天皇制と闘うとはどういうことか(1)/菅孝行
第一回 安倍政権の末期的醜態と天皇明仁の「護憲・平和」

新連載 天皇制と闘うとはどういうことか 第一回
安倍と天皇
Ⅰ.安倍政権の末期的醜態と天皇明仁の「護憲・平和」

菅孝行(評論家、変革のアソシエ運営委委員)

◇「幻想の共同性」との闘争

菅孝行さん

菅 孝行さん

 近代国民国家の権力の統治は三つの次元から成立する。第一が資本制による支配、第二が法的正統性に基づく権力の行使、第三が統治される側がそれらを是とする「幻想の共同性」の形成による支配である。日本人がまず問うべきは自国の権力すなわち日本国家である。近代日本国家の統治形態は、共和制でなく立憲君主制である。憲法は「主権在民」「基本的人権」「平和主義」を謳い「象徴」である天皇には国政に関与する権能を与えていない。但し、天皇の地位は主権者の総意に基づくと規定されている。日本国民を主権者とする「憲法制定権力」が存在し、主権者の意志で天皇の地位を保証しているということだ。象徴天皇制国家の天皇の憲法上の地位は「象徴」である。従って、天皇制を解体する闘争は、前記の第三のフェーズの闘いに特化される。つまり、ひとびとが権力に自己の「内面」を横領され、国家に神聖な価値を見出している状態からの覚醒が反天皇制闘争の課題である。

 それは制度化された「内面」を解き放つ「幻想の共同性」との闘争である。近代国民国家の「幻想の共同性」は、それぞれの国民国家に固有の宗教的権威に依拠している。大英帝国は英国国教会、アメリカはピュリタニズム、イスラム圏の諸国はそれぞれの宗派のイスラム教、日本は神道指令の陰で隠密裏に延命した国家神道である。

 因みに、日の丸・君が代強制反対闘争や、天皇皇族の記念施設への反対闘争への弾圧に対する闘争は、<法治>の名の下に行使される暴力に対する権利主張の闘いであるから、第二の次元の支配に対する抵抗闘争の範疇に属する。この闘争の直接の延長に天皇制国家の統治の解体がある訳ではない。天皇制の解体は、権力一般との抵抗が直接生みだすのではなく、日本国家の宗教的権威の根拠の除去によって達成される。宗教的権威が崩壊するのは、権威への畏敬を隣人への連帯が凌駕することによってである。

 権力は、第一、第二の次元の統治を貫徹するために天皇の権威を駆使する。しかし「民主主義」国家においては、その権力自体も国民の総意に基づいて、主権者の付託を受けたものとされる。よって、「悪政」を放置するのは主権者の責任にほかならない。選挙制度の不公正が、主権者の意志を立法府にも行政府にも反映させられないとする主張に根拠がない訳ではない。しかし、瑕疵にみちた制度の下でも、中南米諸国、ギリシャ、スペインなど、権力に抵抗する民意が広範に形成された事例は少なからず存在する。それがなし得ないのは権力に対して民意が加担しているからであり、民意を動かすことを使命とする左派・革新の反政府勢力の責任は免れないのである。

◇安倍政治は邪悪の極限

安倍晋三 数を頼んで腐敗の極致にある安倍政治の邪悪さは底知れない。特定秘密保護法、共謀罪によって反政府勢力の監視、治安弾圧のフリーハンドを最大限に拡大し、アベノミクスという成長の虚像を維持するために金融緩和を執拗に続け、雇用改善という美名の下で格差を拡大するに任せ、「働き方改革」で長時間労働を無制限化した。原発は、廃止はおろか削減さえ手を付ける気配もない。電力政策も、対米隷属の一環である。

 軍事外交では、安倍はトランプの「親友」を気取りつつ、米朝交渉から完全に蚊帳の外に置かれ、トランプに翻弄され続けている。軍事的対米隷属は極限に達し、辺野古への基地移設、オスプレイをはじめとする巨額の武器購入、イージス艦配備が強行されつつある。<アメリカのための戦争>を正当化するために、安倍は改憲発議を企んでいる。改憲の正当化のために、中国や朝鮮やイスラム圏の反発を誘導する排外主義的言動の反復を憚らない。それでもなお、内閣支持率は、調査方法のマジックが存在するにせよ、崩し切れていないことを結果の数値が示している。

