連載5】競争と分断の共進化から 連帯と協同の共進化へ/斎藤日出治

競争と分断の共進化から連帯と協同の共進化へ シリーズ連載(5)
― 関西生コンの社会闘争が切り開いた地平 ―
           大阪労働学校・アソシエ副学長 斉藤日出治

3.市民社会の表象の転換前号より続き

国家主義復権へのどす黒い象徴=在特会の街頭示威行動

国家主義復権へのどす黒い象徴
=在特会の街頭示威行動

 だが、戦後日本の深層に潜む帝国日本の原理は、人権、民主主義を理念とする日本国憲法の原理と矛盾する。この相矛盾する2つの原理が、市民社会の表象において衝突するようになり、しかも前者の原理がしだいに後者の原理を押しのけるようになる。
 それはなぜか。新自由主義の台頭によって、人権と民主主義の原理が市場競争と私的所有へと還元されるようになるためである。自由・平等は市場における競争の自由と平等に還元され、貧者の救済やマイノリティの人権保障は無視される。戦時性暴力や強制連行の被害者の人権は外交関係によって処理される。したがって、人権、民主主義の理念は、帝国日本の原理の台頭に対する歯止めの役割を果たさなくなる。こうして、嫌韓・嫌中の言説、ヘイトスピーチが台頭し、マイノリティや難民や障害者の差別と排除が昂進するようになる。

 だが帝国の原理と国家犯罪の否認の言説は、日本の市民社会における人権・自由・平等の理念と衝突するだけではない。それは、主権国家日本を超えたトランスナショナルな価値理念とも衝突する。
 1990年代以降、日本によって虐殺され、労働を強いられ、性的暴力を振われたアジアの近隣諸国の被害者民衆が日本政府を告発し、謝罪と賠償を求めるようになる。そして、日本政府に対する被害者のこの告発を、国際諸機関がサポートして、日本政府に対応を迫るようになる。国連人権委員会、世界女性会議、国際法律家協会などの国際組織が人道に対する罪として日本の「慰安婦」問題、強制連行、細菌戦、生体解剖を批判する。

 これらの告発や批判に対して、帝国の原理に立脚する日本の市民社会は、この国際的批判を「日本に対する内政干渉」あるいは「日本を犯罪国家に落としめるための国際的陰謀」へと読み替えて、反論する。これが右派の論壇が唱える「歴史戦」である。日本における市民社会の共進化の構造転換は、このようなグローバル市民社会のヘゲモニー闘争にも組み込まれているのである。

 経済の新自由主義的な調整の高まり、国家の軍事的強化の動き、そして市民社会における排外主義的ナショナリズムと帝国日本の表象の浸透、この三者の動向がたがいに共進化して、ひとびとを競争と分断と敵対の関係に押しやり、同時にそのような社会統合の危機がアジアの近隣諸国に対する憎悪の感情をかき立てていく。

四. 連帯と協同の対抗的共進化 ― 関西生コンの社会運動

 経済の新自由主義的転換、国家の権威主義的転換、市民社会における帝国の原理にもとづく排外主義的ナショナリズムの表象の台頭、という今日の日本の共進化は、まちがいなく日本が戦前と同じような破局へと突き進む道に通じている。
 この破局への道を回避するためにわれわれに求められているのは、このような競争と分断と敵対関係を増幅させる共進化に抗して、ひとびとの連帯と協同をはぐくむ対抗的な共進化を創造することである。

関西生コン労組の自動車パレードに
沖縄からかけつけた山城博治さん

 このような対抗的共進化を創出するためには、沖縄の米軍基地撤去運動や反戦平和運動、日本の侵略責任を問う市民運動、反原発運動、反障害者差別の運動、各種の協同組合運動などがたがいに共進化しつつ、日本の社会形成の対抗的ヘゲモニーをかたちづくっていく必要がある。
 本論では、そのようなヘゲモニー形成の手がかりとなる運動として、連帯と協同にもとづく労働運動、および協同組合運動を展開してきた関西生コンの社会闘争を紹介し、この社会闘争を通して、日本の経済・国家・市民社会の共進化のベクトルの転換を図る道筋を探ってみたい。

1.産業単位の労働組合の創出

 関西生コンの労働運動は、1965年全国自動車運輸労働組合の支部を結成し、関西生コン支部としてスタートした。この労働組合はその当初から個別企業を超えた生コン産業における業種単位の労働組合として発足した。
 それは個人加盟の産業別組合であり、したがって個別企業を超える業種単位の統一司令部をもった(全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部発行『労働運動50年―その闘いの軌跡』[2015]284頁参照)。

 関西生コンの連帯労組は、生コン産業内部での労働者間の競争を排除し、産業単位で賃金条件・雇用条件を統一する集団交渉をおこなったのである。また、連帯組合は資金をプールして福利厚生費を確保し、その費用で労働者の権利を強化するための教育活動・福祉活動に取り組んだ。このような労働組合の組織化は、すでに見たような戦後日本の企業別組合とは正反対のベクトルを提示する。

 個別企業単位の労使間交渉で結ばれた日本の労使間妥協は、経営側が労働者に長期の雇用を保障し、その見返りとして労働者が企業に全面的忠誠を尽くす、という雇用妥協である。このような雇用妥協のために、労働者は雇用保障の見返りとして資本の統制に全面的に服従し、自らの生活の総体を企業に譲り渡すよう強いられる。

 労働者は企業と一体化して、企業間の競争に身をゆだねる。企業の外との競争だけではない。企業の内部では、人事考課の能力査定によって、労働者はたがいの競争心を募らせ、出世競争に邁進する。労働者は連帯して労働条件の改善に努力するよりも、他の労働者よりも高い評価を得ようとして、たがいに敵対し競合する。
 日本企業に特徴的な手厚い企業内福利厚生も、労働者の権利を向上させるためのものではなく、企業の一体感を高め、企業への労働者の帰属意識を確保するためのものであった。

 関西生コンの産業単位の連帯労働組合は、そのような企業間、労働者間の競争に依拠して労働者の権利を企業に委ねるのではなく、その逆に連帯と協同によって組合に結集する全企業の労働者の権利の向上をめざす。
 連帯労組は、組合員全員の統一した賃上げ、業種単位で雇用を保証する連帯雇用保障制の確立、ミキサー車の運転などの劣悪な労働条件や長時間運転の改善を図る。

 このような業種単位の規模の労働組合が生み出された背景には、生コン業界の特殊な事情があった。生コン業界は弱小の中小企業群によって編成されているため、個別企業の労使間取引では、労働者の労働条件を改善した企業が他企業との競争に不利な立場になるため、労働条件の改善は望めない。
 したがって、業種単位のレベルで労使間交渉をしないと賃金・雇用・労働条件の改善を獲得することは難しい。
 関西生コン支部は、このような生コン産業の悪条件をむしろ業種単位の労働組合を創出するチャンスに変えて、連帯労組を結成したのである。(→次号に続く

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