G・マルゾッキ氏(AICCON理事長)の講演要旨
シンポジウム・イタリアの連帯思想とその実践

マルゾッキさん東京講演会

特集:イタリア連帯思想とその実践に学ぶ(目次)
開会挨拶:コーディネーター 津田直則さん(桃山学院大学名誉教授)
問題提起:なぜ今、社会的連帯経済なのか/武建一(連帯労組関生支部委員長)
G・マルゾッキ氏(AICCON理事長)の講演要旨

連帯と発展のための3つのキーワード
講演するマルゾッキ教授

 このような素晴らしい会にお招きいただきまして非常に光栄に思っております。本日は「連帯」と「発展」についてお話をしたいと思います。
 それを語る上で非常に大切なキーワードが3つあります。補完性、潜在能力、経済民主主義の3つです。

 補完性とは、政府と市民との、法律上の重要な原理のことです。潜在能力とは、市民一人ひとりが正しい権利を持てているかどうかということです。 経済民主主義とは、市場において全ての企業に機会が均等に与えられているかということです。

 ヨーロッパでは「国家」「市場」という自由経済論の他に、「補完性」とともに「福祉経済モデル」が提案されています。この福祉モデルは金や権力といった社会的に強力な部分に位置するのではなく、小さい構成要素も巻き込みながら、可能であれば再分配に介入していく。三つ目の民主主義を語るうえでは、市民が参加できるかどうかが重要な要素になります。

 先月トランプ米大統領が行なった税制改革では法人税を減税しました。お金持ちに有利な減税をしたことになります。こういうやり方では社会的連帯経済の方にはお金がまわらない。富の分配が公平になされないことになります。これが「ふたつの柱」(国家・市場)でしか考えない自由主義者の典型的なやり方です。

 アマルティア・セン(注:ノーベル経済学賞を受賞したインドの経済学者)が「人の潜在能力」の理論で提唱している補完性はこれとは違います。お金持ちが有利になる考え方ではなく、自由と経済成長と民主主義の成長は相互に依存しているため、人の潜在能力の成長に対して投資する必要があると考えています。個人の可能性や能力に応じて全ての人が発展の主役となり活発に参加することができる、そういう社会です。

持続可能な開発モデルのための3つの民主主義
New Economy

 いま申し上げた哲学から、「国家」と「市場」と同等の位置にある「社会的連帯経済」の構造的役割を充分に認識する必要があります。社会を三本柱ととらえることが重要です。より自由でより公平な社会は2つではなく3つの柱によって成り立っています。その3つの柱の間を要求や方策、ニーズへの答えなどが絶えず行き交っています。このモデルは「持続可能な開発モデル」と呼ぶことができます。

 持続可能な開発モデルは3つの民主主義から成り立っています。1つ目は制度民主主義。これは市民の抱えている問題を市民にいちばん近いところで解決されなければならないという補完性を表しています。 2つ目は市民民主主義。これは市民の社会的責任を意味します。そして3つ目は経済民主主義。これは企業形態の多元性、営利団体と非営利団体の機会の均等を意味します。

 この3つの民主主義によって、今までのような企業ではなく新しい形態の企業モデルを創り出すことができます。資本主義的企業と社会的連帯経済の企業との違いですが、資本主義の企業は投資し生産し、利潤を得て、そこから配当するのですが、社会的連帯経済では、利潤を広範囲の人々に均等に分配します。つまり社会的連帯経済は社会的な目的が企業の本質となっていです。

 イタリアでもっとも発展している社会的連帯経済の企業には社会的協同組合や社会的企業があります。
 イタリア語でCo-operare(コー・オペラ―レ」)、これは日本語で「共に働く」という意味です。それが意味するものは、「自由に選ぶ」「個人の利益のためでなく協力する」「共通の目的を共有する」「他人に頼るのではなく自分に責任を持つ」「私たちの後継者から借りているものの持ち主でいる」。これは「自分たちの企業は自分たちのものではなく、これから受け継いでゆく人たちの持ち物である。それを借りている」という認識のことです。ですから「協同」とは次の世代を絶えず見据えています。目先のことだけではなく次の世代を絶えず視野にいれているのです。

 次のキーワードは「相互扶助」です。この理念は自分自身、あるいは自分のグループだけで完結するのではなく、お互いが交換しあうという意味です。交換性だけではなく寛容性、歓待性といった意味も含まれます。「相互扶助」は三次元の方向性を持っていると考えることができます。一つ目は「内的」、これは組合員に向けた助け合い。二番目は「外的」、これは協同組合が活動している地域社会に向けた助け合いのことです。三つ目は国際的な方向性です。発展途上国などの他国民に向けての助け合いです。

