現場から】心身を蝕む長時間労働の実際-安倍「働き方改革」法批判

強行採決に声を失う過労死遺族代表

強行採決に声を失う過労死遺族代表

【編集部より】過労死・過労自殺を助長する高度プロフェッショナル制度の導入を糾弾する労働現場からの叫びを無視し、安倍を支える自公、維新は5月31日、今国会の目玉法案と位置づける「働き方改革関連」の衆院本会議での採決を強行した。酷薄な殺人的労働の末、遂に自死の道を選ばざるを得なかった若者の遺族代表らは傍聴席で声を失った。強行採決現場での可決に小踊りする自民・維新の議員どもを睨みながら、万感の思いを込めて「もはや日本の若者は、こんな国など捨て去るべきだ」と吐き捨てた。本稿はその直前に労働現場からの切実な声として編集部に投稿された一文だ。※見出し等・編集部責

労働現場から安倍「働き方改革」を批判する
― 長時間労働の実相

愛知連帯ユニオン 佐藤隆

 安倍政権が「働き方改革」と称して「高度プロフェッショナル制度」や「裁量労働時間制の拡大」で労働者の一部から残業代をなくそうとしている。そして、長時間労働が蔓延する中で「これを解決する」と倒錯的な主張を行っている。安倍政権の「働き方改革」を批判するために、長時間労働の現場の実態についてレポートする。

1、過労死・脳・心臓疾患と労災

今回の過労死法案の強行採決に主導的に動いた自民党議員の面々

過労死法案強行採決を主導した自民党議員の面々

 現在、愛知連帯ユニオンでは過労死についての労災請求を1件、長時間労働による脳卒中について労災請求を1件、労災認定を求める裁判を1件行っている。

 (1)本年2月21日8時、組合OBの37歳になる息子さんが、トラック会社の応接室で亡くなっているところを発見された。彼は、トラック事業所の所長代理として、営業と労務管理・運行管理を行う他、欠員が出た場合の代行運転も行っていた。また、週末は別会社の研修事業の運営にも参加するというダブルワーク。会社から1キロ程度しか離れていない自宅に帰るのは2~3日に1度、シャワーを浴びる時だけだった。賃金は月40万円。

 (2)5月10には三菱自動車の部品を運搬する45歳のブラジル人運転手が脳出血で倒れて入院、当日、彼は朝4時に帰宅し、朝9時には家を出ていた。1か月100時間を超える残業が続いていた。月額賃金は月40万円余。

 (3)労災認定を求める裁判を行っているのはトラック分会の組合員で、三重県四日市のイオンの配送センターから関西方面のイオンの配送センターへ商品を10トン車で搬送する業務を行っていた。そして2013年12月に脳梗塞で倒れ、右半身麻痺となった。13時~15時に会社を出発し翌5~7時ごろまで勤務、その日の午後にまた出発するという勤務である。賃金は月30万円を超える程度。

朝まで残業イメージ写真 厚労省は脳・心臓疾患の労災認定基準として、残業時間が一ヶ月100時間を超えるか、連続して月80時間を超えることをあげている。これは、一ヶ月100時間を超える残業がある場合に睡眠時間が1日5時間を切り、一ヶ月80時間を超える場合には睡眠時間が1日6時間を切るという推定に基づいている。大原記念労働科学研究所・佐々木司博士によると、5時間未満の睡眠が3日続けば、寝ている時間帯でも血圧が跳ね上がるという。

 上記3事件の労災認定について言えば基準を超える長時間労働は明白なのだが、第1事件は労基法41条の管理監督者として、第3事件は「オール歩合」の賃金で(残業代訴訟は和解)、共に日常的な労働時間の記録がなく、それが労災認定の壁となっている。

 因みに、厚生労働省では、「働き方改革実行計画」の一環として、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月)を出したが、「労災保険法は、副業・兼業している場合であっても、それぞれの就業先における労働時間は合算せず、個々の事業場ごとに業務の過重性を評価する」などと、とんでもない通達を出している。要するにダブルワーク形態で働かせれば過労で傷病が生じても、労災認定されないのだ。第1事件の労災認定請求ではこのことがもう一つの壁になっている。

2、トラック労働者その他の長時間労働の実際

過労運転イラスト トラック労働者の労働時間については、厚生労働大臣から『トラック改善基準告示』が出されている。内容は端的に言うとトラック労働者の一ヶ月の拘束時間を293時間以内にするということである。

 労基法上の一ヶ月の所定労働時間の上限は173時間であるから、1日1時間月約20時間休憩が入るとすると、これは毎月約100時間まで時間外労働が(36協定の特別条項なしに)認められるということである。先の労災認定基準と比較すると、特別条項なしに一ヶ月で過労死を含む脳・心疾患を発するにたる時間外労働が認められているということである。

 トラック業界では1990年に物流2法が制定され、運賃の自由競争とピンハネが合法化、過当競争により2008年頃から運賃の下落と賃金の下落が続いた。それが今日の運転手不足の原因である。平均労働時間は全産業平均より348時間長い2,532時間、平均年収は全産業より29万円低い437万円。トラック労働者は出来高給(「成果に応じた賃金」?!)が多く収入が不安定なこともその特徴である。
 組合員の多くが長時間労働を自ら要求しており、固定残業制や変動残業制(出来高給を残業代に充当する)を巡る未払い賃金の紛争・裁判も多い。

