時代が求める日本労働運動の再生に向けて(1)業種別職種別ユニオンの構想
/木下武男(元昭和女子大教授)

時代が求める日本労働運動の再生に向けて(1)業種別職種別ユニオンの構想/木下武男(元昭和女子大教授) 労働社会学者(元昭和女子大教授)木下武男 ※文中の太字、下線は編集部によります。

木下武男さん

木下武男さん

 賃上げと安定した雇用は完全に過去のものとなり、貧困と過酷な労働が長らく日本を支配している。改善の兆しはいくらたっても見えない。いかり、いらだち、あきらめ、出口のみえない陰うつな空気が日本を支配している。何故こんなことになってしまったのだろうか。

 労働運動は政府の悪政や経営者の悪辣な働かせ方のせいにしたがる。政府や経営者が悪いのは言うまでもない。
 だが大きな責任は労働組合にある、労働組合は貧しい虐げられた者たちが身を守り、生きるための武器としてつくられた。欧米の労働運勅の歴史はそのことをおしえている。

郵政非正規社員65歳解雇無効裁判・レイバーネットより 責任があるとしたのは、日本の労働組合はその武器の役割をはたしていないからだ。それはあたりまえのことで、日本に特有の企業別組合は年功賃金にもとづいた企業内の従業員の賃上げのためにある。働いても貧しい貧困層(ワーキングプア)は企業の外にいる。中で働いている非正規社員は組合員ではない。働く貧困層は日本の労働組合運動から放置されつづけてきたのである。

 反貧困のユニオン運動のあり方が検討されなければならない。それは本当の労働組合を日本で創ることでもある。とりあえずはその労働組合モデルは、「業種別職種別ユニオン」の形をとるものと考えられる。その可能性は現実に広がっている。本稿はそれらを明らかにすることを課題にしている。

1、労働組合の根源的機能

●目撃証言による「本当の労働組合」

当時の労働者の運動には血の弾圧がつきものであった。(チャーティスト運動)

当時の労働者の運動には血の弾圧がつきものであった。
(チャーティスト運動)

 労働組合とは何か、このことについてはさまざまな意見が出され、議論もなされてきた。だが最も耳を傾ける価値があるのは、労働組合が生まれ出る瞬間をみた者たちの考えだろう。新しいものの出現は これまでにない異物の登場である。だから他との差異、 したがってその本質を理解することができたと考えられる。

 イギリスで1826年に、労働組合を禁止していた団結禁止法が撤廃され、それから労働組合運動は嵐のような勢いで発展した。その労働組合の発展の同時代人がマルクスであり、エンゲルスであった。マルクスは1818年生まれ、エンゲルスは1820年生まれであり、それぞれ40年代に労働組合について分析している。
 二人は社会主義の思想家で革命家でもあるが、ここでは労働組合の新しさについてつかんだ、ユニオニストとしての言葉を聞くことにしよう。エンゲルスは「イギリスにおける労働者階級の状態」(1845年)で労働組合の新しさについて述べている。

 それは発見だった。第一の発見は労働組合が雇い主と交渉していることだ。「親方が.組合によって確立された賃金を支払うのを拒否すれば、親方のところに代表団を派遣するか、請願書を提出する」。「これを見ても労働者が、絶対的な工場主のその小国家内における権力を認めるすべを、ちゃんと心得ていることがわかる」とつけ加えている。
労働闘争には血の弾圧がつきものであった。.jpg
 エンゲルスは労働組合が雇い主を交渉相手として認めて交渉し、約束させるやり方をとっていることに新しさを感じたのだ。今では当たり前のようだが、当時では新鮮なことだった。
 なぜなら、それまでは労働者は治安判事や地方議会に向けて賃金要求の陳情活動をしたり、機械を打ち壊すとの脅迫で雇い主に要求を実現させようとした。または相互扶助の団体である友愛協会での助け合いで生活を支えていた。しかし陳情でも脅迫でも助け合いでもない。交渉で物事を決めるというやり方だ。

 エンゲルスが強調した第二は、労働組合が「職業」を基準とした「同一貸金」の要求をしていることだ。つぎのように表現している。「『一つの職業の賃金は、すべてどこでも同じ高さにたもつこと』をはかった」。
炭鉱での児童低賃金労働

