連載6】競争と分断の共進化から 連帯と協同の共進化へ-組合と経営者の協働による連帯経済/斎藤日出治

競争と分断の共進化から連帯と協同の共進化へ シリーズ連載(6)
― 関西生コンの社会闘争が切り開いた地平 ―
           大阪労働学校・アソシエ副学長 斉藤日出治
連帯と公正

【最終回著者挨拶】6回にわたる連載におつきあい頂きありがとうございました。この国が抱えている経済と国家の深刻な危機はどこに根ざしているのか。その危機を「戦後」体制における市民社会の構造転換の危機としてとらえると同時に、社会闘争の共進化の運動の創造によってその危機を突破する道筋を提唱してみました。読者のみなさんの実践と思索のためのヒントとなれば幸いです。

前号からの続き


2.労働組合と経営者の協働による事業別協同組合の建設
  ―共同受注と共同販売
  

第33回近畿生コン労使懇談会 関西生コン支部は、経営者との集団的な労使関係を労働条件の交渉だけにとどめるのではなく、生コン産業の産業政策にまで発展させる。
 1975年に労使共通の政策提言をおこなうために生コン政策懇談会をたちあげ、1976年には大阪兵庫生コンクリート協同組合を結成して、中小企業経営者と労働者の共同行動を組織する。1994年には、大阪広域生コンクリート協同組合を結成し、生コンの共同販売、事業資金の貸し付け・借り入れ、福利厚生、情報提供などの活動に取り組む。さらに、1995年には、生コン輸送の協業化・共同化する事業を担う輸送事業協同組合を設立した。

 生コン産業は弱小の中小企業群から編成されているため、セメント産業と建築産業という、いずれも大手の独占資本が支配する産業の間に挟まれて、高価格のセメントを買わされ、生コンを低価格で売るよう強いられる。
 そのために、生コン労組は中小企業経営者と連携して事業協同組合を組織し、セメント・メーカーからセメントの共同受注とゼネコンへの生コンの共同販売の事業に着手する。
シェア! 事業協同組合が、セメントの共同受注や共同販売に取り組むことによって、生コン産業の個別企業が互いに価格競争をすることを回避し、安定した販売価格を確保することによって、労働者の労働条件や賃金の改善を図る。

 このようにして、生コンの労働運動は、資本の直接生産過程だけでなく、資本の流通過程における価格決定交渉にまで参入することによって、社会的労働運動の新たな地平を切り開く。
 労働運動は、個別企業の経営者との労使間交渉の次元を超えて、産業単位の集団的労使交渉を組織し、さらには産業間の取引における価格決定交渉にまで介入するようになる。
 生コンの労働運動は、このようにして資本の流通過程次元における階級闘争の展開、という日本の労働運動史上未経験の地平を切り開いたのである。

3.事業協同組合の産業政策
 
 労働組合と経営者との集団的労使交渉は、共同受注や共同販売を超えて、さらに産業全体の多様な産業政策の取り組みへと発展する。
 1996年滋賀県工業組合は技術試験センターを設立したのを皮切りに奈良県、和歌山県で共同の試験場をつくる。

 1998年には、コンクリート構造の安全を考えるシンポジウムを開催する。2004年には、中小企業経営者の組合と労働組合が共同で中小企業組合総合研究所を設立して、生コン業界の課題研究、調査、学習のための研究会をたちあげ、生コン業界のシンクタンクを組織する。2005年以降は、マイスター塾を開催して、生コン業界の技能の継承・発展を図る。

 さらに、企業と社会の共生をめざし社会に貢献する事業への取り組みを推進するため、2006年には大阪市と「災害発生時に水利確保に係わる防災活動協力に関する協定書」を取り交わす。また、産学連携研究発表会を開催して、産学官と連携し、研究者や技術者と協力して、社会のニーズに応える研究開発に取り組む。

協同会館アソシエ

協同会館アソシエ

 2009年には、協同会館アソシエを建設し、そこに、グリーンコンクリート研究センターを設置して自然環境と調和するコンクリート技術の開発に取り組む。
 この技術研究の成果が、ポーラス・コンクリートの開発であった。ポーラス・コンクリートは、アスファルトとは違って吸水性があるので、排水路の負担を軽減し、歩行者にも優しく、カラー舗装によって町の景観にも貢献する。地域の緑化運動の一翼も担う。このように、都市の空間編成や緑化にも役立つ技術の開発が目指される。

 教育事業に関しては、小学生のコンクリート教室小学生物作り勉強会を組織する。
 このような技術開発、教育活動の蓄積を踏まえて、関西生コンの社会運動は、2016年大阪市西区川口に学働館・関生ビルを建設し、大阪労働学校アソシエを設立した。

