持論・時論】原発をどうする積もりなのか?―原発ゼロを超える論理 by 大内秀明(東北大学名誉教授)

鎮火しなければ原因解明できない
無残な姿の福島第一原発
 都知事選も終わり、いよいよ政府も原発再稼働を含む新たな「エネルギー基本計画」の策定に乗り出したようです。何やら原発を石炭、地熱、水力と共に、「ベースロード電源」として再稼働させるようです。「ベースロード電源」とは、発電コストが低く安定的に稼働できる電源だそうですが、「福一」の事故をどう考えているのか?大変な事故を引き起こし、多大な犠牲を払いながら、またこの間に国民に対して原発ゼロの状態を経験させながら、なぜ「発電コストが低く」、かつ「安定的に稼働」できる、と言えるのか?一方で、新設・増設を事実上断念しながら、なぜ既存の再稼働だけ「ベースロード電源」と称して容認するのか?まったく理解できません。あるのは「原発再稼働ありき」だけで、それのゴリ押しでしかない、そんな気がします。

 原発を、電源にどう分類するかの議論以前に、「福一」の事故をどうするのか?事故後3年を経過するのに、汚染水は止められない。燃料棒の引き上げも進まない。この状態は、火災で言えば、まだ燃え続けている。消火活動が続いていて鎮火しない状態だ。鎮火しなければ、現場検証も出来ない。火災の原因が解明できない。原因が分からなければ、火災後の計画も立てられないし、再建の許可も申請できない筈だ。「福一」の事故も、これと同じ状態ではないか?にもかかわらず、「エネルギー基本計画」にもとづいて、安全性が確認できた原発から再稼動する。その準備として、今回の「エネルギー基本計画」が策定されるのです。

鎮火もしていないのに安全審査請求
「冷温停止」は終息でも鎮火でもない
 しかし、「福一」事故の現状からすれば、まだ火災が続いている。現場検証もできぬまま、原因の解明が行われていない状態です。とくに、「福一」の事故については、津波による事故なのか?それとも、直前に起った地震による事故なのか?それにより安全性の判断も大きく変わってくる。巨大津波は、地震に比べて確率的に発生が少ないだろう。しかし、地震であれば、同じ程度の地震は沢山起っているし、発生の可能性も高い。地震で「福一」の原発事故が発生したなら、安全基準はより厳しく、レベルが高いものにならざるを得ない。

 勿論、そもそも原発に安全性の基準などあり得ない、という議論があり得ます。当然の議論ですが、それ以前に原発事故の原因が現状では解明されていないのです。
 そうした現状にもかかわらず、民主党・野田政権のもと「冷温停止状態」を事実上の事故終息宣言のように扱いながら、原子力規制委員会が原発再稼動に向けた安全審査を進めている。電力資本が次々に安全審査の請求をする。しかし、鎮火していない、現場検証が出来ない、安全審査の基準もない、それにもかかわらずマスコミなど、「原発再稼動 遅れに遅れ」、さらに「長引く判断に終止符を」(日経2月20日付)などと書き立てて、原子力規制委員会に圧力をかける。しかし、「遅れに遅れ」は、除染であり、汚染水処理であり、燃料棒の引き上げなど、事故原因の究明です。原発再稼動ではない。

原爆と原発は表裏一体で開発された
ビキニ環礁での水爆実験
 このように見てくると、「福一」の現状は、1986年に発生した旧ソ連のチェルノブイリ原発事故と非常に似ています。「福一」は、チェルノブイリの後を追いかけているのです。

 すでにチェルノブイリ原発には触れましたので、出来るだけ重複を避けますが、先ず確認すべき点は、チェルノブイリ原発が米ソの冷戦体制の産物であり、核兵器の開発競争の結果である点の確認でしょう。核開発の実用化は、言うまでもなく1945年、日本の無条件降伏に先立つ広島、長崎への原爆投下でした。それに続いて、旧ソ連がセミパラチンスクでの核実験で対抗、米ソの東西冷戦は核開発競争で幕を開けたのです。1953年ソ連の水爆実験に対抗して、翌年米がビキニ環礁で水爆の実験、第5福竜丸の事件が起る。60年経った現在でも、実験現場から避難した島民の帰還が実現していない。恐るべき被害の現実が報道されています。

