集団的自衛権行使容認が目指すもの by 尾形憲(法政大学名誉教授)

911テロ 昨年末「特定秘密保護法」が各方面からの猛反対を押し切って強行成立し、年内にも施行ということになった。同じころ国会を通過した「国家安全保障会議法」により、年明けに第一回の同会議がもたれた。これは戦前の大本営にあたる存在で、宣戦布告などの強大な権限を持つものである。これらに次いで、安倍首相が照準を定めているのは、武器輸出3原則の見直しと集団的自衛権行使の容認である。

 首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」は4月にも行使容認を求める報告書を首相に提出する方針だったし、6月には政府案をまとめ、国会での集中審議を経て22日に終わる今国会中に閣議決定というのが首相の描くスケジュールだった。

 だが、自民党内では慎重論が噴出。「政高党低」を是正という動きが強い。
 また「平和の党」を自称する与党の公明党は「性急だ」と反発。これは無視できない。
 アメリカは以前から集団的自衛権の行使の禁止が日米同盟の制約になっていると容認を勧め続けてきた。とくに昨今は財政緊迫のため国防予算が削減されており、同盟国に一層の役割を求める声が高くなっている。だが、「戦後レジームからの脱却」を目指す安倍首相はその周辺の「お友達」を含め、靖国、慰安婦問題、村山談話と河野談話の見直しなど、険悪化している中国・韓国を刺激する発言が多い。この両国と事を構えず、とくに中国とは貿易の拡大を望むアメリカとしては歴史認識を含め日本の軍国主義化の促進を懸念するのは当然である。

■自衛隊も戦争に投入
資料画像
 集団的自衛権行使が容認されると、どのような事態が起こるか。安倍首相は米艦船が攻撃されたり、米本国に弾道ミサイルが撃ち込まれたりするケースを挙げているが、いったいどこの国が世界一強力なアメリカにそんな挑発をするというのか。自衛隊ができる支援などたかが知れているし、迎撃ミサイルも無力なものであることは周知の事実である。

 9・11以後アメリカの戦争観は一変した。アフガニスタン戦争はテロの根源タリバン国家を叩くという理由だったし、イラク戦争は実際ありもしない大量破壊兵器への危惧が第一の理由だった。この両戦争では、日本はそれぞれ特別法を制定して自衛隊を派遣した。そして後者については、名古屋高裁で航空自衛隊による米兵のバグダッドへの輸送が集団的自衛権行使として違憲という判決を受けた。

 さきに安倍首相は、これまでの慣例を破って、憲法の番人と言われる内閣法制局の長官に集団的自衛権容認派の小松一郎氏を起用した。前に述べた事情によって、集団的自衛権容認の基本方針は変わらないが、安保法制懇の報告も5月の大型連休明け提出に延期され、法改正は秋の臨時国会、さらに来年の通常国会に先延ばしの意見も出ている。いずれにしても想定されるのは、アメリカが攻撃される場合でなく、アフガニスタンやイラクの場合のように、アメリカがテロの存在を勝手に想定してこれを攻撃した場合であろう。そのときに参戦することによって、日本はこれまで外国の一人も殺さず、朝鮮戦争のさいの一人の海上保安官を除いて一人の日本人も殺されなかった輝かしい歴史に終止符を打つことになるかも知れない。

 考えてみれば、安倍首相の祖父岸信介は戦争中の内務大臣であり、A級戦犯だった。戦後首相だったときは安保条約、行政協定の全面的改定を唱え、駐留軍の最大限撤退と基地の返還を提案した、さらに憲法9条の改定と再軍備―〝国軍〟の復活を目指している。意外と思われようが、アメリカが全学連さえ巻き込んで岸の政権からの追い落としにかかったのも当然である。そしてそれは成功した。
 その血を引いた安倍首相の「集団的自衛権行使容認」がナショナリズムにつながるという懸念をアメリカが抱くのは無理からぬことだし、アジア諸国は尚更であろう。靖国参拝はこれに拍車をかけた。

■全土がフクシマ化爆発する福島原発

 現在の集団的自衛権論はこれまで歴代の政府が当然としてきた個別自衛権容認を前提としている。だが、沖縄を除き北海道も含めた日本全土に54基もの原発を持つ日本は、その何カ所かにミサイルを撃ち込まれれば、全土がフクシマ化という〝自衛〟などできない国になっている。そして国際情勢が緊迫化している今日ほど、非武装・不戦の憲法9条がその輝きを放つ時はない。

以上、尾形憲(法政大学名誉教授) 
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(追記)共同通信社が3月22、23日に実施した全国調査によれば、集団的自衛権行使容認のための憲法解釈変更には反対が前回2月調査より6・7%増の57・7%、賛成が5・0%減の23・9%となっている。

参考1:解釈改憲は憲法上許されない歴代政府が否定
 安倍政権は発足以来、平和憲法を否定し、軍事力の増強と戦争を行える権限を獲得しようと画策を続けている。改憲の可能性が当面はなくなると、現行憲法のままでも戦争ができる方法を追究している。特定秘密保護法を制定し、戦前の「大本営」の役割を担う日本版NSC=国家安全保障会議を制定し、次には集団的自衛権の合法化による「解釈改憲」である。このような安倍の好戦的な行為は歴代政府によって否定されている。