大阪労働学校アソシエ・学働館

大阪労働学校アソシエ・学働館

 労働学校の設立は、技能教育や労働運動の知識を身につけるだけでなく、労働運動が新しい文明と社会を創造するという歴史的使命をもつものであり、その使命を自覚的に担うための素養を備えた人格形成を課題としている。
 労働学校は、すでに述べた日本の市民社会における表象の変革と社会創造の活動にも参画する。
 労働学校は、市民社会の共進化を市場と国家に委ねるのではなく、協働と連帯にもとづいて組織する主体を育てる教育に取り組むことによって、日本の市民社会の変革にも寄与する。企業経営者と労働者が協同組合運動の一環としてそのような人材の育成を課題とした教育に取り組むという希有なこころみが進行しているのである。

4.社会的連帯経済の国際的取り組みへの参画

GSEF2014会場にて 関西生コンの社会運動は、以上のような労働組合と労働運動のありかた、中小企業経営者と労働組合の集団的交渉、事業協同組合によるさまざまな産業政策(共同受注、共同販売、技術開発、教育、技能形成、社会貢献活動など)、労働学校の創設などを通じて、市場の価格変動による需給調整の経済に代わって、当事者の協議と協同にもとづく社会連帯経済に向けた展望を切り開いた。

 関西生コンと労働組合と協同組合は、この経験を国際的にアピールすべく、2014年11月に開催された「グローバル社会的経済協議会(GSEF)設立総会」に参加し、みずからが切り開いた連帯経済の活動の成果を国際大会で報告した。

Old Economy 新自由主義的資本主義の経済は、人々の生活に必要な財やサービスをすべて市場で調達し、教育、医療、福祉、文化、コミュニケーションといったひとびとの社会的諸関係にかかわるすべての活動を市場取引の関係に還元しようとする。そしてそのために、人々の多様な共同的関係を解体し、人々を私的な諸個人に分断して、市場取引の関係に流し込む。

 関西生コンの運動は、みずからの社会闘争を連帯経済の構築として位置づけ、国際会議に参加し、グローバル市民社会における連帯と相互扶助の理念を掲げる運動の一翼を自覚的に担おうとする。
 関西生コンの労働運動は、本論でも指摘した日本の新自由主義的共進化の運動の深層に横たわる日本の国家犯罪の否認にたいしても、鹿島建設の花岡蜂起のような中国人強制連行の実態の究明に積極的に関わり、日本の国家犯罪の歴史的責任と向き合う運動を展開してきた。

むすび

労使一体で「生コン業界危機突破総決起集会」

 関西生コンの社会運動は、社会活動のさまざまな領域に市場の需給関係による調整様式を導入しようとする新自由主義的なベクトルに対抗しつつ、市場の外で連帯と協同の理念にもとづく集団的な協議によって調整する仕組み作りに向けて努力を続けてきた。
 人間と自然とのかかわり、資本の生産・流通・分配・消費の過程における交渉取引、技術のありかた、都市空間のありかた、世界の精神的表象のありかた、これらのさまざまな人間の活動領域を市場の需給関係によって調整しようとする新自由主義の共進化の運動に抗して、連帯と協同の共進化の運動を創出してきた。
 この運動は、社会主義の20世紀的なありかたを刷新し、グローバル市民社会のコンテクストにおいて社会主義を再定義する道を切り開く。

 社会主義の伝統的な戦略は、国家の権力奪取、生産手段の国有化、さらには経済の計画的管理といった単一の目標を設定し集権主義的な解決をめざすものであったが、このような戦略が歴史的に挫折した原因について、Ⅾ・ハーヴェイ[2010]はつぎのように指摘する。

 このような社会主義戦略に欠けていたのは、社会のさまざまな活動領域の共進化のダイナミズムを創り出す、ということであった。
 「共産主義的ないし社会主義的オルタナティブをつくり出すこれまでの試みは、異なった活動領域間の弁証法を運動させつづけることに致命的に失敗した」(邦訳、284頁)。

 さらにハーヴェイは言う。
 これに対して、資本主義が生き残ってきたのは、ほかならぬこの共進化の弁証法的運動を生み出し続けてきたためである、と。
 本論で最初に論じてきたように、日本の新自由主義は、経済政策、軍事化政策、市民社会における歴史認識・歴史教育・社会運動といった領域において、互いに矛盾するかのような活動を通して共進化の運動を創造してきた。
 それが環境の破壊や金融危機や災害といった社会の破局的危機を引き起こしながらも、その危機を共進化の運動の契機として包摂しつつ生き延びてきた。

New Economy 資本主義のオルタナティブを求める運動は、この新自由主義の共進化に対抗しうる新たな共進化の運動を創出しなければならない。
ハーヴェイはこの共進化の運動を「共-革命理論の構築」(同、邦訳283頁)と呼ぶ。
 求められているのは、さまざまな諸領域の内部、および諸領域間の関係を横断する「戦略的な政治的介入」(同、邦訳285頁)であり、この政治的介入を通して、社会を新自由主義の共進化とは異なった発展径路へと移動させていくことである、と。

 この政治的介入は、前衛政党のような統一指令部の指示によってなされるものではありえない。しかしかといって、それぞれの活動領域で個別に変革を進めれば自動的に共進化が生じてくるわけでもない。
 自然とのかかわり、自由で公正な社会制度の改革、民主主義的な行政手続き、連帯と協同にもとづく社会の組織化、解放と自律の精神的諸観念の生産といった、さまざまな領域での取り組みが、相互に作用を及ぼし合うような関係を自覚しつつ戦略化することが求められている。

