なぜ安倍政権は南スーダンに「駆けつけ警護」を行うのか/村山和弘

日米軍艦を観閲する安倍ら(10/18) 2015年10月18日、安倍首相は海自と、海外から米艦、原子力空母ロナルドレーガン、豪州、仏、印、韓国等42隻(航空機37機)を観閲し、自衛隊最高指揮官・総理大臣として「訓示」を行った。(上写真)
 ここで安倍は「自由で平和な海を守る(中国包囲の海上制圧)ため全力を尽くします。積極的平和主義の旗を高く掲げ、世界(アジア・アフリカ・中東)の平和と繁栄に…貢献していく」と述べ、そして第二次大戦を回顧し、「戦艦『伊勢』が…(比沖海戦で日本海軍が壊滅した)史上最大の海戦に…比海域を航行しました」(同じ海域を)「2年前の台風のとき、同じ名前、護衛艦『いせ』は救援…を届けてくれた」(南沙海域に自衛隊が出動し日・比が軍事演習し)「自衛隊の国際協力は…世界の平和と安全に大きく貢献した」と誇らしげに語った(全文はこちら:引用の丸括弧内補足は筆者、以下同)。
 かつて比沖壊滅で大東亜共栄圏の夢破れた日本が安倍政権の下で再び南シナ海に進出し、新たな大東亜共栄圏が始まったと述べたのである。

稲田防衛大臣は安倍首相の尖兵
カーター米国防長官と稲田

カーター米国防長官と稲田

 本年8月に就任した稲田朋美防衛大臣は、今まで「(日中戦争と第二次大戦は)アジア解放の戦争だ」「南京大虐殺の事実はない」「日本は核武装、徴兵をすべきだ」と主張してきた人物だ。
 こうした言動に、8月4日の記者会見では記者から「防衛大臣の公的立場の表明は?」「(大臣の立場でも)変わらないのか?」と聞かれた。これに対し稲田は「私は今までから一貫しています」と、防衛大臣として答えた。更に「(慰安婦は)強制でなかった」、「私の意見は、安倍総理…70年談話の認識と一致している」と明言した。
 米マスコミは「稲田大臣は(先の)戦争を悔いと思わないので不安だ」と報道。このような人物の防衛大臣への起用は中・韓・露・欧・米など世界各国に衝撃を与えた。

重大・米基地工事に陸自ヘリ出動!
記者会見で醜態を演じた稲田防衛大臣

記者会見で立ち往生し、さらにブチ切れ、部下に八つ当たり
さんざんな醜態となった稲田防衛大臣(詳細)

 9月15日(現地)、米国防総省で米日防衛相会談が行われ、記者会見で「駆け付け警護」「南シナ海の米艦防御」を話したと発表された。

 その稲田は訪米前の13日、高江ヘリパット建設に陸自ヘリを出動させた。機動隊に続いて陸自が出動した事に、翁長知事は「容認できない」と政府を批判した。稲田は記者会見でも「自衛隊法6章に行動規定が書かれているが、違反にあたるのでは?」と聞かれており、「…30秒沈黙…(防衛省)設置法4条の…民間機で運べない物を…」と述べたが、4条は単に『担当事務の項目』であり、余りにも強引だ。岸信介でも自衛隊出動はしなかった

 安倍政権は米軍を沖縄に引き止め、『親米政権』を維持するために「基地建設を急げ!」と、憲法も地方自治法も、自衛隊法すらも無視した。さらに辺野古訴訟を担当する裁判官の人事にも露骨な介入がされ、国を代弁した判決が出された。翁長知事は「裁判所が政府の追認機関であることが明らかになり、大変失望している」「国と司法の一体化である」と弾劾している。

 もともと米経済の衰退により2010年当時から、米国内では在日米軍の部分撤退・巡回配備・グァム移転も検討されていた。日本政府のこうした住民弾圧に国際的な批判が高まると「基地建設は日本の内政(米の意図でない)」という国務省内の釈明発言が報道されている。