イタリア協同組合の誕生と発展の歴史
イタリア国旗

 次にイタリア協同組合の誕生についてお話をしたいと思います。
 イタリア協同組合は非常に歴史があり、19世紀に起源を持っています。19世紀中ごろイギリスにロッチデール協同組合が、市民社会での経済的救済の要求に応えるために誕生しました。イタリアでも19世紀に農業協同組合が誕生します。権利的にも経済的にも非常に不利な立場の人々のための小規模融資の確立のために、農業協同組合や農村金庫が作られていったのが起源になります。

 19世紀の誕生から20世紀にかけて協同組合はどんどん増えていきますが、戦時中のファシズム時代には独裁政治は自由を主張する協同組合の考え方を嫌い、抑圧、協同組合の発展は一旦中断します。
 その後、イタリア協同組合連合(コンフコーペラティブ)、全国協同組合互助会連盟(レガコープ)、AGCI(イタリア協同組合総合協会)の三大協同組合本部が再建され発展を遂げます。

 ここで協同組合をいくつかの違う視点から分類してみます。
 まず組合員が誰かによって3階層に分類することができます。

  • 第1次協同組合 個人または法人の組合員により構成されるもの。
  • 第2次協同組合 市場においてより大きな発展と普及を達成するために同じ事業分野の第1次協同組合の集まりによって構成される「コンソーシアム」。
  • 第3次協同組合 第2次協同組合(コンソーシアム)を国レベルでネットワークで結びつけたもの。
相互互助の関係によっても分類することができます。

  • 利用者協同組合 組合員が協同組合が購入した商品の消費者や協同組合が提供するサービスの利用者。
  • 労働者協同組合 組合員自身が労働者であり、より良い労働条件を作り出すために集まる組合。
  • 提供協同組合 組合員によって提供される商品やサービスを加工したり市場で販売することを目的とする。
    (例:小規模農家が自分たちの生産物を持ち寄って加工したり販売する組合)
  • 社会的協同組合 連帯相互互助を行う協同組合。1970年代初め頃に誕生し、相互互助の境界を社会基盤の外にも拡げることを目的とし、市民社会の促進や統合をめざしている。
 イタリアでは生活協同組合、農業、運送、交通、信用協同組合、労働者協同組合、住宅、漁業などあらゆる経済活動分野に協同組合が存在しています。これによってもイタリアの協同組合の歴史がいかに古いかお分かりと思います。

 協同組合がイタリア経済に非常に重要な位置を占めている(GDPの10%)のは、協同組合を国レベルで形成することに成功したからです。国レベルの本部を持つということは、色々な分野が統合して代表を持つということなので、イタリアの協同組合全体の窓口となることができます。

 イタリアにはコンフコーペラティブ、レガコープ、AGCIという3つの大きな本部があり、それらの団体は州レベル、県レベル、県内のレベルなどに別れた支部を持っており、各支部連合が、サービスや組織体制のネットワークを広範囲に普及発展させ、法務、労務、税務、経理、研修などで加盟企業や組合員に継続的で効果的な支援を保障しています。

 それぞれ分野ごとのフェデレーション(連合)を持っています。農業・漁業、住宅、金融、生活、製造業、医療、文化、出版、サービス、社会それぞれ代表窓口をおいて活動を行っています。各分野ごとに連合を形成したのは、個人や単独の協同組合の利益のためではなく、各分野共通の目的や共通の利益達成の必要性があったためです。これは水平の連帯と考えることができます。

三大協同組合の連帯・統一による福祉事業の拡大・充実
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 3つの大きな協同組合の連合は将来的に連合してひとつの同盟へと移行しようとしています。3団体合計で加盟企業数39000、従事者数115万人、事業高1400億ユーロ(イタリアGDPの10%を占める)になります。これは、組合員数1200万人以上のイタリア協同組合界の90%以上を占めています。

 同盟に加盟している組合員および協同組合はどれほどの力をもっているかを整理しますと、国内の銀行支店の14・8%、流通・小売りの34%を占めます。メイド・イン・イタリーの農産物加工生産高350億ユーロ。協同組合のうち90%以上が福祉関連で、従事者33万5千人がイタリア人700万人に保健サービスを提供しています。これは障害者、老人、貧困者、麻薬中毒者や刑務所からの更生者など社会的弱者のためのサービスです。介助や住居サービスなどが含まれます。