 反資本主義の運動にとって重要なことは、個別の契機のダイナミズムをみるだけでなく、「他のすべての契機との諸関係がどのように適応しそれを反映するのかを見ながら注意深く修正」(邦訳285頁)することにある。
 これらの諸契機のなかでも、とりわけ重要な契機が「世界を理解する新しい精神的諸観念」(邦訳294頁)である。精神的諸観念は、生産組織、社会諸関係、技術、自然との関係といったあらゆる契機を組織する際の知的・道徳的指針を提供するからである。

 新自由主義の共進化においては、市場競争や私的所有における個人的自由を最高の理念とする精神的観念が社会形成のあらゆる契機を組織する指針となる。この精神的観念は、能力主義の神話、優生思想の神話と容易に共鳴し、人々を孤立させ分断する。
 人々が市場競争や私的所有の自由に代わって、連帯と協同にもとづく自由の観念を共有するとき、社会の活動の諸契機を組織するベクトルは大きく舵を切ることになる。

     ◆

労働学校アソシエ2016入学式 大阪労働学校アソシエはそのような精神的諸観念をはぐくむ重要な教育装置である。わたしたちに求められている市民社会の共進化とは、社会の多様な活動領域を連帯と協同にもとづく社会の発展径路へと誘導する実践的・政治的介入の道筋にほかならない。

 関西生コンの運動は、個別企業の労使間交渉という狭義の労働運動の枠を超えて、経営者との集団交渉による産業政策への介入、労働者の技能形成、技術開発、労働者の精神的諸観念の創造、都市や地域の組織化、といった社会の多面的な領域で、連帯と協同の関係を創造するという共進化の運動を追求してきた。

 そしてこのような運動が、労働運動を超えるさまざまな活動に取り組む人々との出会いを促した。沖縄の反基地闘争、フェミニズムの運動、部落解放運動、NGO/NPOの運動、公害問題に取り組む市民運動、反原発の運動。関西生コンの運動はこれらの社会運動との共進化を果たすことによって、新自由主義に代わる市民社会の対抗的な共進化を創造し続けている。

 ハーヴェイは、伝統的左翼の運動が政党と工場内の労働組織を中心に担われていたのに対して、共進化の革命闘争は「市民社会の全スペクトラムを横断する社会行動のダイナミズム」(同、邦訳312-313頁)へと移動する、という。この市民社会の共進化の運動が、その帰結として国家の転換と、その国家の下での社会的・経済的な制度改革を推進するエネルギーとなる。 <完>

<参考文献>

「コモンズ」119号の目次にもどる

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で

  1. コモンズ最新号目次

特集記事(ランダム)

  1. 下品な「キモノドレス」

    2017-11-16

    イヴァンカ・トランプ そのファッションブランドの闇/大野和興

季刊「変革のアソシエ」No.32

最近の記事

  1. 6・10 第9期 沖縄意見広告運動 関東報告集会
     8日の大阪集会に続いて東京でも6月10日、関東報告集会が東京御茶の水の全電通労働会館ホールにて…
  2. 6・8沖縄意見広告関西報告集会
    あきらめない!!命の海をこわすな! 6・8沖縄意見広告関西報告集会  辺野古への土砂搬入が8…
  3. 死刑執行オウムの闇に蓋をする 基準適合規制委こそが不適合 歴史から何を学んできた戦後 …
  4. 「業種別職種別ユニオン運動」研究会 連続3回講座
    「業種別職種別ユニオン運動」研究会へご参加を! 8・25 第一回「関西生コン支部の歴史と現状」  …
  5. TYK高槻生コン
    ヘイト集団追い詰める - 勇気ある一企業が突破口 協同組合の私物化 違法な出荷割り付け減らしは許さ…

職場・労働相談はこちら(外部リンク)


連帯労組の闘い ↑ 映画「フツーの仕事がしたい」より 労働相談は連帯ユニオン

特集(新着順)

  1. TYK高槻生コン

    2018-7-18

    勇気ある一企業の声が突破口開いた-大阪広域協4人組が全面敗訴

  2. 2018-7-16

    大阪中央公会堂 6・23 総決起集会 「奴らを通すな!」響き渡る1150名のコール

  3. 史上初の米朝首脳会談

    2018-7-11

    史上初の米朝首脳会談と「共同声明」を歓迎する

  4. 連帯と公正

    2018-6-25

    連載6】競争と分断の共進化から 連帯と協同の共進化へ-組合と経営者の協働による連帯経済/斎藤日出治

  5. 悪法強行採決に声を失う過労死遺族代表

    2018-6-21

    現場から】心身を蝕む長時間労働の実際-安倍「働き方改革」法批判

バックナンバー

カテゴリ一覧

本日
昨日
累計
FROM 2014/01/01
ページ上部へ戻る