石田結貴著『スマホ廃人』が伝えるその実態/大野和興

石田結貴著『スマホ廃人』 スマホの世帯普及率がガラケーを上回ったのは2015年度。つい2年前にすぎない。そして今、電車に乗ると、10人中少なくとも8人はうつむいてスマホをいじっている。繰り返すが、ほんの2年。この何でも出来る掌のパソコンとどう付き合ったらいいのか、みんななんの準備もなくスマホの濁流に飲み込まれた。子育てで、教室で、社会で、高齢化の中で、今なにが起こっているのか。混乱を極めるその実態を一冊の本が伝えている。(大野和興)

 本のタイトルは『スマホ廃人』(石田結貴著・文春新書)。新書版で読みやすい。タイトルはいささかショッキングだが、地味で着実な取材を積み上げ、いま暮らしの足元で何が起こっているかを具体的に伝えている。その内容は、タイトル通りショッキングだ。

◆ねらわれる「赤ちゃんマーケット」

鬼から電話の画面 筆者の石田結貴さんは家族や子どもも問題、教育などをテーマとするジャーナリストであり、二人の息子をもつ母親でもある。本書の物語はまず「子育ての異変」から始まる。

 子育てをスマホに頼る親たちの話はすでによく知られているが、その親自身が授乳からしつけまで子育てのほぼすべてをスマホに頼る状況が生まれているというのだ。
 その背後には毎年100万人が新規に生まれる「赤ちゃんマーケット」をねらうIT産業がある。妊娠から出産、育児、知育、教育、家族イベントまで子育てのすべてにアプリが用意され、母親もまたスマホ依存に陥っているというのである。

 子どもの誕生前からスマホでの情報管理が行われる。いまアプリで大人気なのは、言うことを聞かない子どもを鬼がしかりつけるやつだ。昔、「いうことを聞かないと鬼はくるよ」と子どもをしたことをそのままスマホのアプリとしたもので、ダウンロード数一千万を超える大ヒット商品だ。
 子どもが言うことを聞かないとスマホを取り出し、アプリを開く。画面にいっぱいに鬼があらわれ、「こらぁ、言うことを聞かないのは誰だ、食っちゃうぞー」。迫力満点の画像と声に、子どもはたちまちおとなくしくなる。

 しつけまでスマホに頼ることの良し悪しはともかく、こうしたスマホ依存のその背後には、子どもを騒音とみるような社会の不寛容さに追い詰められる母子という、いまの社会のありようそのものがあると筆者は指摘する。
 筆者が言いたいのは、スマホ依存はスマホという道具の後ろにある社会のありようの反映にすぎないということなのである。

◆「スマホネグレクト」という虐待

technology-slaves 親も子も、四六時中スマホという異物の刺激を受ける日々。当然、心や体調に変化をもたらす。
 アメリカの小児学会は「二歳未満のメディア使用が有益である証拠はなく、子どもの健康・教育・発達に対してむしろ有害である可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
 親がスマホに夢中になって子どもを放置する「スマホネグレクト」は明らかに虐待であると著者はさまざまの事例をもとに警告している。

 次いで著者は学校でのスマホを取り上げる。ここでもスマホなしの日常はありえない現実がある。題して「スクルールカーストとつながり地獄」。
 あるIT企業の調査によると、98・5%の高校生がスマホを所有している。利用時間は5時間から6時間。睡眠時間をのぞくと、なんと一日のうちの3分の1をスマホに費やしてることになる。
 LINE,ツイッター、ファイズブック等々SNSにつながり、みんな疲れながら仲間外れをおそれてコミュニケーションを断ち切れない。
 それぞれ上位グループ、下位グループの分かれてカースト制度を形成し、お互い分断したり無視しあったり、仲間外れをしたり、という奇妙な世界が広がる。その世界を支えているのは「同調圧力だ」と著者は指摘している。

 こうした疑似現実に成人も高齢者も主婦もはまっていく。著者は取材を重ねる中で「ママ、スマホじゃなくてぼくを見て」という子どもたちの心の声を聞いたという。同書は「文春新書。740円+税」。

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