 「公共の利益のための事業」では組合員に対する様々なサポートが行われています。まず、コーペルフィーディ・イタリア。これは三大協同組合連合により作られた国内貸付保障のコンソーシアムです。イタリア全土で運営され、企業が有利な金利で信用貸しを受けやすくなる環境を提供しています。
 二つ目は補足的年金基金です。これは加入労働者、協同組合の分担金から出資されているもので、加入労働者は給与の何%かを基金にあてることによって、国民年金とは別に補足的な年金を受け取ることができます。
 三つ目は職業訓練のための基金です。これは例えば組合員の技術を磨くために行いますが、経営者のためにも研修を行なっています。これも協同組合員の分担金から出資されており、組合員の給料の3%充てられています。国からの支援ではなく自前の資金調達によっているわけです。

 また、イタリアではこの10年、税制改革ということで健康保険の予算が大幅に削られてきました。これを補うために「補足的医療保険」を組合員の給料からの天引きで運営しています。これによって国の医療保険では無料で受けられなかった医療も補足的医療保険でカバーできる仕組みです。

 また、経営が困難になった民間企業を労働者が買い取って、協同組合として再建をサポートする体制があります。ここには国の官庁も参加しています。民間企業を建て直す際に、協同組合を新しく設立するわけですが、その際にイタリアでは法律で定められた「投資家組合員」になって企業再建に参加するという仕組みがあります。
 投資は革新的であり、社会的に重要で持続可能な経済的観点を持ったプロジェクトに対してなされます。あとは福祉関係の協同組合新設のために投資されます。

 協同組合の相互補助の原理に基づいて、新しい協同組合設立のためのサポートや、協同組合同士のグループ化によるスケールメリットを実現することも行なっています。協同組合が集まって協同組合を形成する。これがコンソーシアムのモデルになります。イタリアには非常に多くのコンソーシアムがニーズに従って形成されてきました。設立するには最低3組織が必要です。

相互扶助と連携でつながる「サードセクター」
国連・持続可能な開発のための2030アジェンダロゴ

 最後にイタリアのサードセクターについて触れます。協同組合以外にも「相互扶助」「連携」の原理によって活動している組織が存在します。ボランティア団体、社会推進協会、互助会、NGO(非政府組織)、財団、社会的企業などがあげられます。これらは経済的に「国家」「市場」以外の三番目の企業形態であることから「サードセクター」と呼ばれます。

 その中では「アソシエーション」という形をとるものが多く、市民がボランティアとして活動しているものが多数です。地域であれば地域の寄り合い所、互助会など、市民が自分の時間を提供することによって成り立っている協会です。

 サードセクターが誕生した経緯は協同組合と似たところがあります。社会的改革が必要となった時、そのニーズに応じて誕生してきました。サードセクターの場合も、協同組合と同じように共通の目的を持つ団体が集まって手段や目的を共有していこうという流れが30~40年ほど前から始まっています。

 この考えをもとに1994年からサードセクターフォーラムが形成されるようになりました。これはボランティア、連合化、社会的協同、国際連帯、倫理金融、公正取引の分野で活動する81の第二次、第三次全国組織の代表機関となっています。
 その主な役割は、政府に対する社会的・政治的代表として、また相互のネットワーク間の調整・支援、またサードセクター組織の価値、事業の情報を伝えてゆくといったことです。イタリアの労働組合でもサードセクターフォーラムが重要な位置を占めています。

 イタリアのサードセクター、協同組合などの運動を国レベルで組織し、それぞれの経験を国レベルで総括しまとめていく必要があります。この考え方は国連にまで大きく影響を拡げ、2015年に国連で「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が発表されました。その最終目的はこの地球に生きている我々諸国民のために「持続可能な発展を遂げること」とされました。

 国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」では新しいアプローチが紹介されています。環境、経済的発展、社会的発展の3つの発展が実現されていなければ、真の発展とはいえません。
 またこの3つは同時に発展されていなければなりません。例えば経済発展のために木をたくさん伐採すれば環境にとってよくありません。経済発展のために市民の参加をなくせば社会的発展にはつながりません。このようにこの3つの発展をめざして一緒に働くことを国連が推奨しています。

 この考えに則って、2016年、イタリアでは「持続可能な開発のためのイタリア同盟」(ASviS)が設立されました。これはサードセクターのグループ化だけでなく、将来的には普通の資本主義的企業とも共通の目的を持って長いスパンで活動してゆくものです。
 営利組織であろうと非営利組織であろうと関係なく、またイタリアだけでなく他の国々もまとめて全てが同じ目標を持って一緒にネットワークを形成してゆくということです。将来、このような組織化が実現し、あとの世代にも残してゆけるようになれば素晴らしいことです。(大阪講演会での内容から要約)

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