炭鉱での児童低賃金労働


 これは労働組合理解の核心部分にあたる。それは「一つの職業」つまりジョブ、今日では職権や職務など労働者かついている仕事のことだが、これを賃金要求の基準にしているからだ。
 日本の企業別組合のように、労働者の個人の属性、つまり、個々人のそれぞれの要素である年齢や勤続、性差、能力などを基準にしていない。これが企業別組合と「本当の労働組合」との違い、分かれ目である。なお、「一つの職業」=「同じ高さ」なのだから、これが今日、議論されている同一労働同一賃金の源流とみることができる。

 発見の第三は、労働組合がストライキという方法を使っている事だ
 労働組合は自発的な意思にもとづいて個人で加盟する自発的な結社である。当時でもこのことは自明だった。自発的結社とは、ある目的のもとで、決められた約束事を守ることで成り立っている組織だ。何の強制力もない労働組合が、仕事をしないという約束を仲間に守らせることで雇い主に打撃を与える。
ストライキ
 エンゲルスは、ストライキは「暴動の場合よりももっと大きな、それどころか、しばしばはるかに崇高な勇気」が必要だと驚嘆している。それは、ストライキになれば「妻子とともに貧困に」たち向かわなければならないからだ。

 このように雇い主と話し合いでの「交渉」と、仲間との約束による「ストライキ」、これが労働者の悲惨な状態を改善する労働組合の方法だった。
 それは後に詳しく検討するように、確立した資本主義にのっとった唯一の闘い方だった。なぜならば資本主義は雇用されて働き、賃金を受け取って生活を成りたたせる賃金労働者を生み出したからだ。
 労働力商品を高く売るために、労働組合は雇い主と商品の値段の「交渉」をする。受け入れなければ、一時的に商品を売らない、つまり「ストライキ」を行い、実現を迫る。資本主義を深く分析していたエンゲルスだからこそ、労働組合のシステムを見抜いたのだろう。

●労働者同士の競争規制

組合イラスト エンゲルスの三つの発見は新しい労働組合の行動を指摘しただけに過ぎない。マルクスとエンゲルスはさらに労働組合の根源的な機能を探り当てる。その機能を理解することで労働組合とは何かをつかむことができる。

 出発点は労働者の状態をどのようにみるかだ。二人は貧困で過酷な労働を強いられている当時の労働者の悲惨な状態を詳しく知っていた。しかし雇い主や政府を厳しく告発してはいるが、そこにとどまってはいなかった。
 問題は敵ではなく、労働の内部にこそあると二人は考えた。エンゲルスは 「労働者相互間の競争こそ、現在労働者がおかれている状態のなかでもっとも悪い面」であり、資本家の持っている労働者に対する「最も鋭い武器なのである」(1845)と指摘している。
 マルクスも「労働者の不団結は、労働者自身のあいだの避けられない競争によって生み出され、長く維持される」(1866)。労働者間闘争が不団結をもたらし、だから労働者の状態は悪くなるとみている。
仲間 組合
 労働者の状態分析の軸に競争をおいている。きわめで単純だが、根本的なことだ。なぜならそこから必然的に労働組合の機能が浮かび上がってくるからだ。競争による状態悪化、これをひっくり返すことで、労働組合の根源的な機能は自ずと明らかになる。
 エンゲルスは「組合と、これらの組合からおこってくるストライキ は.競争を廃止してしまおうとする労働者の最初の試みである」(1845)、マルクスは「労働組合は、この競争を止揚し、労働者間者の結合でこれに代わらせようとすることを、目的とする」(1847) と指摘している。
 つまり、労働者間の競争を規制するのが労働組合の根源的な機能ということになる。

●「共通規制」・「集合取引」の競争規制システム

ウェッブ夫妻

ウェッブ夫妻
イギリスの社会運動家。夫婦共に理論的指導者。革命による変革ではなく、言論と議会を通じて漸進的な社会変革を目指した。後に夫のシドニーは労働党内閣で商務相や植民相を歴任。

 ただ二人はどのようにして競争を規制するのか、その具体的なやり方についてはふれていない。それを定式化したのがつぎにみるウェッブ夫妻である。ウェッブは「労働条件を個人取引によらず、ある共通規制(コモン・ルール)によって決定」するようにしなければならないと述べている。
 「個人取引」―「共通規則」そして「集合取引」、この二つが競争規制のキーワードとなる。

