映評】『夜明けの祈り』/笠原眞弓

映画「夜明けの祈り」
いつも弱い者が犠牲になる戦争
 
【監督】:アンヌ・フォンテーヌ フランス・ポーランド合作 115分
【公開】:8月5日(土)より ヒューマントラストシネマ有楽町
   /新宿武蔵野館、シネリーブル梅田/シネリーブル神戸他全国展開

 映像の限りなく美しい映画なのに、観ていると何か得体のしれないドロっとしたものに飲み込まれていく気がしていた。そうだ、昔流行った子どものおもちゃ“スライム”のようなものだ。掴みどころがないのに、確かに存在する。こちらが毅然としていなければ、飲みこまれてしまう。
 戦争っていつでもそうだ。
 複合差別の中に放り出されるのは、いつも女性なのだ。
 ある知事経験者は、「慰安所の設置は、何も日本軍に限ったことではない」と嘘ぶき、「金をやるからもうなかったことにしろ」と迫る首相もいる。みんな男だ。

映画「夜明けの祈り」 この映画は実話である。ポーランドの寒村で起きた修道院での出来事。そこの修道女たちを助けたフランス赤十字軍の女性医師マドレーヌ・ポーリアック(物語中ではマチルド・ボリュー)の物語である。
 第2次世界戦争の終結を迎えるポーランドでは、ナチスドイツとソ連軍の間で国民は翻弄されたうえ、戦後にソ連によってつくられた傀儡政府に人々はさらなる困窮に陥っていた。
 一方、終戦処理のためフランス赤十字軍は、傷病兵の帰還事業をはじめ、野戦病院さながらにフランス軍兵士に応急処置を施しては、本国に送還していた。そこで働いていたのがマチルドだった。

 ある日、小雪の降る中を若い修道女が訪ねてくる。切羽詰った様子だが、言葉も通じない。ポーランド人の医者に行けと言うが、それを拒否。マチルドが手術を終えて窓の外を何気なく見ると件の修道女が祈り続けているではないか。ただ事ではないと彼女は赤十字のジープを出して修道院へ行く。すると、今まさに陣痛のさなかの若い女性が。
 緊急手術で助けた赤子はすぐに叔母のところに預けるため連れ去られる。新生児のいのちの危険を解き、せめて一昼夜と頼んでも、「修道院の名誉」の前には無力だ。帰ろうとするマチルダの前で倒れる修道女に、他にも妊婦がいることがわかり、健診と出産が続く。だが……。

映画「夜明けの祈り」 信仰と出産という相容れない事態にすべての修道女が苦しむ中、「神にゆだねる」ことを選択する院長。年配の彼女すら、進行性の梅毒に犯されていると判明。それぞれの信仰が試されていく。若い修道女は、妊娠と言う大きな試練を受けて「今が一番信仰深い」と言う一方、自分の状況を客観視できず床に子どもを生み落す人までいる。
 マチルド自身もある時ソ連兵に暴行されそうになり、何とか逃れるものの、以後車はつかえなくなる。だがお産は待ってはくれない。マチルドは、別の任地に赴くことになり、修道女マリアとある計画を実行する。そして、3か月後、祈りの声しか聞こえなかった修道院の様子は変わる。

 なぜ彼女らは、集団妊娠したのか。社会主義国では、宗教は敵である。ある日、ソ連軍が押しかけたのだ。しかも数回。そして人によっては、複数回凌辱された。
 こうしていつも戦争は弱いものをさらに弱者にしていく。あまりのことに、涙の一滴も出ない。怒りと言うより、情けなさが広がる。その広がった先に、国会前の光景が重なる。秘密保護法も、安保法制も、この度の共謀罪法も、いつも女性たちがいた。

 声をあげる人もあげない人も、いつも粘り強く小さい子どもの手を引いた人たちがいた。子どもを守る、これから生まれる子の未来を守ろうとする人たちの想いがあった。いつも戦争は、女性の、子どもの犠牲の上に立ってあるのだから。

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