◇天皇明仁 象徴天皇制永続のための反政府

明仁天皇 天皇明仁は、即位以来一貫して護憲・平和のメッセージを反復してきた。とりわけ第二次安倍政権以後、政権と天皇の間に深刻な対立が継続している。周知のとおり天皇が政府の「助言と承認」なしに政治性のあるメッセージを発信することは、内容の如何を問わず現憲法下では「違憲」である。天皇が「護憲」(象徴天皇制護持)の意志を、改憲志向をむき出しにした政府に対して表明することが「違憲」となる、そういう憲法の下に我々はあるということだ。だから、先般の与那国島訪問のように、自衛隊誘致を後押しし、反対派に打撃を与えるような結果をもたらすことも少なくない。

 しかし、それでも、政府が<戦争>の危機を呼号して法整備を進める中、合憲の範囲という装いの下で<平和>祈念のメッセージを反復してきたことが重要だ。それゆえ、内閣の逆鱗に触れずに漠然とした他愛のない「平和」を語るのが精一杯なのである。それでも幾つか注目すべき事態が存在した。

 2004年の園遊会では国旗掲揚国歌斉唱を推進する東京都教育委員の米長邦雄に「強制」をたしなめた。首相の靖国参拝や供物奉呈に対抗して、2005年にはサイパン島、2015年にはペリリュー島に赴き、日本人戦没者だけでなく元「敵兵」や現地人も慰霊した。2011年の震災の後には災害への心理的補償のために甚大な被害を受けた地域の人々を慰問した。

「主権回復の日」記念式典・政府のサクラによって突然あがった「天皇陛下万歳」の声にとまどう明仁天皇

明仁天皇は突然あがった予定外の「天皇陛下万歳」の声に
とまどい、一切の応答をしなかった

 皇太子時代から数えて計10回に及ぶ沖縄訪問の反復には、「国民統合」の不可能性への強い拘泥が伺われる。2013年、沖縄県知事不在の4・28「主権回復の日」(沖縄の人々は「屈辱の日」と呼ぶ)記念式典で、政府のサクラの「天皇陛下万歳」に応答しなかったのも、そのことに関わる。そこに一貫しているのは「護憲」への執着である。

 政府の改憲志向が強まってから、護憲・平和を志向する勢力の間に天皇明仁への共感が広がったのには必然性があった。筆者とて、「個人」としての天皇明仁に対して「共感と敬意」(白井聡)を抱かぬではない。だが、天皇の「護憲」は当然のことながら、制度としての象徴天皇制の持続を目的としていることを忘れることは絶対にできないのである。安倍政権に対する包囲網形成のためにはタブーであろうが、それでも本紙読者には、君主制を容認してよいのか、と問いかけないではいられない。君主制容認は人間平等の原則の放棄を意味するからだ。

◇天皇の違憲・「壊憲」批判

退位を表明する明仁天皇

退位を表明する明仁天皇

 天皇が政府批判を意識して政治性を帯びた言動をなすたびに、その「違憲性」を指摘する声は絶えない。指摘するのは皮肉なことに、八木秀次のような日本会議系の論客と、一見正反対の反天皇制運動団体である。八木秀次は、2014年に天皇明仁の「おことば」が安倍政権の改憲への異議申し立てと解釈される、宮内庁の管理が不備だと批判した(『正論』4月号)。2016年8月8日の「おことば」以降、生前退位法制定過程のヒヤリングでも、八木をはじめとする安倍側近の右派は、天皇の言動全体を封じることに熱心であった。(天皇と政権の相剋の分析は、白井聡『国体論』第1章が正確で詳しい。)

 他方、「左」の「壊憲」批判の代表的なものは天野恵一『憲法解釈は朕のもの』(PP研パンフレット)及び、天野恵一「壊憲天皇制」(『反天皇制運動ALERT』1~24号連載2018年6月現在)である。要点は (1)天皇と安倍政権が合作して憲法破壊を推進している、(2)「壊憲」を牽引しているのは天皇である、(3)政府との間に矛盾があるように見えるのはデキレースである、の三点に集約できる。

