書評『移民の政治経済学』(ジョージ・ポージャス 白水社)/佐藤隆
― 移民排斥は「ホワイト・プア」の地位向上をもたらすのか?

アメリカ移民
移民の政治経済学 表紙 『移民の政治経済学』著者・ジョージ・ボージャスの研究はトランプ大統領の選挙演説にも引用されたという。移民の流入が低所得労働者の賃金を低下させているという統計的な根拠にもされたのであろう。本稿はこの書を国際主義的な立場から批判的に検討してみる。

 ジョージ・ボージャスは労働経済学者で、キューバ革命後、家族と共にアメリカに亡命した工場経営者の息子である。自身が移民というマイノリティでありながら、他方、革命の混沌に心的外傷を受けたという屈折した立場の人である。研究者としての立ち位置としては、「特定の政治的立場に組みしない」としながら、「移民受け入れがアメリカの経済的利益をもたらす」という学会主流派のプロパガンンダには批判的で、他方、自身は移民や途上国の利益ではなく、アメリカの国益に立脚した主張をしている。

1. 移民の国としてのアメリカ合衆国

 1607年以来、米国には9200万人以上が海外から移住したという。米国の国籍法は属地主義で、移民の子供は米国で米国人の権利を取得できる。現在の米国の人口は3億人強、したがって、米国はネイティブを除けば、移民(及びアフリカから奴隷として連行された人たち)が定住して成立した国家と言える。

 初期の移民についていえば、1790年まで66%がイギリスから、20%がドイツからの移民であるという。1845年にアイルランドで「ポテト飢饉」が起き、20年でアイルランドの人口の20%、170万人がアメリカへ移住した。

 その後の移民の流れとしてはふたつのピークがある。第1のピークは1900~1909年までで、年間80万人くらいが移住、イタリア・ポーランド・ロシアからの移民が多かった。これらの移民を発展する米国・製造業が吸収、1914年のフォードの従業員の75%が移民であった。帝国主義の形成から第1次世界大戦への向かう時期である。

 第2のピークは1990年代から現在までで、年間100万人を超える人々が渡航し、アジアとラテンアメリカからの流入が増大している。グローバリゼーションと新自由主義の時代であり、1970年から2015年まで、輸出入が占める対GDP比率は11%から30%へと増大、外国生まれの人も5%→16%へと拡大している。要するに、現在の米国の移民の増加はグローバリゼーションと軌を一にしたものである。2011年、トップ大学からの特許の75%に外国生まれが関わり、ノーベル賞受賞者の3分の1程度が移民であるという。

 米国における移民は、2014年で約4220万人、うち書類不保持移民1140万~1500万人でメキシコ人が60%を占める。外国人の上位10か国のうち、5か国がアジア、5か国がラテンアメリカである。移民たちの子供たちは「ニューアメリカン」とも呼ばれる。
 要するに、移民の国・米国は、グローバリゼーションの中、今や、途上国を内に抱え込んだ国家になりつつあると言えるのではないか。

2. 「いったい誰の肩をもつのか」-核心としての再分配

 ボージャスは、「国境間の異動の自由で数十兆ドルの所得拡大が見込める」というリバタリアン・新自由主義のシナリオを批判する。また、米国・労働経済学会の通説「移民は長期的には平均収入に影響を与えない」は、「投入労働と資本を2倍にすれば製造商品も2倍になるというモデル」を前提としている以上、結論が先にありきであると批判する。

 ボージャスによれば、移民と米国人の所得格差は1960年マイナス11%であったが、1990年にはマイナス28%に拡大、教育レベルも同等からマイナス2年へと変化しているとする。

 ボージャスはキューバ移民を受け入れたマイアミの研究として、全体としての労働市場は安定しているにせよ、サプライショックにより移民を受け入れた低賃金階層グループの賃金低下あったことを指摘する。また、ソ連崩壊後、優秀な数学者の流入で博士号を取った数学者の失業者が急増したことを指摘する。

 ここからボージャスは、簡潔に言うと「低技能労働者の移民受け入れは米国人低技能労働者の賃金低下につながり、その結果、移民を受け入れで、5000億ドルが競合する米国労働者から雇用企業に再分配される」と結論づける。

 要するに移民受け入れの良し悪しは、この移民雇用企業と競合労働者の「どちらの肩を持つのか」であるということになるという。かくして、トランプ支持者の移民排斥運動につながる論理となったのである。

3. 国際主義とマルクス主義の復権を!

 だが、「いったい誰の肩を持つのか」と問われれば、われわれは、「世界の民衆の肩」と回答しなければならない。食糧の3分の1が廃棄(フード・ロス)される世界で、10人に1人の人が、子供でいえば4人に1人が飢餓に苦しんでいる。これが帝国主義の世界支配と紛争がもたらしている現実だ。
 労働者は団結しなければならない。労働者階級の現状を変えるのは、支配者が正しい政策を取るからではなく、労働者の抵抗が支配者を動かすからである。

 純粋経済学的に考えれば、移民の増加は労働人口・消費人口の増加と変わらない。しかし、現実には国際的な経済格差が移民の賃金格差に反映するのである。資本は利益を増やすために従来の労働者を低賃金労働者に置き換えているのである。低賃金労働者を排除すれば賃金が防衛されるというのは幻想に過ぎない。

 労働者の団結が分断されれば、資本が労働者に対して有利になる。現在の先進国での中産階層の零落は、資本に対する労働者階級の抵抗力の喪失によって社会のルールがますます資本に一方的に有利なものに変容しているのが原因である。

 ボージャスは「低技能移民は国家に社会保障の負担をもたらす」とするが、資本家による労働者階級の搾取こそ、最大の問題だ。低所得層への社会保障は、強搾取による家族崩壊に対する国家の最低限の義務だ。資本家は低賃金労働者からは高賃金労働者から得る以上に利益を得ているのであり、社会保障はそのわずかな還元に過ぎない。

 外国人を排斥する運動では同じ国籍の労働者の団結も実現できないであろう。万国の労働者は団結せよ!(佐藤隆/愛知連帯ユニオン 2018年1月8日)

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