 原発での平和利用も、もともと原子力潜水艦の原子炉の民間転用から始まったそうですが、53年アイゼンハワー米大統領の「原子力平和利用」の国連演説が切っ掛けで、翌54年に早くも旧ソ連がモスクワ郊外オブニンスクで実用化に成功、米ソの核開発競争に原発開発の競争が加わります。70年代の石油危機もあり、原発の開発競争が加速激化し、米のスリーマイル島、旧ソ連のチェルノブイリ、そして日本でも東京電力が、「福一」をはじめ「原発銀座」を東北の福島に開発したのです。

 このように軍事利用の「原爆」と平和利用の「原発」とは、いわば表裏一体となって、冷戦下の米ソの核開発競争の中で開発がエスカレートしたのです。そして、そうした核開発の競争激化の帰結が、原発事故の連鎖にもなりました。1979年の米スリーマイル島の原発事故に始まり、86年の旧ソ連のチェルノブイリ事故と続きます。廃墟となったチェルノブイリの住宅街

 チェルノブイリは、1971年に着工、78年に1号炉が営業運転開始、すでに紹介しましたが、その正式名称は「V・I・レーニン共産主義記念チェルノブイリ原子力発電所」でした。レーニンとの直接の関係はありませんが、拙著『ウィリアム・モリスのマルクス主義』でも紹介しましたが、レーニンの有名な演説「共産主義とは労兵ソヴィエトの権力と全国の電化である」、このソ連型国家社会主義のシンボルとして、チェルノブイリ原発が開発され、1号炉から4号炉まで開発されただけではない。さらに、5号炉、6号炉も建設中であり、この原発の規模は当時世界一、文字通りソ連社会主義の象徴でした。ところが、86年4月26日に4号炉が原発事故を起し、その放射能の拡散はヨーロッパ各地から世界中に拡大しました。それだけでなく、ソ連型社会主義の病根が曝け出されることになり、その5年後、旧ソ連は呆気なく崩壊、マルクス・レーニン主義のロシア革命の歴史とともに、冷戦構造の米ソ超大国の東西対立にも終止符が打たれたのです。

 チェルノブイリ原子力発電所は、ウクライナの独立国営事業体チェルノブイリ原子力事業所に名称は変更されました。4号炉の事故発生と共に、すでに建設中だった上記5号炉、6号炉は建設が中止、しかし1号炉、2号炉、3号炉は、事故後も電力不足を口実に運転を再開、つまり再稼動しました。しかし、5年後に旧ソ連が崩壊、さらに2000年12月に最後まで運転、再稼動を続けていた3号炉も運転を停止し、その後は炉を廃炉にする作業が行われましたが、4号炉についてはコンクリートで封じ込めるため、延べ80万人の労働者が動員されて石棺で覆われている。しかし、放射能の汚染水の処理をはじめ、放射性物質の処理が遅れ、たとえば発電所の看板についても、昔のV・I・レーニン共産主義記念チェルノブイリ発電所のままであり、ロビー前の広場には、レーニンの胸像が置かれたまま、と言われています。今回のウクライナの政変が、さらにレーニン批判を強めるとすれば、こうした所にどのような変化をもたらすのか、注目されるでしょう。

日本に原発は必要不可欠なのかチェルノブイリ事故ではヨーロッパ中に放射能が拡散した

 そこで、チェルノブイリ原発事故の後を追っている「福一」の事故処理ですが、福島第二原発をどうするのか?チェルノブイリの4号炉以外の処理と関連するでしょう。しかし、そうした論点には一切触れず、まだ事故の原因も津波か?地震か?全く不明なまま、ただ一方的に安全性の基準が検討され、さらに今回の基本計画で「ベースロード電源」として必要だから、原発再稼動に踏み切る、まさに「再稼動ありき」の結論です。チェルノブイリでも、電力供給の必要性から、上記の通り運転を始め、再稼動してみた。しかし、再稼動した原子炉は、次々に運転停止に追い込まれ、挙句の果てに旧ソ連そのものが崩壊してしまった。ウクライナの地に「核のゴミ捨て場」のように放置されたまま、再び内戦の危機を迎えている。