 次号で詳細に言及するが、結論だけ言うと、第一に政権と天皇による憲法破壊の合作、両者の矛盾はすべてデキレースという認識は悉く事実に反している。第二に、天皇制を堅持して駆使したい日本会議派ならともかく、反天皇制派が自身認めていない第1章の天皇条項に反しているから違憲だという論法は、政府に対する9条違憲論と違って甚だしく滑稽である。第三に、この論法からの天皇個人攻撃に依拠した反天皇制論では日本君主制は解体に導けない。

◇敵の所在・〈外部〉の視線

靖国神社 日本君主制を解体に導くには先ず、冒頭に述べた第一と第二の次元、資本制と<法治>の正統性を背負った国家暴力との闘いを前進させなくてはならない。この闘争に最終段階で勝利するには、先述のように国家の権威への畏敬を隣人への連帯が凌駕する関係の形成が不可欠である。かつてそれを可能にする拠点は職場生産点とその延長にある地域と考えられた。労働が変容し、雇用が変容し、反攻の拠点を賃労働と資本が対峙する関係の下に継続させることが困難となった。しかし、隣人への連帯が幻想の共同性を凌駕する関係形成の場は失われたのではなく、労働の場に限定されない様々な場面の諸関係に飛散したと考えるべきだろう。後述するが、私は関係形成にはグラムシの陣地戦の構想が有効だと考えている。

 資本との闘いが発展し権力との対峙が進むと共に、最後の敵=<幻想の共同性>が見えてくる。「幻想の共同性」を断ち切る不可欠の参照項は<外部>の視線である。仲里効は、天皇明仁の「8・8メッセージ」と天皇裕仁の「沖縄メッセージ」は一対だといった(『情況』2018年春季号)。それは沖縄という<他者>から天皇制がどう見えるかを示唆する。

 また、過去に「大東亜共栄圏」とされた地域の人々から、日本君主制国家がどう見えるかに想到する必要がある。旧「大東亜共栄圏」からは戦後日本国家もまた、武器の代わりが札束になっただけで、問答無用の暴力以外のものではなかった。東アジア反日武装戦線と船本洲治は<外部>の視線を最も誠実に受け止めようとした。私が天皇制に関心を抱かざるを得なくなったのは、<内部>では何の障りもない衛生無害の集合的無意識、<外部>からは戦前と変わりのない侵略国家という、この懸隔を自己の裡でひとつに繋ごうと考え始めたためだったことを思い起こさずにはいられない。(次号につづく


新連載に当たって(コモンズ編集部)
 来年は、天皇明仁の退位、皇太子の新天皇即位、そしてそれに伴う改元が行われる。
 コモンズは、社会変革の『プログラム』(素案)において、戦後日本の対米隷従の政治と社会のあり方を決めてきた「戦後のサンフランシスコ・システム」の根本に、戦後国家の日米安保と「平和憲法」の異質な原理システムの抱き合わせの特徴があること。さらにその「平和憲法」は「象徴天皇制」という民主主義とは無縁の第1章を遺しており、象徴天皇制及び天皇制イデオロギーが最大限活用されて日常生活世界に張りめぐらされ、諸個人に内面化され、権力の労働者民衆への差別・分断と支配・抑圧・管理の体系の重要な柱になっているとの認識を示してきた。
 その上で、当面する社会・政治革命において、安保条約を破棄し、米軍基地を撤去し、天皇制を廃止することは、資本の企業社会・地域を変革し、わが国の金融独占資本を主柱とするブルジョア権力を打倒し労働者民衆の自治権力を創っていく事と一体不可分の革命的課題である、としてきた。来年に向かって進む事態は、改めて「天皇制と闘うこと」の意味と意義を問いかけている。この問題意識に立って、「反天皇制」の戦線で先駆的に問題を喚起し論陣を張ってきた菅孝行氏に、この連載をお願いした次第である。


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