米国と朝鮮の応酬は次第に激しさを増し、このままでは軍事衝突かと危惧される局面を迎えているようにも見える。日本の安倍政権の圧力一辺倒路線は、その状況にいっそう油を注いでいる。だが、視点を変えればもう一つの情景がみえてくる。本紙前号で紹介した気鋭の東アジア研究者である恵泉女学園大学の李泳采(イ・ヨンチェ)教授も触れている経済的な側面からの視点だ。
いま東アジアの経済状況はダイナミックに動いている。その中には当然朝鮮半島も含まれる。日本のメディアにありがちな軍事優先で状況を分析する視点からは見えない現実がここから浮かび上がる。李教授が6月18日沖縄意見広告運動東京報告集会で行なった基調講演での言及を手掛かりに、その一端を考えてみた。
東アジア経済連携に組み込む
まず前号のおさらいをかね、李泳采教授の分析を簡単に紹介しておく。
李さんは、キャンドル革命の中で韓国民衆が誕生させた文在寅政権の狙いを端的に「南北交流再開と経済共同体化をめざし東アジアの平和建設へ」と表現した。その中身は以下のようなものだ。
文在寅さんには夢があります。南北首脳会談が2回行われました。2000年6月、金大中(キム・デジュン)大統領時代、そして2007年10月、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の時代に2回目の南北会談が行われました。経済交流が行われ、開城(ケソン)工業団地が拓かれ、鉄道がつながって、私たちはこの時代、統一が進められてきたと思いました。しかしこれは挫折させられてしまいました。
金大中さんの太陽政策は、和解を進め、交流することが目的だったのですが、盧武鉉さんの発想は違うところがありました。第2回目の南北首脳会談では経済を統合する案が検討されました。盧武鉉さんは38度線近くの開城地区だけでなく、いつも紛争地域となってきた地域を経済共同体にする、そして開城公団みたいなものをいくつも作る。南北の経済をリンクさせれば、政権が変わっても、戦争になっても、南北は交流できる。例え政権が変わって保守政権になっても変わらないように、首脳会談を制度化してしまおうとしていたのですが、政権が交代して挫折させられてしまっている状態にあります。
いま開城の工業団地は閉鎖状態になっているが、韓国、朝鮮ともそこから相互に利益を得ていた実績は消しようがない。その実績を文大統領は東アジアという風呂敷に包みこもうとしていると李教授は語る。韓国とASEAN諸国とは経済的に密接につながっている。そこと南北経済共同体をつなげ「戦争があってもゆるがないような南北和解システムを作る」。
私見を付け加えると、すでにASEAN10か国に日中韓、インド、オーストラリア、ニュージーランドを入れたRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の交渉が始まっている。金正男暗殺で、国交があり経済交流も盛んだったマレーシアやインドネシア、ベトナムとの関係がまずくなっているが、朝鮮の出方次第ではよりを戻すこともあり得ない話ではない。東北アジアと東南アジアの経済連携に朝鮮半島を組み込んで戦争を避ける、という文構想は十分ありうる道なのだ。2017年5月、文大統領は盟友である朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長をASEAN諸国に大統領特使として派遣、各国首脳との会談を実現した。手は着実に打たれているのである。
ロシア極東開発と朝鮮半島
文大統領の視線はロシアにも及んでいると、李教授は述べる。
韓国で考えられているひとつはロシアカードです。ロシアの天然ガスパイプを、北朝鮮を経由して韓国まで通すという国家政策を文在寅さんは考えています。このような「交換条件」を付けないと北朝鮮はミサイルを放棄しません。天然ガスパイプが通り、鉄道がつながると、韓国の若者に雇用が生まれ、これがヨーロッパまでつながる大きな展開となっていきます。文在寅さんはこの計画案によってトランプを説得できると思っています。彼はビジネスマンだから。『敵対政策ではお金にならないからパイプラインに投資したらどうか』という話にもしかしたら乗ってくるかもしれない。
対北への圧力一辺倒で、極めて観念的な対応しかできていない安倍首相と比べると、文大統領の現実をリアルに分析し対応しようとする姿勢がいかに優れているかがよくわかる。そしてそれは実現性のない話ではないことが、次のような現実から浮かび上がる。