現在に生き続ける植民地主義<連載第2回> 近代と植民地主義

「現在に生き続ける植民地主義<br />
―歴史的断絶を通して再生する同一の原理とその危機」【連載1】齋藤日出治 大阪労働学校・アソシエ副学長
連載第2回 (⇒前回を読む)

2 近代と植民地主義

エドワード・サイード

エドワード・サイード

■近代のポストコロニアルな批判

 戦前から戦後への転換を通じて日本近代に潜む植民地主義を究明する方法論的手がかりを与えてくれるのは、ポストコロニアル研究である。
 この研究は、植民地主義を近代史における帝国主義時代のような特定の時代と結びつけるのではなく、近代社会につねにつきまとう無意識の集合意識としてとらえようとする。そしてこの研究は、植民地統治の被統治者よりも統治する主体のまなざしに目を向け、このまなざしが統治する主体と被統治者との関係を構築することに注目する[1]

 E・サイード『オリエンタリズム』[1978]によれば、東洋とは、西欧人が見知らぬ他者と出会ったとき、この他者を自己よりも劣等の存在として、あるいは自己の過去に他者を投影し、自己のかつての未熟な存在と他者を同一視して、その存在に「オリエント」と名づけたことに由来する。東洋をこのように命名することによって、西欧人はみずからの西欧社会をオリエントとの関係において定義する。
「自分にとって他者をオリエントとして描くこと、それは他者を自己よりも劣った存在として描き出し、かつ他者を画一的にとらえる西洋の思考様式にほかならない」(邦訳116頁)。

インド・「セポイの乱」の漫画(イギリス)

インド・「セポイの乱」の漫画(イギリス)

 こうしてサイードは、オリエンタリズムを、そのような命名をあたえる主体である西欧の存在様式としてとらえる。
「オリエンタリズムとは、オリエントを支配し再構成し抑圧するための西洋の様式」(邦訳116頁)である、と。

 オリエントとは、西洋が非西欧地帯を統治するために創出した他者であり、西洋はそのような他者を創出することによって自己を近代社会として創出する。つまり、植民地主義とは、見知らぬ他者との出会いを組織する特異な方法であり、その他者を統治の対象として支配者のまなざしでとらえる思考態度にほかならない。
 したがって、このまなざしは近代社会にたえずつきまとい、自己と他者を支配-従属の関係として創出する回路となる[2]
日清戦争の錦絵(日本)

日清戦争の錦絵(日本)


 逆に言うと、このまなざしから解き放たれたとき、自己と他者のあいだにはるかに豊かで多様な関係が創出される。植民地主義はこの豊かさをはらんだ関係をきわめて貧相で一元的で暴力的な関係に還元してしまう。
 ポストコロニアル研究は、近代社会が無意識のうちに生み出している植民地主義のまなざしを暴きだし、その批判的な解読を通してこのまなざしから自己を解き放つ必要性を提起する[3]

 植民地主義を「植民地を文明化すること」とみなす植民者の主体のまなざしと意識に批判的な照明を当てて、宗主国のポストコロニアルな批判を展開したのが、西インド諸島のマルチニークでネグリチュード(黒人性)の運動を推進したエメ・セゼール『植民地主義論』[1955]である。
奴隷市場

奴隷市場

 セゼールによれば、植民地主義とは「文明化」と同義にみなされているが、それは被植民者を「文明化」するどころか、逆に植民者自身を野蛮化するものにほかならない。
 「植民地化がいかに植民地支配者を非文明化し、痴呆化/野獣化し、その品性を堕落させ、もろもろの隠された本能を、貪欲を、暴力を、人種的憎悪を、倫理的二面性を呼び覚ますか」(同、邦訳125頁)。

■植民地主義は被植民者を「文明化」するのではなく、植民者を野蛮化する

エメ・セゼール

エメ・セゼール

 植民地化は「文明化」の名においてそれとは正反対の行為を遂行することによって、文明を野蛮に転ずる。そしてそのことを通して、植民者自身を野蛮化する。植民地主義は、他者を野蛮視することによって、自己と他者の関係を人間と野蛮の関係とみなし、そのことによって自己を獣に変ずる。
 「植民地化する者は、自らに免罪符を与えるために、相手の内に獣を見る習慣を身につけ、相手を『獣として』扱う訓練を積み、客観的には自ら獣に変貌していくものだ」(同、邦訳132頁)。

 このようにして、植民地化の過程を通して、植民者と被植民者との排他的で一元的な関係が生産され、「文明」と「野蛮」の二極化が固定され、深化させられていく。
 「植民地化する者と植民地化される者のあいだには苦役、威嚇、抑圧、警察、課税、略奪、強姦、文化強制、蔑視、不信、高慢、尊大、粗野、思考力を奪われたエリート、堕落した大衆しか存在しない」(同、邦訳133頁)。

 重要なことは、この植民者と被植民者との関係が、西欧近代社会の外の関係にとどまらず。西欧近代社会そのものを内側から形成する原理となったことである。
 人類学者のクロード・レヴィ=ストロースは、労働者の搾取の源泉であるマルクスの剰余価値の概念が植民者による被植民者の自由時間の収奪に起源を置くことに注目する。

クロード・レヴィ=ストロース

クロード・レヴィ=ストロース

 自然があたえてくれた自由時間という実りを自己自身の時間として享受していた先住民の文明に暴力的に介入して、その自由時間を他人が盗むという、剰余価値の人類最初の経験を提供したのが植民地主義であった。
 西欧社会はこの植民地主義の関係を西欧社会自身のなかに内面化して、他人の労働時間を盗む資本・賃労働の制度を創出した。
 レヴィ=ストロースはマルクスの剰余価値論をこの視点から読み解く。
 「植民地支配は論理的・歴史的に資本主義に先行すること、そして資本主義体制は、それに先立って西欧の人間が土着の人間を扱ったやり方で西欧の人間を扱うことにある」(渡辺公三『闘うレヴィ=ストロース』[2009]178頁)。