●1954年下田丈増条約局長(衆院外務委)
「集団的自衛権は、自分の国が攻撃されていないのに、他の締約国が攻撃された場合に、自分の国が攻撃されたと同様にみなして、自衛の名において行動すること…憲法で認められた範囲は、日本自身に対する直接の攻撃、急迫した攻撃の危険のない以上は自衛権の名において発動しない」。

●1960年岸信介首相(衆院安保委)
「日本の憲法9条の規定から考えて、国連憲章51条の集団的自衛権が国際法上認められていても、海外へ出て締約国もしくは友好国の領土を守ることはできない…いわゆる集団的自衛権の典型的なものを観念上持っているが事実上行使できない」。

●1972年衆院決算委提出資料
憲法のもとで武力行使を行なうことが許されるのは、我が国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られ、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されない

●2003年小泉純一郎首相(参院外交防衛委)
「私は集団的自衛権を認めるなら憲法改正をしたほうがいいと思っている。憲法を改正しないで、集団的自衛権、これまで積み重ねてきた政府解釈を変えることは小泉内閣ではするつもりはありません」。

参考2:山内敏弘さん(一橋大学名誉教授)の発言
(日比谷「戦争をさせない1000人委員会 3.20出発集会」での発言要旨)

 安倍内閣がすすめようとしている集団的自衛権の行使容認というのは、憲法の基本原理、立憲主義と平和主義を根底から破壊しようとするものであって、断じて許すことができないと考えています。
 そもそも、他国の防衛に、武力行使をもって加担する集団的自衛権の行使が認められないということは、憲法施行以来、67年の長きにわたって、憲法原理を構成してきました。その意味で、日本の基本的なかたちを成してきたものです。

 それをかえるためには、憲法は96条で改正手続を定めています。この手続を経ることなくして、その時々の内閣の憲法解釈によって、あるいは首相の一存によって、憲法の改正を実質的に行うということは、この96条に抵触するだけではなく、立憲主義そのものを破壊するものであると確信しています。

 安倍首相は、憲法解釈の最終的な責任は自分にあると言っています。しかし憲法には、首相などの憲法擁護義務に関する規定こそあれ、首相が憲法の最終的な解釈権者であるとは書いていません。はたして、歴代総理大臣のなかで、このような不遜な発言をした者がいたでしょうか。いないと思います。

 その時々の首相や内閣の解釈によって、憲法の基本原理を変更することがないように、内閣法制局といったものが存在してきました。あの中曽根首相も、あの小泉首相も、本心はともあれ、内閣法制局の見解に従い、一国の基本的な仕組みのあり方を尊重し、集団的自衛権の行使はできないとしてきました。
 ところが安倍首相は、自分の意見に従う人を内閣法制局長官とすることで、憲法解釈を変更しようとしています。歴代の長官はこのようなやり方に反対しているのは当然です。

 確かにこれまでにも、例えば文民条項、政教分離など、政府の憲法解釈が変更されることはありました。しかしこれらの解釈変更と、集団的自衛権の行使についての解釈変更には本質的な違いがあります。集団的自衛権の行使ができないというのは、戦後一貫して憲法の基本原理を構成し、日本の基本的な仕組みをつくってきたものです。そのようなものを、閣議決定で変更することは、立憲主義の破壊以外のなにものでもありません。

 集団的自衛権の行使を可能とすることの法的な根拠はどこに求められるのか。容認論者はいくつかの理由を挙げています。ある論者は、憲法には集団的自衛権行使を禁止する規定がないと言っています。しかしそれは当たり前です。日本国憲法は戦争の放棄を規定し、武力の行使を禁止しています。そういう憲法のもとで、集団的自衛権の行使をわざわざ禁止する規定を書く必要はないのです。

 あるいはある論者は国際法上許されている集団的自衛権の行使を憲法が禁止することはおかしい、という理論を説いています。これは国際法と国内法との違いについての無知の表明です。国連憲章は加盟国に集団的自衛権の行使を認めていますが、集団的自衛権というのは、国連の集団安全保障システムのなかにあっては例外的規定としてのみ認められているものにすぎません。そのようなものの保持を日本国憲法が否認したからといって、国連憲章の趣旨になんら抵触するものではありません。

 第一次の「安保法制懇」は憲法9条を曲解し、自衛戦力合憲論を根拠に、集団的自衛権行使を容認する提案をしていました。これは従来の政府見解を否認するものです。

 最近では、必要最小限度の自衛権行使の一部として、集団的自衛権の行使を認めることができるのではないかという意見があります。これは内閣法制局や公明党の支持を取り付けることができるかもしれないというかたちで出てきたものかと思います。しかし、「必要最小限度の自衛権の行使」というのは、あくまでも「自国を守るための必要最小限度の自衛権の行使」ということであって、海外に出て行って、他国のために武力行使を伴った戦争行為が「自国を守るための必要最小限度の自衛権の行使」と説明することは、到底できません。

 集団的自衛権の行使は、国際的に見ても、大国の小国に対する侵略戦争の意味合いを持ってきました。そのようなものを認めることは、日本がふたたび侵略国家になるということを意味します。
 憲法は、ふたたび戦争の惨禍が起こることがないように決意し、国際紛争をあくまでも平和的手段によって解決するということを、侵略戦争への反省を踏まえて定めています。そのことを、私たちは守り抜いていくべきであると考えています。

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