種は誰のものか「種と百姓の物語」種子法廃止に思う(下)

(→先月号からの続き
秩父郡横瀬町の百姓、八木原章雄さんの話を聞いた。
借金なし大豆

幻の大豆 借金なし物語
 私がこの大豆に出会ったのは20年前です。甘みがあっておいしく、その上病気に強くて収量も多いということで、秩父から上州にかけての山間地でも盛んに作られていたらしいのですが、当時、地元の古老にいても「昔作ったことがあるような気がする」という程度で、歴史の霧の中に埋もれた幻の品種でした。「借金なし」と呼ばれていました。

 わたしのうちは養蚕農家で畑は全部桑園にしていましたから、大豆は作ってなかったんですね。それで味噌だけは大豆を買って作っていた。コメは作っていたので、麹屋に頼んで麴にして米味噌を作っていました。その頃大豆が自由化されて輸入大豆が大量に入る時代になっていて、考えてみれば私が買った大豆もアメリカ産だった。複雑な気持ちでしたね。

 その養蚕をやめて経営の柱を観光イチゴにしたのが90年代です。桑園が不要になったので、大豆を作ることを思いたちました。そのとき伝統発酵食品の味噌は国産大豆で作らなければと思ったのです。数年前廃止されたのですが当時秩父市に県農業試験場の支場があって、そこに在来大豆が保存されていることを知り、訪ねたのですね。それが「借金なし」との出会いです。

 秩父の言葉で「なす」というのは「返す」を意味しています。それで「借金なし」。借金があっても、この大豆を作れば借金が返せる、というので、この言葉になった。食味もよくて、煮豆にしてもおいしいし、この大豆で作った味噌はとても評判がいい、豆腐もおいしい。大豆加工品として地元特産づくりの有望品種です。

 「借金なし」大豆のもう一つの特徴は、品種としてまだ固定してなくて、栽培しているといろんな形状、色のものが出てくるということです。本来の大豆の色のほか、黒、緑、茶といろいろ入り混じってカラフルです。秩父農林振興センターに頼んで「八木原系大豆」として栽培試験や分析をしてもらったりしました。大豆はもともとはつる性の植物なのですが、栽培の過程でつるが伸びたりもします。

 グローバル化で格差と貧困が拡大するなかで「借金なし」というのは絶妙のネーミングですよね。名前もいいし、おいしいし、病気に強くて作りやすいということで、地域でいろんな人に種を配り、作ってもらうようにしてきました。一時は広まったのですが、高齢化が進む中で生産が伸びないのが残念です。

 この名前は使えるということで、農業とは何の関係もない人に商標登録されてしまうという出来事もありました。あわてて市とJA農協に働きかけて、JAちちぶで借金なし大豆という名称で商標登録をとってもらっています。農協組合員なら自由に使えるようになっています。行政がもう少し力をいれて、地域特産に育てる方策を講じてくれるといいのですが。(まとめ大野和興)


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