映評『アトミック・カフェ』-黒いジョーク今も
- 2017/9/21
- 書評・映評
1982年米国:J・ローダー監督作品
原爆なんて怖くない…黒いジョーク、今も
第2次大戦後の米ソ冷戦時。両国の原水爆競争が激しかった時代。米国政府は国民を安心させるために原爆PR用フィルムを数多く製作した。
それらは、軍国主義者の戦争への肯定的(楽観的とさえ言える)態度そのままに、米国らしいと言えば言える能天気な洗脳映画・劇場CMとなり、米国大衆を連日包みこんだ。
「原爆がいかに安全であるか、害がないか」…それらを無邪気に国民に訴えるプロパガンダをただ編集し、編集者のコメントも何も一切省いた冷徹な作りのこの作品は1982年に発表され、いかに米国政府が国民に、歴史に残る巨大な嘘をつき続けてきたかを実証するものとなった。
「原爆なんて、怖くない!」…それは童話赤ずきんちゃんの「狼なんて、怖くない!」をなぞる。
広島の全壊した原爆被災地の写真を見て、「野球ダブルヘッダーの後の観客席みたいだぜ、ヘイ」と、笑顔で答える米軍高官。これら陽気な好戦主義者たちのバックに、当時のラブソングやバラードが流れる。
映画公開当時、かつての無邪気なプロパガンダ映像を見たアメリカの観客たちは、最初は吹き出し、大笑いし、そして映画が終わった時にはみんな黙り込んで館内は静まり返ったという。ドキュメンタリーでありシニカルでありパロディーでもある、この映画は今も貴重だ。