 「個人取引」とは労働者が労働力商品をバラバラに雇い主に売っている状態を表している。労働者は労働力商品を売らなければ生きていけないので、貸金がどんなに安くても職に就こうとする。そこから労働者相互の激しい競争かなされる。ようするに労働力品のバーゲンセールだ。バーゲンセールが展開され、労働力商品の値段は止めどもなく下がっていく。これが競争による貧困化だ。
労働力商品の個人取引

労働者同士の競争が成立し雇用条件が悪化する


 それではどうすればよいのか。労働力商品の「個人取引」を「集合取引」にしてしまうことだ。「集合取引」(コレクティブ・バーゲニング)は、今日では団体交渉と訳されているが、「集合取引」の方が労働組合の根本を表していると思われる。
 まず労働力商品をまとめた(コレクティブな)状態にする。それには労働者を労働組合に組織し、囲い込むことが必要になる。そのつぎに労働組合が労働者を代表して経営者団体に労働力商品をまとめて取引(パーゲニング)をする。高く売りつけるのである。こうすれば、「個人取引」によって貸金が下がることはない。これが「集合取引」だ。

 ここで重要なのは労働力商品をまとめて売るには、商品を同じものにしなければならないということだ。それぞれの経営者に売りつけるのに違った商品であってはならない。それがウェッブのいう「共通規則」だ。具体的にはエンゲルスが述べた「一つの職業の貸金は、すべてどこでも同じ高さにたもつ」ことを意味する。「同一労働同一賃金」にすることで労働力商品を向じ値段で売ることができる。

 この「共通規則」と「集合取引」のシステムが、競争規制という労働組合の根源的な機能を担っているのである。日本の働く者の貧困の元凶はこのシステムの欠如にこそある。反貧困のユニオン運動はこの地点から立ち上げなければならない。厳しい状況ではあるが、手がかりはつぎにみる事例のなかにみいだすことができる。

2、業種別職種別ユニオンによる労働運動の再生

●全日本建設運輸連帯労組関西生コン支部の歴史的実践

関生支部の初期頃の決起集会風景

関生支部の初期頃の決起集会風景

 関西地方というローカルなところで「本当の労働組合」を構築する努力が五〇年のながきにわたり営々とつづけられてきた。このことは日本の労働運動であまり知られていない。関西生コン支部の経験を「共通規則」と「集合取引」の二つを中心に紹介しておこう。

 まず「共通規則」にもとづく労働力商品の販売を、「職種別賃金」の形で実現したことである。
 支部は1973年の春闘で大型運転手の職種別賃金を、集団交渉の参加企業とのあいだの労働協約で確定した。さらに1982年には「業種別・職種別賃金体系」を労使で確認し、職種別賃金を明確に打ちだした。

 これは日本では画期的なことだった。日本の年功賃金については賃金論にもとづいたあれこれの議論がある。しかし労働者の生活と労働運動にとって最大の問題は、ウェッブのいう「共通規則」が設定できないところにある。
労働力商品の集合取引

個人取引を抑制することで雇用と生活が守られる

 なぜならば、年功賃金の構成要素である年齢や勤続、性差、個人の能力などを基準にしで企業横断的な「共通規則」をつくることはできない。だからマルクスとエンゲルスが指摘した労働者同士の競争を規制できるはずがない。これが労働組合にとっての年功賃金の致命的な欠陥といえる。
 年功賃金の日本で、職種別賃金を設定したところに関西生コン支部の最大の歴史的教訓かあるとみるべきだろう。

 つぎは経営者を集めた「集団交渉」という形で「集合取引」 を実現させたことである。
 関西生コン支部は産業別交渉という日本ではほとんど実現していなかった難事業に挑んだ。経営者たちは自然に集団交渉に応じるわけはない。支部が産業別闘争を強烈に展開して、個別企業を追い込んだ。集団交渉への参加を明確にしない企業に対しては指名ストから時限スト、波状スト、統一ストと、闘争を拡大していった。ついに73年には14社を相手にした初の集団交渉か実現した。(次号につづく)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<解説:連載開始にあたってー仲村実ー>