産業革命

産業革命

 レヴィ=ストロースが洞察したように、マルクスは『資本論』第一巻第二四章「いわゆる本源的蓄積」において、ヨーロッパの賃労働制の起源が植民地主義にあることをつぎのように語っている。
 「総じていえば、ヨーロッパにおける隠ぺいされた奴隷制[賃労働制度のこと―引用者]は、その脚台として、新世界における露骨な奴隷制を必要としている」(河出書房版邦訳595頁)。

 本論でこころみるのは、植民地主義を内面化する西欧近代社会の社会形成のこのような原理が、日本近代の形成過程においてどのようなかたちで貫かれているかを検討することである。<次号につづく>

ーーー
[注1] 沖縄に対する本土の日本人の〈無意識の植民地主義〉を告発する野村浩也[2005]は、沖縄問題は日本人問題であるとして、日本人の沖縄を見る眼差しのうちに植民地主義を読み取る。「ポストコロニアル研究とは、第一に植民者を問題化する学問的実践である」(23頁)。
[注2] その意味で、「植民地主義はあらゆる場面、あらゆる次元でわたしたちに付きまとって離れない」ものであり、「国家や社会のあらゆる部分、あらゆる組織の中で発生し機能している」ものであり、「自己の身体や内面で育成され、時に他者に向けて強力に発散されて他者を傷つける」(酒井直樹『思想』2015年7号22頁)ものである。
[注3] したがって、ここで「ポストコロニアル」と言うのは、植民地主義が終焉した後のことを意味するのではなく、植民地主義の根源に潜む人と人との関係に着目し、自己が他者に向ける眼差しの批判的な解読をこころみる方法と言える。

ーーー
【参考文献】

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行動予定

4月
23
18:00 第14回怒りのデモ 森友問題の核心... @ 大阪城公園「世界連邦平和像」前
第14回怒りのデモ 森友問題の核心... @ 大阪城公園「世界連邦平和像」前
4月 23 @ 18:00 – 20:00
第14回怒りのデモ 森友問題の核心は安倍昭恵と晋三だ! @ 大阪城公園「世界連邦平和像」前 | 大阪市 | 大阪府 | 日本
■日時:2018年4月23日(月)18時集会、19時デモ出発 ■場所:大阪城公園「世界連邦平和像」前  大阪市中央区大阪城1-1 (大阪城公園 大手前広場)  大阪城の西側。大阪府庁のほぼ正面の道路を渡った広場にあります。 ■主催:「森友問題」疑獄を許すな!実行委員会  連絡FAX06-6304-8431
4月
26
18:00 沖縄意見広告運動全国キャラバン ... @ 連合会館
沖縄意見広告運動全国キャラバン ... @ 連合会館
4月 26 @ 18:00 – 20:00
沖縄意見広告運動全国キャラバン 歓迎と激励の集い @ 連合会館 | 千代田区 | 東京都 | 日本
■ 沖縄から出発した全国キャラバン隊が東京に来ます 4.26「歓迎と激励の集い」に参加ください  1月17日に沖縄辺野古現地を出発点とした沖縄意見広告運動の全国キャラバン隊が、沖縄コースを経て、2月には四国コースを、さらに九州コースなどを回り、4月には23日名古屋、24日静岡、25日千葉を経て26日東京に入ります。  そこで、全国キャラバン隊の皆様を迎え、各地での行動報告を聞き、その労をねぎらい、激励する集いを持ちます。是非、ご参加ください。 ● 日時:2018年4月26日午後6時~ ● 会場:「連合会館」2階201号室  東京都千代田区神田駿河台3丁目2−11   東京・JR御茶ノ水駅より徒歩3分 ● 主催:第9期沖縄意見広告運動  http://www.okinawaiken.org/ 沖縄意見広告運動とは? 沖縄の痛みを、全ての人びとの痛みとして、みんなで受けとめよう! 「普天間即時閉鎖、辺野古(海・陸)やめろ、海兵隊いらない」 このような想いのもと、沖縄意見広告運動は2010年3月に発起されました。国内外の新聞各社への意見広告掲載を中心に様々な活動を行なっています。 意見広告には、公表可能な賛同者の方々のお名前を掲載しています。 【第8期 国内向け意見広告】 掲載日:2017年6月3日 掲載紙:琉球新報、沖縄タイムス、朝日新聞 各朝刊 賛同者総数:12,548件 公表可:10,481件 匿名希望:2,067件 賛同団体:437件 ■ 第9期広告の掲載日は6月3日(日)予定 1万5000件の賛同目標実現にお力を!  賛同者のみなさま。いつもご賛同、ご支援をありがとうございます。  第9期沖縄意見広告の掲載日は6月3日(日)を予定し、沖縄2紙と全国紙との交渉に入りました。9期の目標は、第8期の1万件越えの成果を受け、さらに15000件の賛同を目標に、運動拡大に取り組んでいます。  どうぞ、友人、知人へ賛同の輪を広げて下さい。  振込表付きの第9期新チラシが必要な方は事務局まで連絡ください。  すぐに、お送りします。 沖縄意見広告運動事務局 ● 電話 03ー6382ー6537 ● FAX 03ー6382ー6538 ● mail info@okinawaiken.org (「コモンズ」117号の目次にもどる)

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