連載1】競争と分断の共進化から連帯と協同の共進化へ
―関西生コンの社会闘争が切り開いた地平/斎藤日出治(労働学校アソシエ副学長)

競争と分断の共進化から連帯と協同の共進化へ シリーズ連載(1)
― 関西生コンの社会闘争が切り開いた地平 ―
           大阪労働学校・アソシエ副学長 斉藤日出治
D・ハーヴェイ「資本の謎」表紙より
斉藤日出治さん【編集部より】絶えざる競争と際限なき分断化。グローバリズム世界での個人と社会のこの寒々とした荒廃に終わりは無いのか。―労働現場から人間の真の解放を哲学テーゼとして掲げる「大阪労働学校・アソシエ」副学長として、社会変革を担う青年の育成に尽力される斉藤日出治氏(写真)。同氏の渾身の標記論文を今号から数編に分けその全文を掲載する。社会危機を主体的に乗り越えようとする清新な”共進化”概念への、読者諸氏のご意見をお待ちしたい。

■参考文献――
・D・ハーヴェイ『新自由主義―その歴史的展開と現在』作品社
・同『資本の〈謎〉―世界金融恐慌と21世紀資本主義』作品社
・松原隆一郎『消費資本主義のゆくえ―コンビニから見た日本経済』ちくま新書
・山田鋭夫『さまざまな資本主義―比較資本主義分析』藤原書店

はじめに

イギリスEU離脱支持派

 20世紀末から急進展したグローバル化は深刻な危機に直面している。グローバル化は、所得格差、地域格差を拡大し、中産階級を崩壊させ、大量の移民・難民を創出し、宗教紛争・民族紛争を激化させることによって、ついに反グローバリゼーションの反動を呼び起こした。
 イギリスのEU離脱、米国におけるトランプ大統領の誕生、ヨーロッパ諸国における極右政党の台頭は、グローバル化の隘路に直面した諸国の反動を物語っている。
 この反動は、グローバル化の隘路を主権国家の強化によって打開しようとする。流入する移民・難民を排除し厳しく取り締まる、自国民の雇用確保を優先する、といった排外主義的な政策が強化される。

 日本も同じ流れに棹さしている。経済の新自由主義的進展がもたらした雇用の不安定化、貧困の増大、所得格差と資産格差の拡大は、社会の監視の強化、治安の強化、そして国家の軍事化と排外主義への動きを強化し、立憲主義の危機、神権的国体論を触発している。
 新自由主義とは社会を市場の競争原理に委ねるシステムであり国家の非介入を原則とするにもかかわらず、新自由主義の行き詰まりが国家の軍事化および治安の強化と連動し、ひとびとの市民的自由を抑圧する動きが高まっている。

 本論では、このように一見すると逆説的にみえる経済と国家の動向を市民社会の共進化という視点から再考する。この再考によって、経済における市場原理の進展と、国家における権威主義の台頭と、市民社会におけるポピュリズムという大衆的熱狂が相乗効果をともなって増幅する新自由主義の社会危機の動態を究明する。
 その究明を踏まえて、この社会危機を乗り越える連帯と協同の新しい共進化の方向を提示したい[1]。

※:[1] 本論は、2016年9月16日に協同会館アソシエでおこなわれた組合総研(中小企業総合研究所)の職員研修で筆者が行った講演「現在の危機をどう読むか、それにどう反撃するか-関西生コンが切り開いた地平」を骨子にして、書き改めたものである。なお、本論は拙論[2017]の内容とも重なっていることを申し添えておく。

一. 市民社会の共進化 ― D・ハーヴェイ

 あらゆる社会領域への市場競争の浸透が社会生活を脅かし格差を拡大する動き、国家が経済に従属すると同時に軍事化傾向を強め権威主義化する動き、そして社会における排外主義、社会的弱者に対する憎悪、ヘイトスピーチが高まる動き、これらが互いに反響しつつ社会の破局的な危機を引き起こしつつある現代世界をどのようにとらえたらよいのだろうか。
デヴィッド・ハーヴェイの写真

 本論では、この社会危機を認識する方法論的な手がかりとして、デーヴィッド・ハーヴェイ[2010]の市民社会の「共進化」という概念を援用したい。

 ハーヴェイは、「共進化」という概念をマルクスの『資本論』から学んだ、と言う。マルクスは機械制大工業を論じた章で、機械という技術が社会の諸領域に及ぼす作用を、ダーウィンの進化論の方法を用いて読み解く。

