新企画・青年たちは今 第一回】『回転』- 青年座談会に続いて/中田省二


人間社会はナチスのアイヒマンのような「凡庸な悪」にあふれている

『ハンナ・アーレント』フライヤー 当初、私はリベラリズムも学内自治もそんなに大差ないと考えておりました。それどころか、先の二つは同じようなものであり、担い手達は同志だとさえ信じていました。

 今でも学生運動の活動家は、自身の運動を最大の解放闘争なのだと自信を持っている者がおります。きっと、読者の皆様にも経験のある方が多くいらっしゃるかと思います。けれども、先の学内自治からの反差別を訴える運動は、反差別を掲げるリベラルな大学に潰されてしまう時があります。どちらの従事者も、自らが最も正しい路線であると信じているのでしょう。相互に「彼らのやっていることは資本主義のまやかしだ/学生を危険にさらす」と言い切る。それほどまでに「正義」を確信できるのは、尊敬できるなとしみじみします。

 私達は、この世に「正義」が溢れていることを知っています。新左翼に入ったばかりの時、昔話に登場する意地悪な悪者はほとんどおらず、悪者と揶揄した人間が様々な事情の下に「正義」へと歩んでいることに戸惑いを隠せませんでした。ブラック企業でお馴染みの某チェーン社長は、自身が日常的に行っている労働量を何の疑いもなく人に課しただけであり、悪意を持っていなかったという話もあるくらいです。
 誰もが「悪意」に基づいているわけではありません。それこそ、アイヒマン裁判でハンナ・アーレントが凡庸な悪と表現したように、人間社会は平凡な「悪意」に溢れています。

 私達のような新左翼勢力の後継者は、流血から「正義」の対価を学びました。数えきれない死者を出してもなお憎しみ合い、そうこうしているうちに社会から取り残されていく。それを体感したからこそ、各々の正義を認める資本主義下の「多様性」の強さを深く理解しています。

「正義」の対価を自覚する

ヒーローのイラスト 「正義」は多かれ少なかれ暴力性を持っています。社会変革という自己意志を社会へと貫くことは、敵を作り出さないことを避けて通れないでしょう。言い換えれば、「正義」とは奪うことです。そして、近代社会のルールである「奪うことは等しく罪」に、「正義」は加わった。つまり、「正義」は誰かから何かを奪う罪を背負っているということです。
 現在の「被害者であることの無実さ」は、そういったプロセスを経たのではないかと推測しています。人々が罪を嫌う社会では、奪われることでしか言動に正当性を得ることができない。もちろん、権利を著しく損なわされた人間は、取り返す余地があると思います。

 「みんな違って、みんな良い」とされた教育標語は、全ての不利益は当人の能力不足とする資本主義の中で踏みにじられていく。それでもなお、「多様性」は「正義」の均衡を保つのでしょう。この資本主義は「正義」の範囲におりません。ナチスとの戦いも、自由と民主主義を錦の御旗にしたように、資本主義はテーマになりません。これは資本主義がルールと表現できるような、生活の中で人間に溶け込む作用があるからでしょう。

 現在の社会はルールを破壊する「正義」は「見えない物を見る偏屈な人間」とされ、全ての「正義」は「多様性」に調整されていく。かつての「偏屈な人間」は、環境や人権に「正義」ずらしていき、延命を図る。

資本主義と抗う術を探している
私は「罪を負う正義」で誰かを救いたい


正義のイラスト 若者は知っているのです、誰しもに「正義」があることを。あくまで、これは僕の感覚的な言い分ですが、我々の世代は正しいか、正しくないかという問いよりも、傷つけなくて済むかを考えているような気がします。

 誰かが嘘をついているので「悪」なんて分かりやすい構造でもなく、警察権力が弾圧してくるから我々は「正義」といった他人中心的な物差しでもない。重層化された「正義」の尺度で、全ての不利益は当人の能力不足とする資本主義に抗う術を探している。

 私は「被害者である無実さ」にすがって失うことを待つくらいならば、「罪を負う正義」で誰かを救いたいと考えております。それは現行の資本主義下の「多様性」と「正義」の均衡を破壊することになるでしょう。そのためには、安倍政権どころでない地続きで途方もない未来を見据えた資本主義に代わるルールと調停者としての思想を君臨させなければなりません。

 「恥」とは、過ちの再帰と言えるのではないでしょうか。幾多の犠牲を払った「罪を負う正義」を選ぶというのは、「恥」になるのではないかと悩むところであります。(了)

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