時代が求める日本労働運動の再生に向けて(2)産業別指導機関の存在こそ「砦」
/木下武男(元昭和女子大教授)

時代が求める日本労働運動の再生に向けて
労働社会学者(元昭和女子大教授)木下武男 ※文中の太字、下線は編集部によります。

連載第二回 <産業別指導機関の存在こそ「砦」、各企業を超えた統一司令塔機能…>

連帯労組自動車パレード

産業別横断型労組 連帯労組関生支部
毎年春に生コンミキサー車他2百数十台で市街パレード

 (前回からの続き)この産業別闘争を強力にすすめる組織的保障になったのが、企業の枠をこえた「統一的指導機関」の存在だった。

 欧米の産業別労働組合は、労働組合の権限は企業の組合組織にはない。その上の産業別の地域組織に執有権や財教権、人事権などの権限が置かれている。関西生コン支部も欧米の産業別組合と同じように企業を超えた「統一司令部」をつくった。産業別交渉を実現するには、産業別統一闘争と統一指導者の形成が欠かせないことが関西生コン支部の歴史的教訓である。

 関西生コン支部は関西の運輸産業では最高水準ともいえる労働条件を勝ち取っている。それは長い努力の末に、「共通規則」と「集合取引」という労働組合の原理を獲得してきたからである。この歴史的経験は、この日本で「本当の労働組合」を創るのは困難ではあるが、不可能でないことをおしえている。

●業種別職種別ユニオンという労働組合モデル

 マルクスとエンゲルが指摘した労働組合の根源的機能と、ウェッブが定式化した競争規則の方法(前回参照)は、「本当の労働組合」の理論的な枠組みだった。
 これに関西生コン支部の歴史約教訓を突き合わせる。そうすると、新しい労働組合モデルと日本労働運動の再生の方向が浮かび上がってくる。ポイントは業種別職種別ユニオン外部構築論ジェネラル・ユニオン論、この三つだ。
大阪生コンスト2010

産業別横断型労組 連帯労組関生支部
春闘での工場前ピケも珍しくない(大阪生コンスト2010)


 これからの日本で必要とされる労働組合モデルは「業種別職種別ユニオン」だろう。業種別職種別ユニオンと表現したのは,競争規制の方法に対応して「業種別」と「職種別」のそれぞれに意味があるからだ。「職種別」の賃金が「共通規則」に、「業種」別交渉が「集合取引」に相当する。
 この業種別職種別ユニオンを、日本で支配的な企業別労働組合と別個に、その外に創る。これが外部構築論である。

 1950年代から60年代始めにかけての企業別組合改革論がさかんになされた。企業別労働組合の欠陥を克服し、産業別労働組合へと組織形態を転換させていくための議論だった。企業別労働組合の「脱皮」という言葉で表現されていたように、それは労働組合の内部改革論とみることができる。
 内部改革の議論から半世紀以上がたったが、何も変わらなかった。企業別組合から産業別組合へ「脱皮」することはなかった。企業別組合は美しい「チョウ」を生みだす「サナギ」ではなかった。この歴史の教訓は重い。だから内部改革論は捨て去らなければならない。

150104_laborunions 内部改革論は企業別組合の改革を先行させる考えだが、外部構築論は段階論をとらない。つまり企業別組合を改革して産業別組合を確立し、そこから何かが始まるとの考えではない。今のままで手を打つ。それは未組織労働者の組織化をすすめ、企業別組合の外部に労働組合を創造することだ。
 その膨大な未組織労働者こそが働いても貧困な階層、ワーキングプアである。企業別組合の外部の未組織労働者を対象に、業種別職種別ユニオンという新しい労働組合を創造していくこと、これこそが反貧困のユニオン運動になるだろう。
 
●ジェネラル・ユニオン戦略と労働運動の再生

竣工なった学働館・関生

関生労組設立50年を記念して建てられた
労働者の学びの館<学働館>

 労働者の組織化と新しいユニオンの創造、その地道な取り組みの先に日本の労働運動の未来がみえてくる。それがジェネラル・ユニオン(一般労働組合)という姿だが、企業別組合ではない労働組合は、世界には産業組合と一般組合がある。そのなかで日本の労働運動の再生はジェネラル・ユニオン方式が適合的ではないか。これがジェネラル・ユニオン戦略である。

 なぜジェネラル・ユニオンなのかを考えていくことにしよう。
 労働組合の理論からすると、「共通規制」は二つの労働組合とも同じであり、職種別熟練度別の賃金にもとづいている。一方、「集合取引」がやや異なっている。産業別組合は産業ごとの比較的大きな枠組みのもとで団体交渉がなされている。ジェネラル・ユニオンは、産業よりも小さな業務ごとのユニオンが合同しながら、全国的な労働組合に成長したものだ。団体交渉も業種ごとの経営者団体を相手になされている。

 だから二つの組合は「共通規約」と「集合取引」が確立しているという意味では「本当の労働組合」であり、大きな違いはない。
 だが日本の労働運動の再生と関連させてジェネラル・ユニオンに注目するのは、その成立の経過と、組織内の業種別部会にヒントがあるからだ。

エリック・ホブズボウム(1917- 2012)

エリック・ホブズボウム(1917- 2012)

 労働史の研究者のホブズボウムは、20世紀に入りイギリスで大きな発展をとげたジュネラル・ユニオンについて分析している。
 ユニオンが進出した産業分野について「完全に無視されていた(運輸のような)産業、職能別組合が上層部で確立されていた産業(船舶、鉄および銅、機械)の低階層」をあげている。
 イギリスでは徒弟制の頂点にたつ親方的な熟練労働者の閉鎖的な職業別組合が強固に存在していた。ホプズボウムはその職業別組合から「完全に無視されていた産要」にジュネラル・ユニオンを確立したこと、さらに同じ産業でも、技能的な「上層部」は職業別組合があったが、その「低階層」をジェネラル・ユニオンが組織したことを指摘している。

 これを日本に引きつけて考えると、企業規模の大小の区分になるが、将来、産業の「上層部」の民間大企業は企業別組合が、そして産業の中小零細企業労働者と非正規雇用労働者はジェネラル・ユニオンが存在するという構図になるだろう。さらに企業別組合が手をつけていない「完全に無視されていた」業種にジェネラル・ユニオンが進出することになる。いずれにしても外部構築するにはジェネラル・ユニオン方式は有効だと考えられる。

Labor rights activists demonstrate outside Walmart's lobbying office in Washington つぎに日本の運動に参考になるのは、組織内にトレード・グループ(業種別産業別部会)がつくられていることだ。ジェネラル・ユニオンは日本では誰でも入れることが特徴のように思われているが、実際はこのトレード・グループごとに明確に間仕切りがされている。逆に歴史的にはジェネラル・ユニオンは、業種別の労働組合が合同しながら、それぞれが束ねられながら大きな全国組織に成長したものだ。
 これを日本に即して考えると、これから創造する業種別産業別ユニオンは、合同しながら全国組織になる以前のユニオンとして位置づけられる。未来の全国的なジェネラル・ユニオンのトレードグループをつくることを意味する。つまり全国的なジュネラル・ユニオンのパーツ造りなのである。(次回に続く)

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