬集会
     6月16日(土)、「沖縄連帯ひろば」主催、「高江と辺野古を守りオール沖縄と連帯をする会」共催により…

職場・労働相談はこちら(外部リンク)


連帯労組の闘い ↑ 映画「フツーの仕事がしたい」より 労働相談は連帯ユニオン

特集(新着順)

  1. 2018-7-16

    大阪中央公会堂 6・23 総決起集会 「奴らを通すな!」響き渡る1150名のコール

  2. 史上初の米朝首脳会談

    2018-7-11

    史上初の米朝首脳会談と「共同声明」を歓迎する

  3. 連帯と公正

    2018-6-25

    連載6】競争と分断の共進化から 連帯と協同の共進化へ-組合と経営者の協働による連帯経済/斎藤日出治

  4. 悪法強行採決に声を失う過労死遺族代表

    2018-6-21

    現場から】心身を蝕む長時間労働の実際-安倍「働き方改革」法批判

  5. 2018-6-19

    著名人・言論人・ジャーナリストが大阪広域協に抗議声明

バックナンバー

カテゴリ一覧

本日
昨日
累計
FROM 2014/01/01
ページ上部へ戻る