グローバリゼーション混迷の中ではじまった大逆転/大野和興
ー FTA / EPAの混迷、TPPとトランプ、習近平の一帯一路

習近平とトランプ
新たな段階に入ったグローバリゼーション 
混迷の中で始まった“大逆転”    

 TPP(アジア太平洋経済連携協定)から米国が抜けた後、残り11カ国で進めたきた「TPP11」は3月8日にチリで署名式が行われた。この「TPP11」のほか、日欧EPA(日本とEUの経済連携協定)、ASEAN(東南アジア諸国連合、10か国)と日中韓、インド、オーストラリア、ニュージーランドの交渉ン参加しているRCEP、さらにはTPPを抜けた米国が日本に迫っている日米FTA(日米自由貿易協定)と、日本をめぐる経済連携協定は多国間、二国間入り乱れて混乱状況といった様相を呈している。ここに中国が進める「一帯一路」と名付けられた巨大経済圏づくりが重なる。さらには世界で最初の多国間自由貿易協定であるNAFTA(北米自由貿易協定)の見直しもからまり、この先どのような世界の経済秩序が見通せるのか、予測がつかない状況が生まれている。その背後で何が起こっているかを考えた。(大野和興)

FTA/EPAの混迷

 80年代に始まり、東西冷戦が終了した90年代以降本格的に進んだグローバリゼーションは、いま新たな段階に向け確実に転換点を迎えている。

一帯一路のイメージ図

「一帯一路」のイメージ図
出典:あさ学ナビ

 「一帯一路」は、北京から中央アジア、東南アジア、西アジア、中東、東欧、アフリカ、西欧をつなぐ版図形成をめざしている。
 その手法は中国の習近平主席と相手首脳が会談し、一帯一路に参加する共同声明を出すことで参加交渉は完了する。欧米や日本などが進めるFTA(自由貿易協定)/EPA(経済連携協定)が複雑に入り組んだ協定書締結にエネルギーを費やしているのと比べ、きわめて簡潔だ。
 これはトランプの米国が、米韓FTAや、やがて始まるはずの日米FTAといった二国間交渉で相手を抑え込もうとする姿勢と似かよっている。世界は今、帝国による新たな陣取り合戦の時代に入ったとみることができる。

 サッチャー、レーガンに時代に始まったグローバリゼーションは、世界をすみずみまで市場化し、自由な競争によって豊かさと貧しさに分断、貧困を拡大し、自然をも市場に投げ込むことで環境破壊を進めてきた。いま、人びとの分断と地域に対する支配が一層強まる段階に入り、人びとの生存権はより脅かされる状況が出てきた。

TPPとトランプ

トランプ大統領 トランプ米大統領のTPP離脱を受けて、米国の復帰を横目でにらみながら米国抜きの11カ国(シンガポール、チリ、ニュージーランド、ブルネイ、オーストラリア、ベトナム、ペルー、マレーシア、カナダ、メキシコ、日本)で進められてきた「TPP11」交渉は今年1月28日に決着、前述のように3月8日にチリで署名式が行われた。TPP11の内容は、特許期間の延長など米国の利害にかかわる22項目については凍結し、米国が復帰すれば元に戻すというもの。

 だが、参加国にとっては、巨大な米国市場に参入することがTPPの大きな魅力であったことから、TPP11は魅力のないものとなった。日本政府はいずれ米国も復帰するという期待を込めて、TPP11の売り込みにやっきだが、マレーシアなどアジアの国は、一帯一路やRCEPなど中国が大きな存在感をもっている経済連携にかたむいている。

 TPPとTPP11 にはより本質的な違いがある。TPPはやはり“オバマのTPP”であった。TPPに力を入れたオバマ前大統領のねらいは、アジアに軍事的なプレゼンスと移すと同時に、TPPで経済的にも中国を包囲するという狙いがあった。しかし時代は移り、いまや中国が米国を包囲するといってもよい状況が生まれている。
 
 そうしたこともあって、トランプ大統領は条件付きでTPPへの復帰をしてもよいという発言をしたりもしている。だがそれがどこまで本気かを誰もが測りかねている。その発言の一方で、2月28日に公表した通商政策に関する年次報告書でトランプ政権は「公正な市場競争を妨げる国々を阻止するため、あらゆる措置を講じる」と述べている。
 「国々」とはまず中国であり、次いで日本だ。年次報告書は日本について、「長年の貿易摩擦、不均衡、貿易赤字を解決するため、米国から日本に輸出するための公平で信頼できる手段を求めていく」と述べている。裏返すと、日本は「公平」でも「信頼できる相手」でもないということになる。この文脈からは米国のTPP復帰はありえないということになる。

習近平の一帯一路

習近平 中国の「一帯一路」もすべてが順調に進んでいるわけではない。金と力で押し寄せる中国に対し、「新植民地主義」という声も上がっている。

 西の大国インドは、中国が高い金利で貸し付ける投資によって、返済不能に陥る国が出ることを警告している。インドが警戒感をもち始めたのは、スリランカへの港と空港の建設。スリランカは中国から資金を借り入れて、ハンバントタというところに港湾と空港を建設した。スリランカは80億ドルに及ぶ借金を中国に負い、そのため港湾と空港と運営権を99年間中国に渡すことになった。

 最近話題になっているのがインド洋の小さな島国モルディブの問題だ。 「一帯一路」構想の一環として、中国政府はモルディブに借款を供与し、国営企業を派遣して港湾建設やその他の公共工事に従事させてきた。国際通貨基金によると、この結果、モルディブの対外債務は2021年に対国内総生産(GDP)比51.2%に達している。

北から南へ、西から東へ

進藤榮一氏

進藤榮一氏

 以上のような動きの背景には、南北・東西の逆転がある。国際通貨基金(IMF)は2014年の報告で、中国、インド、ブラジル、ロシア、トルコ、メキシコ、インドネシアの新興G7のGDPが先進G7のGDPを追い越した。国際政治経済学の研究者進藤榮一氏(筑波大学名誉教授)はこれを「世界経済における『南北逆転』」と評価した。

 こうした経済発展をてこに、安全保障の面でも中国、ロシアを含むアジアの国々が、軍事ではなくエネルギーの安全保障を組み込む体制の構築が始まっている。そこには北朝鮮も組み込まれる。金融面でも、中国主導のアジアインフラ投資銀行(ISIB)は、すでにアジア開発銀行(AIB)をしのぐ勢いを見せている。進藤氏はこれを「東西逆転」と規定している。

 こうした大逆転を歴史の中に置いてみると、欧米がつくってきた「近代」の終焉という現実がみえてくる。80年代から始まったグローバリゼーションも、そうした歴史的文脈から見直し、現在とこれからを見通してどう対峙するかを考えるときに来ている。


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