 マルクスはそこで、機械という技術が、人間の自然に対するかかわりかた、人間の生活諸関係の組織のしかた、世界を表象する精神的観念のありかた、労働と資本の階級関係のありかた、生産過程における労働者のありかた、ジェンダーや家族のありかたに、さまざまなかたちで作用を及ぼしつつ、それらのさまざまな領域がたがいに共進化して、資本主義の総姿態をかたちづくっていくことに注目する。

 原動機-伝導機-作業機の自律したシステムとしての機械制大工業の出現は、労働者を、道具を使いこなす固有の熟練と技能を備えた職人の地位から機械のたんなる付属品の地位へと押し下げた。
 だが、やがて機械を操作する労働者の配置転換を促進するために工場立法が制定され、労働者の教育を義務づける。
 労働者の教育が広がることによって、固定した分業関係に縛られていた個人は、全面的に発達した個人へと転換する可能性を切り開く。
 女性や児童の労働への参加は、子供の教育のありかた、および家庭における性別役割分担のありかたにも大きな影響をあたえる。

 ここでマルクスは相対的剰余価値生産の方法として機械制大工業を扱っているのだが、機械の出現とともに、精神的諸観念、社会的諸関係、日常生活の形態、社会的諸制度、技術などの多様な活動領域が互いに共進化する動態をつぶさに観察する。

 これらの活動領域は、「資本主義の歴史的進化の中でさまざまに共進化する。どれか一領域が他の諸領域を支配するわけではない。…これらの領域のいずれも、…絶え間なく更新され変容する傾向がある。
 領域間の関係は因果関係ではなく、資本の流通と蓄積を通じた弁証法的な絡み合いである。
 したがって、全体としての編制のあり方が社会生態学的総体性を構成する」(D・ハーヴェイ[2010]、邦訳164-165頁)。

 共進化とは、生物学の用語で、複数の生物がたがいに作用を及ぼし合いながら進化を遂げていく過程のことを言う。
 ハーヴェイは、共進化においてそれぞれの活動領域が社会総体の単なる部分として存在するのではなく、それぞれの活動領域が独立して運動し、その相互作用が総体をかたちづくることを強調する。
 それらの活動領域は自立して運動するだけでなく、それらの相互作用から影響を受け、その共進化を通してみずからの活動領域をかたちづくる。
 市民社会の共進化の動態的運動が、その結果として資本主義のかくある様態を生み出すのである[2]。

 新自由主義的な資本主義の様態は、市民社会の共進化が特定のベクトルに向かって作動した結果として創出された。
 今日の市民社会は、国家に対抗する市民的公共性の領域でもなければ、市場経済から自立した市民の共同生活圏でもない。
 それよりもむしろ、市民社会は市場取引の諸関係に還元されるか、あるいは市場取引の諸関係を補完する領域へと還元されつつある。

 地域の自治組織が衰退し行政によって指導されるようになり、福祉・教育・医療などの公共的事業がビジネス化し、NPOやNGOの非営利・非政府組織も企業の市場取引や政府の事業を補完する役割を担うだけのものになりつつある。

 市民社会のこのようなベクトルが共進化の作用を引き起こし、社会生活のあらゆる領域を市場取引の諸関係に還元し、国家の軍事化や権威主義化を推進し、社会諸関係の分断と人々の孤立化をおしすすめ、人々の敵対関係を増幅させることになる。

 このような特定の方向に向けて共進化する市民社会の動態が、日本の今日における経済構造の転換、および国家の政策転換と密接に連動している。

※[2] たとえば、松原隆一郎[2000]は、戦後日本における家電製品の普及が、家族形態の核家族化、専業主婦の出現などに作用を及ぼしていることをとらえて、このような新しい商品の出現がまったく異次元の家族形態、ジェンダーの領域に及ぼす作用を「共進化」という概念で解き明かしている。ハーヴェイが自著に「資本の<謎>」というタイトルを付けた理由は、資本がこの共進化の運動を通して組織されるものであり、この運動がどのような形で実を結び、いかなる姿の社会を生み出すかは、その結果においてしかわからない「謎」だからである。

