青年たちは今(4)わたしはどうやって変わることができたか/原田和泉

わたしはどうやって変わることができたか

「選択する自由に甘んじるな」との恩師の言葉

 自由という言葉には、二つの意味がある。それは選択する自由と作り出す自由だ。与えられている選択肢からどれかを選ぶ自由と、選択肢そのものを一から作り出す自由とも言い換えられるだろう。高校の時の恩師は私に、「選択する自由に甘んずるな」と繰り返し言っていた。

 この社会で多種多様なものを与えられ続けている私たち若者。大量生産・大量消費社会の中で、私たちの手の届く選択肢はあらゆる分野で豊富になった。趣味に注ぎ込む大金がなかったとしても、ネットさえできれば、動画、アニメ、ゲームなどの楽しい娯楽が溢れている。超高級デパートには行けなかったとしても、安くてデザインのいい洋服はたくさんある。外国で豪遊できなかったとしても、有名な観光地の写真を見て楽しむことはできるし、高級グルメじゃなくてもそれなりに美味しいものを食べることはできる。安くて簡単に手に入る選択肢が多すぎて、選択肢を一から作り出そうなんて発想がそもそもない。消費者としての態度に慣れきっている。

 私は大学で、管理強化や競争原理の安易な導入、福利厚生の切り捨てといった大学当局の方針に反対する学生運動をしている。しかし、こういった運動をしていると、「自分のいる大学が気に入らないなら、他の大学に行けばいいじゃん。」と学生から言われる。私たちは学費という代金を払って、授業と単位=大卒?という資格を買う消費者である。気に入らないなら、そんな商品を買わなければいい。根底にあるのは、そんな意識なのだろう。

 大学を作っていくのは私たちだ、未来を作っていくのは私たち若者だ、そんな意識は毛頭ないのだ。だからといって彼、彼女らを責める気にはなれない。だって、そうやって育ってきたのだから。選択肢が多様であるがゆえに、自らの置かれている状況が「作り出す自由を奪われた、不自由な状態」ということに気づかない。それは不思議なことではないだろう。私だってそうだった。冒頭の恩師の言葉も、高校の時の私には半分もわかっていなかった。

 消費者であることに慣れきっていた私は、どうやって変わることができたのだろう。月並みだけど人との関係によるところが大きいと思う。

「女の子」的なものの強要に反発して

 小さい頃から、なんとなく生きにくいなとずっと思ってきた。「女の子は乱暴な言葉遣いするな」とか言われて、反発してむしろ乱暴な言葉を使っていた。この社会では家庭で料理をしているのは女性の方が多いはずなのに、有名なコックさんはたいてい男性だった。まわりの友達を見る限り、ピアノを習っているのは男の子よりも女の子の方が多いはずなのに、音楽室に飾られている音楽家の肖像画には一人も女性はいなかった。

男性目線の「女の子」的なものの強要

ネットに溢れて消費されていく
男性的価値観による「おんなの子」らしさ

 お兄ちゃんは勉強ができることを誉められていて、私も同じくらい学校の成績はよかったのに、「目がぱっちりしていてかわいいね」と誉められていた。そういうものが全部大嫌いで、「女の子」的なものを嫌悪するようになって、おしゃれに興味がある女の子って思われないようにお兄ちゃんのお下がりばかり着ていた。

 テレビで初めて「性同一性障害」という単語を聞いたとき、自分は「性同一性障害」なのではないかと思った。いや、正確に言うと、私は「性同一性障害」になりたかった。「性同一性障害」であるなら、堂々と自分の女性性嫌いを正当化できると感じた。今ではこの時抱いた私の考えは、トランスジェンダーについての知識も理解も完全に欠如しているし、トランスジェンダーであるがゆえに差別に直面している人たちには本当に失礼な考えだと反省しているけど、生きにくさの根幹を理解できていなかった小学生の私には自然な感想だったのかもしれない。

