「グローバリゼーションのエレファントカーブ」の意味するもの(下)/佐藤隆

前号(こちら)からのつづき
グローバリゼーションのエレファントカーブ2

4、帝国主義の世界支配からのパワー・シフト
ブランコ・ミラノビッチ

ブランコ・ミラノビッチ

 では、この1988年以降の世界経済のパワー・シフトを、ミラノヴィッチの視点(家計)とは違う視点から見てみよう。
 「日経新聞」によれば、G7メンバー(日本、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ)は、名目GDPで見た場合、そのシェアはピークの1980年代後半に70%近くあったが、G7のGDPシェアはそこから下降線をたどる。90年代~2000年前半までは60%台をキープしていたが、08年のリーマン・ショックを経て、2014年には50%を切っている。
 一方、存在感を高めたのが新興国である。1994年と2014年の20年間の変化を見ると、G7が50%を切ったのに対し、「BRICS」各国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)のGDPシェアは7.3%から21.9%に上がった。14年の世界シェアでは中国だけで世界全体の約13%を占めた、という。

 1988年とは、世界のひとつの転換点であった。1980年代に始まった新自由主義、1989年のベルリンの壁崩壊、1991年ソ連崩壊、1993年中国の社会主義市場経済導入と続く現在のグローバリズムの始まった時期である。

 20世紀初頭に形作られた世界経済の体制をホブソン、ヒルファーディング、レーニン、ローザらは「帝国主義」と呼んだ。
 レーニンは「帝国主義は、資本主義一般の基本的属性(競争)の発展の直接の継続として生じながら、一定の段階でその若干の諸属性がその対立物(独占)に転化しはじめたときに発生した」とし、その定義として「帝国主義とは、独占体と金融資本との支配が形成されて、資本の輸出が顕著な意義を獲得し、国際トラストによる世界の分割がはじまり、最大の資本主義諸国による地球の全領土の分割が完了した、そういう発展段階の資本主義」と記した。

 ところが、1980年代、帝国主義はその基本的な属性を維持しながらも、「独占」は再び「競争」に転化し、「分割」されていた世界は経済的にはグローバリズムで「ひとつ」に結び付けられた。そこから帝国主義の世界支配の下で停滞を余儀なくされていた旧植民地諸国が経済発展の軌道に引き込まれつつあると言える。

 もうひとつの指標を示す。2017年、米国は世界最大の純債務国(947兆2074円)に転落している。米国は1982年頃には恒常的な経常赤字になり、1987年頃に対外純債務国に転落した(IMF)。正に帝国主義の基軸中の基軸が「資本を輸出する」側から「資本を輸入する」側へと変化したのだ。

 もちろん、「豊かな国の停滞と新興国の成長による経済の収束」というこの四半世紀の現象は単純に続くと予想できない。ミラノヴィッチによれば、アフリカが成長の軌道にのることが必要だが、それは現在はまだそれは見通すことができない。アフリカはこの1世紀、紛争・内戦・天然資源の物価変動によって経済の急成長と急降下を繰り返した。コンゴとマダガスカルの所得は80年前と同じである。
 また、新興国の経済成長の内実をみても豊かな国の金融緩和と深く結びついていて、来る次回の金融ショックは、2008年と違って新興国を巻き込んだ世界的なものになりかねない。

 これもミラノヴィッチが指摘していることだが、経済の予想は予想当時のトレンドを拡張するに過ぎないが、時間の経過はトレンドの転換をもたらす。また、特異な予想できない出来事がその後に大きな影響を与える。かくして経済の予想は裏切られる。
 それでも150年以上続いた世界の不平等と植民地主義が綻びを開始したことだけは間違いないと信じられる。

5、富めるものが支配する社会での我々の課題

 先進国の不平等の拡大の方に戻って米国を例にみてみよう。
 1980年代以降の新たな情報技術革命(通信・薬学・金融)とグローバリゼーションでは資本所得が増大、米国では上位1%が全株式の38%を、上位10%が81%を所有している。
 資本と労働の両方から高所得を得る者も増えている。労働所得上位1%が資本所得で上位10%に入る可能性は1980年代で50%未満であったが、2010年には63%になっている。これが不平等に「実力主義」という装いを与えている。

 金持ち同士の同類婚の広がり、また、サービス部門の不均質業務での賃金のギャップが拡大している。小単位に分散した労働では労組の組織化が困難となり、1999年から2013年でOECD平均の労組組織率は21%から17%となった。民間部門で組織率低下が著しい。

 可動性資本への課税が困難になって資本への減税が進み、富裕層に有利な政策が横行している。
 2012年大統領選では26億ドルが使われ、選挙費用は2000年の40億ドルから2012年の60億ドルへと跳ね上がっている。その結果、米国議員は富裕層の関心事に下位中間層の関心事より5~6倍反応する。所得上位10%の投票率80%なのに対し、最下位10%の投票率は40%、有権者の2%が選挙権を剥奪され、その33%がアフリカ系である。左右の過激思想を避ける中間層が没落し、1979年に中央値を挟んだ所得50%の人数は33%であったが、2010年には27%となっている。

 ミラノヴィッチは、近年の米国の「富める者の独裁」はインド、ギリシア、フィリピン、パキスタンと変わらないと断じている。
 本来、このような現状は大衆の階級的反乱を準備するものだが、「虚偽意識」の創出と左翼政党の崩壊や中間政党の右傾化により、不満がポピュリズムや移民排斥に転嫁されている。

 だが、矛盾は拡大している。社会を変革する力は労働者階級が自らを組織する力にかかっている。歴史が示すように労働者側は個々の戦闘で敗北しても、労働者側の力は次第に抑えがたいものになっていく。それを確信し、「もう一つの世界」へ向かって共に進もう。

愛知連帯ユニオン 佐藤隆 2017年8月17日

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