二. 戦後日本における経済・政治・社会表象の共進化
  -企業主義的調整・日米妥協・「戦後」という社会表象
 企業戦士のイラスト

 日本の新自由主義的共進化の動態を考察する前に、戦後日本において確立された経済-国家-市民社会の共進化の構造について見ておきたい。敗戦後の日本社会は、経済と国家の相互補完的で独自な制度的構造によって編成された。

1. 企業主義的調整と企業社会

 戦後日本は、1950年代後半の戦後復興、1960―70年代前半の高度成長、1970年代後半から1980年代の輸出主導型成長を通じて経済成長を追求し、「経済大国」化への道を突き進んできた。
 この戦後日本資本主義の成長経済を支えたのが、「企業社会」あるいは「会社本位主義」と呼ばれる日本に固有な労使間妥協と企業間関係の調整様式であった。

 まず、大企業の男性正社員を中心に経営者と労働組合のあいだに結ばれた特殊な妥協、それは経営側が労働者に長期の雇用を保障し、その見返りとして労働側に企業に対する無限の忠誠を求める、という雇用をめぐる労使間妥協であった。
 終身雇用・年功賃金・企業別組合という日本的経営のセットは、この労使間妥協を維持する制度的仕組みであった。

 この妥協によって、企業は不足する若年労働力を企業につなぎとめ、働きながら作業現場で技能を身につけるOJTという日本に固有な技能教育の慣行を創り出す。
 また、社員住宅、健康管理、社員旅行、保養所の整備、文化・スポーツ・福祉サービスの提供など手厚い企業内福利厚生によって従業員の企業との一体化を強化した。このような労働者の企業への全面的な包摂と労働者の勤労意欲の向上を通して、日本企業の生産性と国際競争力の維持が図られた[3]。

 この労使間妥協が長期的に維持されるためには、企業が持続的に成長する長期的な展望が見通せなければならない。
 この展望を保証するものとして、日本資本主義に固有な企業間関係が築き上げられた。

 メインバンク制度と株の相互持ち合いによる<系列>と呼ばれる企業集団の組織化がそれである。メインバンク制度とは、銀行が取引先の企業に対して資金を供与すると同時に、企業の投資を企画し管理し監視して経営の保護を図る。
 企業はその見返りとして銀行に収益機会を提供するという銀行-企業間の妥協である。
 また、企業は取引関係にある企業同士で株を相互に持ち合うことによって、企業同士の安定したつながりを築き、外国資本からの買収を防止する。

 このような金融妥協、企業間妥協によって、企業の長期的な経営が保証され、この妥協が企業内部の労使間妥協を支え、この重層的な制度的妥協によって、日本企業は、正規労働者の長期雇用を保障すると同時に、企業の国内外の競争力を維持・強化した。
 これが戦後日本の経済成長を支えた固有な制度化の重層的構造であった[4]。
(→この項次号に続く

※:[3] ただし、この労使間妥協は、労働者の生活を企業に全面的に統合することによって、長時間労働・過労死・単身赴任・配置転換などの深刻な人権侵害を増幅させることにもなる。
[4] 日本資本主義における労使間妥協、メインバンク制度、企業間妥協といった諸制度の相互補完の関係については、山田鋭夫[2008]を参照されたい。

■参考文献――
・D・ハーヴェイ『新自由主義―その歴史的展開と現在』作品社
・同『資本の〈謎〉―世界金融恐慌と21世紀資本主義』作品社
・松原隆一郎『消費資本主義のゆくえ―コンビニから見た日本経済』ちくま新書
・山田鋭夫『さまざまな資本主義―比較資本主義分析』藤原書店

D・ハーヴェイ『資本の〈謎〉―世界金融恐慌と21世紀資本主義』
資本の謎
 デヴィッド・ハーヴェイ(David Harvey 1935~)はイギリスの人文地理・社会理論・政治経済学者。現在はニューヨーク市立大学名誉教授。『資本論』を中心とするマルクス主義を地理学に応用した批判的地理学の第一人者。今日、地理学分野では、世界で最も多く論文が引用される最重要の学者でもある。
 本書は<自由主義>なる概念の、際限ない強欲的本質を突いた議論を展開する著者が、リーマンショック後の世界金融恐慌を体系的に解明しようとした意欲作。

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