トランプは何を目指し、どこに行く/大内秀明(東北大名誉教授)

どうなる世界秩序、貿易、経済……その考察
【文中の見出し等、編集部責による】
NATO首脳会議2017
 6月12日の米朝シンガポール主脳会談は、直前までその開催すら危ぶまれていただけに、その実現で朝鮮半島の平和が持続するだけでもひとまずの成功と見なければならない。
米朝首脳会談 しかし、北の非核化については、例の「核の完全廃棄が検証可能で、不可逆的な廃絶」を要求して会談に批判的な立場(米国報道層など)からすれば、「成果なしの失敗」ではあるだろう。逆に休戦協定から平和協定へさらに南北統一を期待する向きからすれば、何とも「中途半端な話」のままで先が見えて来ない。事態の進展が不透明なままである。

 そんな中でトランプ政権の矛先は北との関係を急速に修復させた中国との関係に飛び火した。米中両国の貿易をめぐる制裁関税が一挙に火を噴いたからだ。米中トップ2の関税戦争の今後の動向次第では、世界貿易は大混乱に陥るのは必至だ。トランプは何を目指し、何をゴールにしたいのか?

米中貿易摩擦 事態は米中双方の話し合いで適当な妥協を期待していた向きからすれば、予想外の展開となった。話し合いが進まないどころか、トランプの側は、すでに鉄鋼・アルミなどへの追加関税に加えて、米通商法301条に基づく制裁措置第1弾、これから発動する第2弾と米の輸入額の約7%が追加関税の対象となる措置を発表したのだ。
 それに対抗して中国側は、事前の主張通り「同時に、同規模」の報復関税の発動に踏み切り、米中各340億ドル分の制裁関税の応酬となってしまっている。このまま推移を見守る他ないのか?

 この7月6日の「米中開戦」に続いて、トランプ政権の要求はヨーロッパにも飛び火。NATO(北大西洋条約機構)首脳会議に出席したトランプ大統領は、12日の記者会見で加盟各国の防衛費の負担増を再度要求、現行目標値である国内GDP比2%の達成に上乗せして4%に倍増することを要請したのだ。
米露首脳会談2018ヘルシンキ とくにEUの中心であるドイツを批判し、「米国はロシアからNATOを守っているのに、ドイツはロシアにエネルギーを依存し何十億ドルも支払っている」としてドイツの防衛費が1.2%に過ぎない点を批判した。
 このようにNATOの対ロ結束に亀裂を入れながら、米露の対立が解決をみないままにトランプ・プーチンの米ロ首脳会談に臨むと言う離れ業を見せつけたのである。

 トランプは一体、何を考え、何をしようとしているのか?世界は疑心暗鬼に包まれてしまっている。
     
米国一極の専制支配はもはや砂上の楼閣だ

 確かにトランプの言動は乱暴だし無軌道だし、破壊的でもある。
 しかし翻って考えてみれば、ポスト冷戦を迎えてグローバリズムの専制的支配の頂点に立ったアメリカだが、アメリカの足元を見れば今のまま専制的支配を続けていくカネも力ももはやない。
ドル崩壊 すでに何度も本欄で指摘した通り、アメリカの国際収支をみれば、経常収支の膨大な赤字が続いている。ドルが基軸通貨なので赤字を気にせず輸入を拡大できるし、対外投資も対外援助もできる。しかし、それもドルが基軸通貨ならではの話であり、日本の円はともかく、すでにEUのユーロを始め、中国の元など将来はドルにとって代わる可能性も大きい。

 今回の米中貿易戦争の制裁関税の話にしても、アメリカが貿易赤字を解消し、基軸通貨のドル防衛のためであれば、仕方のない話だろう。自由貿易の建前や、ネオコンのグローバリズムのために、これ以上犠牲になりたくない、それがトランプの「アメリカ第一」の二国間主義の前提ではないのか?