私の生きにくさは女性差別の問題だった

 今ならわかる、私の生きにくさは女性差別の問題なのだということを。女性に対する蔑視を内面化した私は、蔑視されないために「名誉男性」になろうとしたことや社会から押し付けられる「女性」という役割だったのだということを嫌悪した。男の子になりたかったのではなくて、一人の人間として認められたかったのだ

 大学に入って、寮の先輩と話す中で、私は「男性中心主義社会」や「女性差別」について考えるようになった。しかし、女性差別という単語で私の生きにくさを把握できるようになってから、私は以前よりも更に生きにくくなった。

 今までは意識してなかった女性差別が目につくようになったからだ。友達の発言、歌の歌詞、テレビの世界観、ネットに溢れる言説、今までならなんてこともなく、聞き流していたそれらの根底にある女性差別に気がつくようになり、四六時中苦しい思いをするようになった。私には逃げ場がなかった。この社会を気に入らないから、他の選択肢を探そうと考えたところで女性差別的じゃない社会など存在しないから。

この社会を変えてやるという視点を持てたことが
生きにくさからのコペルニクス的転回だった

LGBTパレード 生きることが更に辛くなった私に救いだったのは、自分がこの社会を変えてやるのだという視点を持てたことだった。若い世代の代表を気取るつもりはないけれど、でもやっぱり、真面目で、遠慮がちで、自分がこれからの社会を作っていけるなんておこがましいと思っている若い世代の一人である私には、これはコペルニクス的転回だった。

 まさに天変地異だった。私に社会が変えられるかもしれない、ろくでもない社会は私たちの手で塗り替えていくしかない、そう思えるようになったのは、一緒に考えて議論していける仲間がいたからだ。そんな人たちとの関係で私自身が変われたのだから、一緒になにかを作っていくことだって、できるはずだと思えたことがほんとうに大きかった。

 一人でいろんな社会問題や差別と闘いながら生きている人はすごいと思う。私にはきっと無理だった。でも、私たち若い世代は、分断されきっていてなかなか繋がれない。小さい頃からの受験戦争。大きくなってからは就活。コミュニティの欠如。自己責任論がまかり通り、競争主義が幅を効かせている中で、共同性を育む時間も場所もない。

 そして、やっとたどり着いた運動の現場にすら、共同性を育む場所はあまりない。主体性と共同性を発揮できるはずの運動の場でさえ、若い人は少なく、若い子としてちやほやされる代わりに一人前扱いしてもらえなかったり、先輩の活動家にこき使われてすり減っていったりする。問題意識を持っていても、既存の運動体に違和感を持つ若い人はたくさんいる。

若い世代には言いたい、もっと繋がるべきだよと

-大量生産・大量消費の選ぶ自由じゃなく創り出す自由を一緒に

わたしはどうやって変わることができたか ジェンダー 昔学生運動をしてきた世代の人たちによく、「なんで最近の若者は声をあげないんだ」と言われる。あるいは、「若い世代は僕たち世代の希望だ」とも言われる。

 「正直、うるせえよ」って思う。高度経済成長なんて知らなくて、9.11や3.11が起きた後に社会について考え始めた私たちの世代は、混迷とした社会しか知らない。世の中がよくなるなんて展望を抱けないし、ましてや自分の力で世の中をよくできるなんて思えない。声をあげろというほうが無理のある話だろ、そんな風に言い返したくなる。

 先輩方には言いたい。私たちが希望というのなら、若い世代が共同性を育める場所を作ってくれと。それを社会から奪っていったのは先輩方の世代ではないかと。労働組合だって協同組合だって、そこで若い世代がなにかを創り出してこそ、初めて真の力を発揮できるはずだ。

 若い世代には言いたい、もっと繋がるべきだよと。繋がりを作っていく場は、学生自治会かもしれないし、シェアハウスかもしれないし、みんなでやる勉強会かもしれない。あるいは働き始めてからは労働組合や協同組合かもしれない。そして、大量生産・大量消費の選ぶ自由じゃなくて、創り出す自由を一緒に行使していこう。

(編集部注――タイトル、太字、画像、中見出しは編集部の責任でつけています)

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