書評】ロバート・B・ライシュ『最後の資本主義』を読む(上)/佐藤隆
「持てる者」に一方的に有利に変貌する社会のルール

怒りを組織し、新しい社会を築くためにーーー
「持てる者」に一方的に有利に変貌する社会のルール

最後の資本主義
  • ロバート・B. ライシュ
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はじめに

ロバート・B・ライシュ

ロバート・ライシュ

 ロバート・B・ライシュ『最後の資本主義』(東洋経済新報社 2016年)の原題は『資本主義を救え saving capitalism』。1990年代にクリントン政権の労働長官を務めた筆者が、21世紀の米国について、余りに金持ちに有利に偏った社会ルールを危惧して「このままでは資本主義が崩壊する」との危機感をもって書かれた著書だ。

 レーニンが「ブルジョア民主主義はブルジョアジーの独裁に過ぎない」と口を極めて非難(『プロレタリア革命と背教者カウツキー』)してから100年目、今や世界帝国の中枢にいる資本主義者ですらが「これはないだろう」と言わざるを得ないほど不平等と格差が深刻化しているというのだ。本書を読むとグローバリゼーションによって、日本社会も一周遅れでこの現象が進んでいることに気づかされる。格差を拡大する現代資本主義を徹底的に批判していかなければならない。
 以下、本書の内容をみていこう。

1、金持ちに有利に変容するルール

2008年9月のリーマンショック

2008年9月のリーマンショック

 ライシュは、規制緩和の実態は「規制撤廃」ではなく、「再規制」ともいうべき金持ちに有利な社会的ルールへの変更であると指摘する。それがいわゆる「小さな政府」ということではないとして、2008年リーマンショック時の大銀行救済を挙げている。2013年時点で10大銀行への隠れた補助金830億ドルはその賞与総額267億ドルの3倍に昇る。米国5大銀行の資産が全米銀行資産全体に占める比率は2000年25%から2014年45%に上昇した。

 大企業・金融業界・個人資産家はロビー活動と選挙活動で影響力を拡大、富の再分配が「消費者・労働者・小口投資家」から「大企業・金融機関の重役・トレーダー・ポートフォリオマネジャー・個人資産家」へ向かっている。この流れは、2010年右派「シティズン・ユナイテッド」の起こした裁判で、連邦最高裁が企業の人格を認め、「言論の自由」を保障するとし、政治広告支出を制限した2002年法は憲法違反としたことで加速された。2012年の選挙費用は2410万ドルで2001~2年の9倍となっている。

アメリカ貧困層

意見も存在も無視されてきたアメリカ貧困層

 他方、2011年コンセプション夫妻のAT&Tに対する集団訴訟や2013年ベーレンド氏のコムキャストに対する集団訴訟では、最高裁は集団代表訴訟の原告適格性を狭める判決を出している。モンサント・コムキャスト・グーグル・アップル・GE・シティグループ・ゴールドマンサックス等は、訴訟戦略を駆使して業界への新規参入を阻止し、また自らに有利な判例を確定させている。州判事の87%は選挙で選出されるが、判事は企業からもらう金が多いほど企業に有利な判決を出すのだ。

 1975年までの高度成長期と現在を比較すると 大企業の最高経営責任者の所得は平均労働者の20倍から296倍へ、上位1%の総所得に占める比率は10%から20%へ拡大した。2014年企業利益は米国経済比で過去85年中最大になった一方、農業以外の労働分配率は2000年の63%から2013年には57%へと下降しているという。

 ライシュは経済活動について、(1)所有権、(2)独占、(3)契約、(4)破産、(5)執行の5つの視点から、そのルールが如何に金持ちに有利に変更されたかを説明する。われわれも日々の生活で都度経験しているところでもあるが、体系的な認識を持つことは重要だ。

(1)所有権について

 所有権は歴史的にその概念を変化させてきた。18世紀末まで人類の4分の3以上が奴隷か農奴であったという。1850年、米国共和党は奴隷所有権を主張する民主党に対抗して結成された。当時、奴隷以外の最も価値の高い財産は土地であったが、次第に最重要のそれは企業所有へと移って行った。

特許 薬価貧困 現在、特に重視されている所有権は、知的財産権だ。特許期間の延長が進み、1790年は14年であったそれが、1995年には20年になった。
 ハイテク企業は特許法務にかなりの数の弁護士を充て、2012年グーグルはモトローラを買収することで17000件の特許を取得している。因みに最近の日本では、特許獲得のために武田薬品がアイルランド製薬大手シャイアーへの買収提案をしていることが話題になっている。

 製薬ビジネスについてみると米国では2014年に健保関連支出3兆1000億ドルの10%が医薬品であり、1990年「自然物」のワクチン製造過程が特許可能になってからワクチンの特許申請が10倍増の1万件に達している。ファイザーは肺炎球菌ワクチン「プレベナー13」で40億ドル稼いだ。僅かな変更で特許を延長することをプロダクト・ホッピングというが、アルツハイマー薬「ナメンダ」は錠剤からカプセルへ変更されることで特許を延長、ジェネリック医薬品に対抗している。

 米国では国内販売薬を廉価に輸入することを禁止する一方、製薬会社が自社製品処方医師に報酬を支払うことやジェネリック製薬に対する「遅延料契約」を結ぶことを合法化(欧州では禁止)、これにより国民は35億ドルの負担増となっている。製薬会社のロビー費用は2億2500万ドルで軍需契約業者より大きく、2012年選挙には3600万ドル(3億円を超える)が献金されたという。