戦争危機を煽って政権維持をはかる日韓両政府
サードミサイル配備反対のためソウルに集まった地元星州住民2千人(レイバーネットより)

サードミサイル配備反対のためソウルに集まった
配備地元の星州住民2千人(レイバーネットより)

 一方、北朝鮮の核開発を口実にした終末高高度ミサイル(サード)の韓国配備には、親米政権である朴槿恵(パク・クネ)大統領の延命が掛かっている。日韓両政府は、アジアの緊張を激化させつつ軍事的に親米路線をとることで政権維持を図っている。彼らは自己の政権維持が出来れば良く、沖縄など民衆の犠牲は眼中にない。

 韓国へのサードミサイル(THAAD)配備とは、米ミサイルが中・露の地域を射程内に置くことだ。これに対して両国は米に対する「対抗ミサイル網を配置する」と表明しており、これでまたしても日韓中露の広大な地域が大国同士の戦争危機を抱えることになってしまった。

少女像撤去と日米韓軍事同盟形成は一体
ソウルを埋め尽くした「朴槿恵打倒100万人集会」(11/12)

ソウルを埋め尽くした他、韓国各地を会場に
「朴槿恵打倒100万人集会」が闘われた(11/12)

 安倍政権は、日本軍「慰安婦」問題についての日韓「合意」を履行し、少女像を撤去せよと韓国政府を脅迫している。9月11日、稲田は「日韓情報協定締結」を韓国に迫った。日韓軍事同盟形成で自衛隊を朝鮮半島に出動させようとしている。まるで「韓国併合」を想起させる行為だ。

 だが、韓国民衆は朴槿恵政府を「屈辱外交」と弾劾し、日本の再侵略を許すな!と声を上げている。そのため現状、安倍政権が要求する日韓軍事同盟は、韓国民衆の反対の闘いに阻まれている。その間に豪・比を日米に従わせて作ろうとした中国包囲網も破綻した(参考)

 こうした中、安倍政権は自衛隊を遠くアフリカの南スーダンにPKO派兵し、更に増強して「駆けつけ警護、宿営地防御」までも行う。実に重大であり、このスーダンに関する前提的な認識を以下に述べていきたい。

欧米が作り出したアフリカの「内戦」

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 アフリカは欧米の分割支配が続く大陸だ。特に米はCIAを用い、反政府勢力の育成と武器支援を行い、「内戦」を作り出してきた。

 1961年、今なお民衆から尊敬を集めるコンゴのルムンバ首相が「経済的独立」を語ってCIAに暗殺された。欧米に独自性を示せば、(その善悪とは無関係に)政権は倒される。中東のイラクやリビアも「巨悪」と言われ、元首と国が壊滅させられたのは記憶に新しい。

osama Al-CIA-Duh およそアフリカの各民族・部族対立と言われる「内戦」の背後には、欧米の住民分断政策があるのに、歪曲された宣伝に基づく偽りの歴史観が世界を覆っている。地元住民が団結したら欧米資本は資源を奪えないため、彼らは植民地時代から買収やデマ工作で内部分裂や地域紛争を作り出してきた(分割統治)のだ。
 なのに、「内戦は自治能力の欠如、国家運営の失格」で「先進国はアフリカを善意で援助する」として、今ではPKO部隊を派遣する。内戦を作った犯人共が、アフリカを蔑視の目で差別しながら「善意の衣」で偽装している。

スーダン「内戦」と米国
 米国はスーダンが独自性を持つとして、政権転覆を図ってきた。2003年、ブッシュはイラクに「大量破壊兵器がある」と偽の宣伝を行うが、スーダンも「テロ支援国家」として政権転覆を狙った。
 軍事圧力を加え、スーダン国内の資源地域とそれが無い地方との格差への不満を組織して、反政府勢力を育成した。米が武器と資金を援助して開始された「内戦」で、住民は相互に疑心暗鬼となった。そのせいで発生する住民虐殺が欧米で大きく報道されるようになると、日本でも米報道に従い「イスラムはひどい」「人権を守れ」と報道された。

