講演】東アジアの平和を!韓国・文在寅(ムン・ジェイン)政権の誕生を受けて/李泳采(イ・ヨンチェ)(恵泉女子学院大学教授)

 これを全国民が共有し、韓国社会では二度と憲法の上に立つ指導者を造らないということが、今の権力者だけではなく、今後登場する権力者たちに対しても大きな警告となった。韓国社会ではかつて火炎瓶や鉄パイプで、「民主主義は暴力でやれるものだ」と思ってきました。だから議会主義を信じて来なかった。しかし今回は人々が議会主義を最後まで信じました。民主主義は、民衆が権力者を降ろす直接民主主義と議会による間接民主主義が両輪で回してゆくものだということを人々は感じるようになりました。

青年世代に支えられる文在寅体制
文在寅(ムン・ジェイン)

文在寅(ムン・ジェイン)

 こうして大統領選挙で文在寅(ムン・ジェイン)が41.1%の支持率で当選しました。その中身をみると、20代が47%で30代が56%。ほとんど20代と30代の支持が文在寅政権を作ったことになります。

 いま彼らは軍隊にいます。戦争が起こると最初に犠牲者になるのは彼ら自身です。戦争が起こったら、日本は海を隔てていますが、朝鮮半島は戦場になります。危機の時だからこそ、韓国では北朝鮮に対して戦争ではなく平和を望むということなのです。韓国の20代・30代が新しい時代を拓いた。これは大きな選択だったと思います。

 この20代・30代の変化は今回始まったものではありません。去年(2016年)4月13日、韓国で総選挙がありました。前回の総選挙では朴槿恵大統領の与党セヌリ党が過半数を超える圧倒的多数で勝利し、野党は文在寅派の「共に民主党」と安哲秀派の「国民の党」に分裂したので、次の選挙も当然朴槿恵の与党が勝つと見られていました。ところがフタを開けて見ると、野党「共に民主党」が圧勝し、与党は大敗しました。

 この時、20代・30代の投票率が13%アップ、全体の投票率が5%上がりました。彼らが野党に投票した結果、与党が過半数割れとなります。非正規雇用で仕事がほとんどなく、政治に幻滅しても不思議ではない彼らが投票に参加しました。1票の力を信じて民主主義を守ろうとする意志がキャンドルデモをつくりだし、大統領選挙の結果にまで至りました。いま若い人たちは「政治革命」ということばを訴えています。韓国では様々な若い人たちの政治参加率が高くなっています。

 今回の大統領選挙で当選した文在寅さんを、日本では「反日」「親北朝鮮」の2つのフレームで見てしまいますが、彼は韓国軍の中でも一番反共で強く、戦争になったら最初に投入される韓国特殊部隊の出身で、誰よりも北朝鮮を憎んでいた人でもあります。彼のお父さんは朝鮮戦争の時、中朝国境地域から釜山まで来ました。彼はそこで離散家族として生まれました。生活が根こそぎ壊れ、お父さんがお酒を飲みながら死んで行くのを見ていました。朝鮮戦争の悲惨さ、南北分断の矛盾をいちばん身体で感じている人です。

キャンドルの灯火は30年の民主化の闘いが咲かせた花だ
光州事件

光州虐殺事件

 文在寅大統領が当選した翌日、朴槿恵前大統領が自分の父親の業績を顕彰するために、日本の日教組に当たる組合を全員クビにしても作ろうとしていた国定歴史教科書を廃止してしまいました。また禁止されていた光州(クヮンジュ)の革命の歌(「あなたのための行進曲」など)を全部解禁しました。また仁川(インチョン)空港の非正規雇用の1万名を正規職として雇用する約束をしました。こうして「ひとりを替える」だけで世の中が大きくかわるという事を人々は実感しています。

 光州の虐殺事件について、これまで「北朝鮮による内乱だ」とか、いろんな不名誉な扱いをされたわけですが、文在寅大統領は犠牲者の名誉を回復し慰めました。私も小学校3年生の時に光州に住んでいて虐殺を目の当たりにしました。韓国で就職しなかったのはそういう(光州出身者に対する)差別があったからです。韓国でこういう時代が来るとは思っていませんでした。

 私が日本に来て驚いたのは、光州については光州の人々のたたかいだけだと思っていたのですが、日本の市民のみなさんの連帯運動によって光州が世界に知られるようになったことでした。そしてその圧力によって弾圧が止まったことを何回も確認しています。今日、みなさんにお礼を言いたくてこの集会に参加しました。

 今から30年前の1987年に学生たちの大きな犠牲の上で民主化運動がありました。民主抗争30周年記念式典における文在寅大統領の演説が見事なものでした。「30年間、韓国は民主主義のたたかいの上に立っていた。キャンドルの灯火はその闘いが咲かせた花だ。87年のたたかいで多くの若い人々が亡くなりました。この当時の青年たちの鉄パイプや火焔瓶にかわり、新しい青年たちはキャンドルをもって登場している。これを軸にして韓国はこれから30年間、新しい社会を作ってゆく。これが最後のチャンスだ」と語りました。

 87年、私たちは政治を変えれば社会が変わると思ったのですが、財閥の解体がほとんどできませんでした。30年のあいだに財閥支配はもっとひどくなり、韓国検察は腐敗し「犬の検察」と言われるようになりました。財閥政治、教育問題、全てが悪化している中で中学生、高校生たちが「革命政権を作りたい」という希望を持って起ち上がっています。

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