習近平とトランプ 戦後体制にとり、貿易の自由も関税の撤廃も、たんなる国際経済の拡大発展のためにあるわけではない。
 トランプ政権が上記の鉄鋼・アルミに追加関税を課した際、「国家安全保障」を根拠に、関税措置を正当化したと伝えられる。WTO(世界貿易機関)も、そうした例外の乱用を懸念しつつも、「戦争に使う武器、弾薬などの軍需品の取引」さらに関連の「製品および原料の取引」、「戦時その他の国際的緊急時」に関わる措置として容認している。

 トランプは、恐らくそうした措置を念頭に置き、「アメリカ第一」のために対中制裁関税の戦火を放ち、さらに上記のNATO首脳会談に乗り込んで、防衛費の増額要求を焚き付けた。
 さらにフィンランドのヘルシンキに飛んで、プーチン大統領と会い、米国内の産軍複合体制など、対ロ疑惑による「冷戦体制」派の妄動に対し、米露の関係改善を確認したのであろう。

トランプ大統領 こうした防衛費負担をめぐるトランプの言動も、米の国際収支の改善からすれば、ある意味で当然の動きだろう。米ソ冷戦体制では、アメリカは西側の自由陣営の盟主であり、名実ともに体制の「守護神」として君臨した。
 それと共に、ドルを基軸とするIMFも、GATTも、そしてWTOなどの諸機関も機能してきた。そして、日米安保も、NATOも、アメリカが「世界の警察官」としてリードして、対ソ冷戦のために機能してきたのだ。

 ただし、最初の朝鮮戦争はともかく、冷戦下の局地戦争、部分戦争は、ベトナム戦争をはじめイラク戦争など、連戦連敗のアメリカだったことを見逃してはならない。その負担は膨大なのだ。
 ところが、1991年にソ連が自動的とも言える「自己崩壊」を遂げた。米ソ冷戦はアメリカの不戦勝とも言える一方的勝利となり、その結果としてグローバリズムの一国専制支配が転がり込んだ。

米国主導の冷戦体制維持願う既得権益者

軍事費増大を産む産軍複合体 しかし、それはアメリカにとって幸運なだけではなかった。むしろ莫大とも言える米ソ冷戦の「負の遺産」としての防衛費負担の維持が残り、体制そのものの処理が残っているのである。
 長期の冷戦体制、その後の米一極専制のグローバリズムによる負の負担は、米国内の巨大な「産軍複合体制」による既得権に群がる者だけではない。日米安保だけでも、直接・間接の既得権益の関係者がいるし、それらが冷戦体制の維持存続を望んでいる。
 だからこそポスト冷戦にもかかわらず「第二冷戦」と称する現実が引き継がれている。

 こうした冷戦後の負の遺産が、グローバリズムに染み込んでしまっているのが、ポスト冷戦の偽らざる現実ではないか?
 米朝首脳会談にしても、一方で完全な非核化を要求しながら、他方で在韓米軍基地の撤去や米韓演習の存続を望む層が厚いし、さらに日本の米軍基地の存続を望む非核賛成派が多いのではないか?

日米貿易協議「日本よ次はお前だ」 トランプは政治家としてよりも、むしろ百戦錬磨のディーラーとして、「アメリカ第一」の立場でリスクを考えていると思う。
 彼の立場からすれば、ポスト冷戦に残された戦後冷戦体制の負の遺産のリスク処理に、単なる米中の貿易戦争を超え、冷戦以来の防衛費負担を伴う、冷戦型産軍複合体制に手荒な包丁捌きが必要になったのだろう。

 近々本格化する日米「貿易協議」も、日米安保の二国間主義の枠組みの中で、トランプはどんな荒療治を考えているのか?だからこそまた、戦後冷戦のスタートになり、今なお休戦協定のまま平和協定に進めなくなっている、朝鮮半島問題の重みを今更ながら深刻に考えざるを得ないのだ(終)。

大内秀明さん大内 秀明(おおうち ひであき)
東北大学名誉教授。仙台・羅須地人協会代表。
1932年東京生まれ。東京大学経済学部を卒業、東京大学大学院社会科学研究科博士課程修了。1963年に 『価値論の形成』で東京大学より経済学博士。その後、東北大学経済学部教授、東北科学技術短期大学学長を経て現在にいたる。⇒大内 秀明さんの著書(Amazon書店)

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