 因みに固定残業制とは本来一定額の賃金を残業の有無に関わらず残業代として支給するものだが、労働現場の実際では基本給の内側に残業代を入れ込み、実質的に残業代を支払わない方法として使われている。例えば、最低賃金をベースに固定残業制を設けて年収1,075万円にすれば、現行法でも24時間365日働かせ放題にすることができるであろう。

過労事務職イラスト 現在、組合では運転手だけではなく配車係(事務職)の未払い賃金裁判も取り組んでいる。この裁判では27万円余の基本給に80時間分の残業代が含まれていると会社は主張している。現状は会社が不利であるが、裁量労働時間制が拡張された場合、このようなケースでは使用者は固定残業制ではなく、裁量労働制を主張するようになるであろう。

 運送業界以外にも長時間労働は蔓延している。キグナスのガソリンスタンドで働いていた3人の青年が未払い賃金を争って裁判をしているが、会社は「234時間が所定労働時間」だとして働かせてきた。3人の青年にはそれぞれ子供がいるが、月の賃金は30万円程度であった。

3、長時間労働の原因は低賃金

非正規の若者のイメージ画像 上記を見てもらえれば解るであろうが、長時間労働の原因は低賃金にある。生活費を稼ぐためには長時間労働せざるを得ない。トヨタ自動車の部品をトラック搬送する分会では「80時間の残業を60時間に短縮するためには基礎賃金の10%アップが必要」と要求している。

 労基法では使用者が時間外労働をさせるためには、過半数労組あるいは労働者の過半数代表との協定が必要である(36協定)。「働き方改革」の内容は36協定の特別条項の上限時間に法的制限をかけようというものである。

 しかし、連合は大企業の過半数労組から形成されており、本来は現行法でも労働側がOKを出す範囲でしか時間外労働はさせられないはずである。現状、青天井の特別条項を有する36協定が結ばれている背景には、多くの労働者が生活費のために長時間労働を望まざるを得ないという逆説があるのだ。

4、高騰する社会保険料と生活費

高騰する生活費イラスト 賃金が足りないことと生活費が嵩むことはメダルの表と裏の関係である。
 賃金から源泉徴収される税金と社会保険料は大雑把にいうと25%くらい。使う時に8%の消費税がかかるので、実質で消費できる賃金は額面の約3分2ということになる。
 因みに世帯年収の平均は約550万円、年収の中央値は約350万円であるから、それぞれ使える金額は、月約30万円、月約19万円となる。

 さらに教育費が高騰している。子ども1人の入学費用は、高校が約50万円、大学が約100万円。高校入学から大学卒業までに必要な費用は約1,000万円となっている。1975年に国立大学の入学金は5万円、授業料は3万6000円であったが、それが2017年ではそれぞれ28万2000円と53万5800円に、5,6倍と14,8倍になっている。因みに現在、大学進学率は50%を超える。

 1996年まで自己負担率10%だった健康保険は、2003年からは3倍の30%になっており、医療・福祉分野では保険外のビジネスも拡大している。また、住宅ローンは50%以上が月7万円以上となっている。

 こうしてみると、子供を進学させ、自宅を購入しようとすると、生活費が嵩み、長時間労働を余儀なくされる現実が浮かび上がる。また、親の介護の負担が新たな大きな家計の問題となってきている。

 消費を扇動する社会で、消費者ローン残高は約3兆円、カードローン残高は5,5兆円、奨学金貸与残高が約9兆円となっており、若者が借金を返すために長時間労働をしている。

5、労働時間短縮に必要なこと

17春闘ミキサー車 数年前の連合総研の調査では残業代が全額支払われている労働者は50%を切ると報道された。
 労働時間を短縮するのにまず必要なことは労働者の賃金を上げること、ついで労基法を守って時間外賃金を正しく支払わせることである。その為にも使用者に労働時間管理を厳格に義務付けることである。

 賃金の基礎単価が高ければ、使用者は自ずと割増賃金の支払いを回避するため長時間労働をさせなくなるであろう。行政の労災認定が積極的になされれば、損害賠償を回避したい企業は長時間労働を避ける。

 同時に、大企業と富裕層優遇の政策に終止符を打ち、教育・居住・医療福祉にかかる金を公共が負担して個人の負担を低減することである。これらは社会変革と一体で進まなければならない。

2018年5月 愛知連帯ユニオン 佐藤隆

働き方改革反対!首相官邸前 過労死遺族が連日必死の座り込み

 安倍政権による残業強化・残業代不払いの「働き方改革」法案に対して過労死被害者家族の会が強行採決に反対し、連日首相官邸前で抗議の座り込みを続けている。この法案が可決されれば過労死が増えることになる。
働き方改革反対!首相官邸前 過労死遺族が連日抗議の座り込み
働き方改革反対!首相官邸前 過労死遺族が連日抗議の座り込み
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