スーダン地図 米がスーダンを封鎖する中、中国は石油の技術援助とインフラを含む投資を行い、貿易が拡大した。マレーシアもイスラムの立場からスーダン貿易を行った。石油開発の技術者や労働者の誘拐と殺害など妨害が相次ぐが、石油生産が拡大し、スーダン・中国・マレーシア・カナダで大ナイル石油が作られた。こうしてスーダンと関係を深めた中国は「人権無視の独裁国家」と批判され、2008年の北京オリンピックボイコットキャンペーンが行われた。

 こういったことから米は政府転覆より石油資源を確保するためにスーダン南部を分裂させる方針を取り、2011年、南部で住民投票を実施して「南スーダン独立」を宣言。しかし、大統領と副大統領の対立が激化、今ではまたも激しい内戦の渦中にあり思惑通りにはいかない。そこで往時の力を持たない米は「親米国」に軍隊派遣を肩代わりさせようとする。安倍はこれに乗った。

自衛隊の南スーダンPKOは改憲のため
内戦状態の南スーダン(「反乱軍」側の部隊)

内戦が続く南スーダン(「反乱軍」側の部隊)

 だが『自衛隊PKO派遣5原則』では、内戦が停戦状態にあることが派遣の条件である。なのに今の南スーダンは誰が見ても明らかな内戦状態だ。しかも、大統領さえPKOに反感を持っている。

 8月14日、毎日新聞は「南スーダン政府がPKO増派に反対の意思」と報道した。また共同通信は、南スーダン大統領が8月15日の演説で「『わが国の主権を侵害する内政干渉につながらないようにすべきだ』と警告した」と翌16日に報道している。最早、自衛隊PKO派遣に「合法性」は全く無くなったわけだ。

 いよいよ戦場に叩き込まれる自衛隊員は、内戦の渦中で生死の選択をさせられる。戦場では、自分が生き残るためにはアフリカの人々を殺すことになる。逆に自衛隊員が殺されれば、安倍政権は「国際貢献に命を捧げた」と賛美する。つまりPKO派遣は、改憲の世論を作る目的である。安倍の「世界の平和に貢献する」とは、実は戦争宣言である

 7月14日、南スーダン政府のルアイ報道官は、陸自宿営地の隣ビルで2日間銃撃、政府軍死者と答えている。9月19日に自衛官が狙撃されたという外信(未確認)情報もある。自衛隊は一刻も早く撤退すべきだ。殺し殺される世界に入ってはいけない。それは果てしのない泥沼だ。

危機と破綻に直面し、延命を策す安倍政権を倒そう
射撃訓練をする自衛隊(陸自HPより)

射撃訓練をする自衛隊(陸自HPより)

 安倍政権は、何故今アフリカに3兆円を拠出しPKOを行うのか?米国の要請と自己の野望のためだ。しかし、米国はアフリカですでに破産している。日本のアフリカ進出も中国包囲路線が破綻した結果の新たな政権延命策だ。

 そして安倍政権は、アフリカの地でも(過去の中国侵略と同じ)泥沼にはまるだろう。すでに、安倍政権の行動は次々と破綻している。当面メディアではこういった真実はことさらに指摘されず、隠蔽されていくことになるのだろうが、個々の報道を精査・俯瞰するだけでも、すでに破綻していることは明白だ。
 私たちは二度と戦争と破滅の道へ引き込まれてはならない。勝利の確信をもって、この過程で安倍政権を倒そう。
(村山和弘)


【スーダン関連略年表】
 1978年 スーダンで米シェブロンが石油発見
 1993年 米ブッシュ政権、スーダンを「テロ支援国家」と認定
 1997年 米、スーダンの資産凍結・貿易全面禁止
 1998年 米、スーダン首都に巡航ミサイル攻撃
 2001年 9・11事件
 2003年 米、イラク戦争開戦 中国他がスーダン石油開発
 2008年 北京オリンピック
 2011年 スーダン南部の独立

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