 日本の場合、チェルノブイリと違い、果たして電力供給にとって、原発が必要不可欠なのか?この間、国民の節電意識は急速に向上した。そもそもオール電化など、電力の過剰消費とも言える生活が強要されてきた。生活の見直しの中で、節電の可能性は、まだまだ高いと見るべきだし、現に3・11以来、原発ゼロでも生活は維持され、企業も経営を続けてきた。だから、大多数の国民は原発ゼロを強く期待するし、都知事選の結果でも、原発ゼロが争点にはならなかったものの、舛添票を含めて、脱原発は都民の圧倒的世論と見るべきでしょう。

 確かに円高が円安に変り、輸入原燃料は値上がりしている。しかし、この程度の円安は、過度な円高が是正されただけの話で、過去の円安の経験からすれば、原発再稼動の理由にはならない。貿易の赤字は、原燃料の値上がりによる赤字ではなく、むしろ円高が是正され円安になったにもかかわらず、輸出が伸びなくなったのが原因で、原発再稼動とは関係ないでしょう。原発ゼロの前提で、輸出競争力の強化を考えるべきではないか?と言うより、輸出主導型の成長、輸出立国の時代が終わったと認識すべきでしょう。
原発事故のせいで疎開を強いられた福島県双葉町
 そう考えてくると、原発再稼動が必要なのは、電力資本を中心に、一部の企業のコスト面の理由だけではないか。すでに建設し、ランニングコストも割安になった原発が再稼動して、それを使い切れば、確かにコスト面で大助かりでしょう。地域独占に安住し、原燃料はじめコストを料金に丸ごと上乗せできる電力料金が維持できれば、経営は安泰である。しかし、それを許せば、3・11の「福一」の大事故にもかかわらず、既得権益が保守・温存される。すでに東北電力など、電力資本は減益から増益に転じている。既得権益の温存は、企業の合理化努力を鈍化させ、電力改革を遅らせ、さらに国民的合意が形成されている「自然再生可能エネルギー」への新たなエネルギー改革を阻むことになる。その危険を感じたからこそ、構造改革の旗手だった小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」発言や行動が蘇ったのでしょう。

オバマと真っ向から対立する安倍の戦略

原発輸出をゆるすな では、最後的に原発再稼働を支えているものは何か?すでに日本経済は貿易赤字が更新・拡大し、輸出主導型から所得収支・対外直接投資主導型へ急速に転換しようとしている。国内の原発・新増設は諦めても、原発の対外輸出を推進する。ODAや円借款もフルに利用し、プラント輸出、インフラ輸出、人材輸出と抱き合わせの原発輸出セールスには、日本国内の原発再稼働も利用したい。過去の植民地支配を反省するウエットな「自虐史観」イデオロギーからの転換のために、「戦後体制からの脱却」、さらに「歴史修正史観」が必要だし、靖国参拝も復活しなければならない。TPPに乗り込んで、米国を蹴散らしても、アジアに日本の「勢力圏」を確保しなければならない。勢力圏の確保と維持のためには、独自の「集団的自衛権」も必要だし、武器輸出も拡大しなければならない。その先には、戦後冷戦体制の中で構築されてきた、「原爆」と表裏一体の関係にある「原発」もまた死守しなければならない。

 しかし、これがオバマ米大統領のポスト冷戦に対する「核廃絶」の戦略とマッチしないどころか、真っ向から対立する。安倍首相の靖国参拝は、今やオバマ大統領の「不快感」に止まらず、共和党の知日派にも対日不信感として拡大している。オバマが大統領選の際、〝Change! Yes, We can.〟 と力強く訴え、内外からの大きな期待を集めました。その変革の課題こそ、他でもない「核廃絶」の時代の創造だとすれば、事は余りにも重大です。ノーベル平和賞を受賞し、自ら「核安全保障サミット」を提唱、今年はオランダのハーグで米中両首脳の「新大国関係」が話し合われる。そこで「核廃絶」のポスト冷戦が登場すれば、それこそ「脱原発」は「脱原爆」であり、唯一の被爆国として「原爆許すまじ」を「原発許すまじ」として叫び行動する、それを強く期待したいと思います。
(中見出しは編集部がつけました)

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