 因みに、ライシュの視点から離れて米国外の世界に出ると、途上国各国では何百万人もの人々が薬を入手できないでいる。薬価の高さはその大きな要因である。「人を救う」薬に特許をつけることで「人を殺している」のである。

 著作権も延長が進み、米国建国当時、地図・海図・書籍にのみ著作権14年が認められていたが、1831年42年に延長、その後、1909年56年、1976年には死後50年、企業には75年と延長が続き、1998年のミッキーマウス法で95年となっている。昔の曲やキャラクター商品にいつまでも特許がついて回るのだ。

(2)独占について

反モンサントデモ

2015年世界48カ国、400都市以上でモンサントによる食料独占支配に反対する大規模な世界デモが行われた

 再び資本の独占が進み、それらが政府への大きな影響力を行使している。

 米国はフロンティアの国のように言われるが、1978年から2011年までに新規企業の参入は半減している。ブロードバンド速度は遅く(韓国や香港の40%、世界28位)、料金も高い(世界23位)。地域的独占を形成するケーブル会社は光より遅い地中ケーブルを敷設、自治体に映像放映権料を支払って20州で自治体の光ケーブル敷設を禁止している。その結果、2014年現在、80%の米国人がケーブル会社1社に依存している。

 農業においては、バイオ大手モンサントが大豆の90%以上、トウモロコシの80%の遺伝形質を所有し、雑草だけに効く除草剤とセットで販売する。モンサントの販売する種子は自身の種子を作らない。この結果、モンサントが種子を毎年独占的に販売し、生活費を優に上回る種子の高騰と多様性の喪失を招いている。モンサントは弁護士団を組織し、(モンサントの弁護士が最高裁判事になった!)あるいはロビー活動費700万ドル(2013年)を費やして遺伝子操作種子の知的財産権を高めている。

アメリカ大豆栽培 IT(ICT)業界では、GAFA・twitterがプラットフォームを独占、2014年には米国人が最初に見るニュースはグーグルとフェイスブックとなり、消費者の3分の1がアマゾンにアクセスしている。2014年アマゾンは出版大手アシェト社へ圧力をかけ、自己に有利な取引に導いた。
 因みに日本でも、2018年3月、アマゾンジャパンが同社の通販サイトで販売した金額の1~5%を「協力金」として支払うようメーカーなどに求めていると「優越的地位の濫用」が報じられ話題となった。

 2013年のロビー活動費には、グーグル1580万ドル、アップル337万ドル、フェイスブック643万ドル、アマゾン345.6万ドルがそれぞれ支出されている。2012年に独占禁止法を司る連邦取引委員会はグーグル提訴を勧告したが不発に終わっている。1990年代に政府はマイクロソフトのOSを独禁法で提訴したことがあったが、今、アップルに対してそのようなことは起こることはないであろう。

 金融システム業界は、2014年には5大銀行の保有資産は全銀行の45%以上になった。1980~2014年の間に金融セクターは全米経済の6倍の成長を実現した。2008年の大統領選ではオバマへ金融業界から1660万ドル(業種中4位)の献金がなされ、その最大はゴールドマン・サックスであった。クリントン時代とジョージ・W・ブッシュ時代の財務長官は元ゴールドマン・サックス会長、オバマ時代の財務長官は元ニューヨーク連銀総裁。2008年まで投機の規制緩和が進行し、2008年リーマンショック後は大銀行と金融機関は政府・納税者から救済を受け、成長を続けた。

 保険業界は、米国経済の20%を占めるが1945年から独禁法の適用除外とされ、病院はシステム統合の結果、都市には約二つの大病院があるという状態である。

(3)契約について

最後の資本主義 不当な契約、詐欺や強制など不正な取引は違法であるが、何が不当で不正かが問題となる。米国では血液を売ることができ、子宮を貸すことができ、突撃銃を売買できる(カナダや欧州は禁止)。2010年まで、貧者の使用者が多いクラック・コカイン使用は、エリートの使用者の多い粉末コカインの使用より100倍刑が重かった(2010年以降は18倍)。

 20世紀以前は公務員へのロビー活動は禁止されていたが、1960年に企業のロビー活動を最高裁が容認した。契約のルールも金持ちに有利に変貌しているのである。
 1934年証券取引法はインサイダー取引を禁止しているが、現在の超高速取引では事実上情報源は解らず、ウォール街のトレーダーが儲け、その分、一般人が損をしている。ヘッジフォンドマネジャー上位25人の所得は平均10億ドル、これは「極秘情報に対する投資家からの賄賂」とどこが違うだろうか。

 独占下では契約に真の選択肢はなく、強制と同じだ。大企業が従業員・フランチャイズ店・顧客に対して義務的仲裁合意を結ばせている(たとえば従業員への差別は裁判では51%救済されるが、仲裁では21%しか救済されない)。従業員の競業者への就職禁止合意も拡大している。

 独占されたプラットフォームでのネット契約では、「サイト所有者を提訴できない契約」「プライバシー権の放棄」に条文を読むことなく同意をクリックせざるを得ない。大企業のロビー活動で消費者・弱者保護規定は後退し、個人ローンの利率は36%へと引き上げられた。(→次号に続く)


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