木下武男さん

木下武男さん

 昨年の厚労省調査で日本の労働組合の組織率は17.4%、100人以下の中小零細企業の組織率はわずか0.9%であり、ストライキ闘争も皆無に近づいており、連合を中心とする労働運動の社会的影響力は低下し続けています。この危機的状況の労働運動を突破する組織方向を、本紙を通して関西生コン支部の企業の枠を超えた生コン業界での産業政策闘争を重ねて紹介してきました。そして関西生コン型労働運動の他産業、他業種への組織化の取り組みを訴えてきました。

 ここでは、企業別組合に変わる組織として、木下武男氏が「季刊・労働者の権利」315号(日本労働弁護団発行)の特集として執筆された『業種別職種別ユニオン構想』を紹介します。
木下武男著『格差社会にいどむユニオン』⇒Amazon書店で見る

木下武男著『格差社会にいどむユニオン』(花伝社)⇒Amazon書店で見る

 本年2月、東京で「関西生コン支部労働運動50年―その闘いの軌跡」発行記念のシンポジュームでの木下氏の講演録(本紙93号,94号に掲載)の再読もあわせてお願いしたい。

 木下氏は、2007年9月に『格差社会にいどむユニオン』を出版され、企業中心社会のもとでの日本の格差社会を分析し、新ユニオン運動として「若者の労働運動」と、「産業別・職種別運動」型ユニオンとして関西生コン支部を取り上げました。その後、関西の生コン産業と中小企業労働運動の大闘争、2010年春闘に始まる建設独占を追い詰めた139日のストライキ闘争の紹介や、個人加盟ゼネラルユニオンについての執筆や講演を重ねられています。
 企業内組織の正社員・本工主義に対抗し、企業を超えた視点からの「業種別職種別」組織と結びつく産業政策闘争を対抗手段とし、未組織労働者の組織化の方向の確信を深める一助になると思います。(仲村実:管理職ユニオン・関西)

(「コモンズ」100号の目次にもどる)

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で

  1. コモンズ最新号目次

特集記事(ランダム)

  1. 靖国神社

    2016-9-27

    現在に生き続ける植民地主義<連載第1回>/齋藤日出治(大阪労働学校・アソシエ副学長)

季刊「変革のアソシエ」No.29

最近の記事

  1. フランス政府の公式ロゴ、自由・平等・博愛
    グローバリズムへの対抗軸として 2014年にフランスで制定 スペイン・エクアドル・メキシコ・ポルト…
  2. ブランコ・ミラノビッチ
    前号(こちら)からのつづき 4、帝国主義の世界支配からのパワー・シフト [caption id=…
  3. 木畑壽信さんを偲ぶ会 献杯の様子
     7月1日に急逝した木畑壽信さん(享年66歳)を偲ぶ会が、9月8日、東京中野の中野産業振興センター1…
  4. 尾形憲さん
     さわやかな秋風が吹く今日この頃、皆様方には益々ご健勝のこととお喜び申し上げます。  「元法政大学…
  5. カタルーニャ独立闘争
    10月1日に実施されたスペイン東部カタルーニャ州の独立をめざす住民投票をめぐってカタルーニャ州と…

特集(新着順)

  1. 開城(ケソン)工業団地・韓国の工場で働く朝鮮の労働者

    2017-10-20

    アジアの現実から朝鮮問題をとらえ直す-一体化するアジア経済/大野和興

  2. 労働学校・アソシエ 特別シンポジウムの様子

    2017-10-17

    労働学校アソシエ8・26特別シンポ詳報

  3. 借金なし大豆

    2017-9-20

    種は誰のものか「種と百姓の物語」種子法廃止に思う(下)

  4. 社会的連帯経済の実践に学ぶ-6.30シンポジウム

    2017-9-18

    社会的連帯経済の実践に学ぶ 山形県置賜地域から菅野芳秀さんを招いて

  5. 文在寅(ムン・ジェイン)

    2017-9-15

    講演】東アジアの平和を!韓国・文在寅(ムン・ジェイン)政権の誕生を受けて/李泳采(イ・ヨンチェ)(恵泉女子学院大学教授)

バックナンバー

カテゴリ一覧

本日
昨日
累計
FROM 2014/01/01
ページ上部へ戻る