書評『秋田県の朝鮮人強制連行』(野添憲治著)
隠され消えかけた 朝鮮人強制連行の後を丹念に追跡

1万4千にものぼる無辜の民の慟哭
ブックレット『秋田県の朝鮮人強制連行-52ヶ所の現場・写真・地図』
 東京スカイツリーを見上げる東京都墨田区の一角で9月1日と2日に、関東大震災の混乱に乗じた軍隊や警察、自警団の手で殺された朝鮮人・中国人・社会主義者ら犠牲者を慰霊する二つの追悼式が行われた。
 震災から94年経つ今も、政府は事件の究明に消極的なうえ、1日の式典で例年読み上げてきた追悼文を小池百合子都知事が取りやめたことに遺族や支援者は「犠牲者の霊は鎮まらない」「この国の排外主義が強まるのではないか」と反発していた。

 墨田区の都立横網公園の一角に追悼碑が立っている。 関東大震災の混乱に乗じた軍隊や警察、自警団の手で殺された朝鮮人の追悼碑である。大震災から半世紀経った1973年に、心からの追悼と歴史の誤りを繰り返さない誓いにと建立された。震災発生の1日午前11時58分を挟み、虐殺された朝鮮人追悼の式典が碑の前で行われた。記者会見等で式典での追悼文取りやめたの理由を聞かれた小池知事は、虐殺死と震災死をあえて同列に置き、虐殺の歴史に対する自らの歴史認識をあいまいにする対応に終始した。

 歴史を直視せず、覆い隠す言説や行動はこのごろとみに増えている…しかも権力者の中で。そんな時、この小さな冊子の存在を思い出した。鉱山や建設現場に中国大陸や朝鮮半島から多数の労働者の強制連行して過酷な労働に従事させ、多くの死者を出したことなど、手つかずの戦後処理問題はたくさんある。その一端を掘り起こしたのが野添憲治さんがまとめたブックレット『秋田県の朝鮮人強制連行-52ヶ所の現場・写真・地図』である。

花岡平和祈念館 野添さんは秋田・能代に腰を据え、この列島の民衆の歴史を記録してきた。その仕事の一つに、日本国家が侵したアジア侵略戦争の残酷さを、地元秋田で掘り起こした強制連行の記録がある。野添さんがまず取り組んだのは花岡鉱山における中国人強制連行の掘り起こしだった。986人の中国人が強制連行され、過酷な労働、暴行・虐待、劣悪な食事による餓死で419人が死亡した。秋田の民衆運動として、多くの方々とともにこの事件を手がけた野添さんらの仕事は、全国からの募金をもとに設立された花岡平和祈念館として結実した。

 野添さんが次に取り組んだのが朝鮮半島から連行され、秋田の鉱山やトンネル工事で強制労働に従事させられた人びとの記録であった。秋田の心ある人たちによって「秋田県朝鮮人強制連行真相調査団」が活動を始めて21年。野添さんはその事務局長として調査団の活動を牽引した。「真相調査団」を名付けたのは、記録がほとんどなく、すべて歴史の闇に隠されているからだ。その調査の一端をブックレットの形でまとめたのが本書である。定価600円と安い価格をしたのは、出来るだけ大勢の方にこの事実を知らせたいという思いからだ。 

 調査団が現段階で確認したのは、強制連行された朝鮮の人たちが働かされた事業所は秋田県下で77か所、1万4000人にのぼる。この数字も事実の一端にすぎない。死亡した朝鮮人を埋葬した場所も草木に覆われ発見できないところがあったと報告書は述べている。

 この強制連行に日本国家が直接関与していた事実も出ている。例えば岩手県八幡平と秋田県鹿角にまたがる花輪鉱山でも大勢の朝鮮人労働者が働いていた。花輪鉱山が旧厚生省に提出した資料が残っている。それによると1940年から1944年にかけ337人が労働に従事しているが、その全員が「官斡旋・徴用」と記録されている。敗戦後、帰国したものは40人という記録もある。その差297人はどこに消えたのか。花輪鉱山は1986年に閉山となっており、当時を知る人も記録もない。

 野添さんは本書序文で次のように書いている。
「調査団が長い時間をかけて明らかにした現場も、風雪にさらされたり、また人為的に壊されて跡形もなくなっている所もある。ぜひ現場を訪れて日本人が犯した事実を自分の目で確かめていただきたいと考えて本書をつくった」
 今こそ歴史の原点への視線を揺るぎないものにしたい時だ。

ブックレット『秋田県の朝鮮人強制連行-52ヶ所の現場・写真・地図』ブックレット『秋田県の朝鮮人強制連行-52ヶ所の現場・写真・地図』
発行:秋田県朝鮮人強制連行真相調査団
購入:秋田県能代市鳥小屋59-12 600円+税
振替口座:02530-5-909 2015年7月発行

秋田県における朝鮮人強制連行―証言と調査の記録
  • 野添 憲治
  • 価格   ¥ 2,592
  • 販売者 Amazon.co.jp
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