「反緊縮」「反グローバリズム」欧州の波を、日本に
生活実感からの発想チェンジを!
社会変革 中心としての「経済学」
もはやモラルハザード状態の安倍政権がなぜ延命するのか。多くの有権者…特にやっと職にありつけた若者が、安倍政権での経済状況のいくぶんかの表面的改善に安堵し、野党ではまたリストラや就職難の不況時代にリターンか?との不安に感じているせいだと語る松尾匡立命館大学教授。
その氏からハダ感覚で真に民衆に求められる経済政策を示唆する著書が嬉しくも出た。
『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう――レフト3.0の政治経済学』がそれだ。ライト(右翼ではなく、軽い)な読者層から「そろ左派」と名付けられネット論争も高まる話題の書の背景…反緊縮の望ましい経済成長への提言などを著者から聞いた。【文責M】
――左派の3.0「バージョン」を提言した本と言う事でしょうが、今回の反応というのは?
松尾 好意的な反応の一方でご批判もあって。書名が『そろそろ左派は経済を語ろう』ということで 、こんな書き方をしたら「自分は経済を語ってきた」と思われる向きからは「もう語っているぞ、左派叩きだ」との反発があります。
――アリバイを語る層から(笑)
松尾 それは判りませんが、しかし周りでは生コン支部始め「どぶ板」からまさに<経済>に取り組んできた左派世界で安倍政権に勝てない状況続きで、何で勝てへんのか?という左派リベラルの言論リーダーや政治家への苛立ちがありますよね。
民衆の生活実感から切り離れたモノの言い方で…。
――空理空論とまでもいかなくても。
松尾 安倍スキャンダルとか、憲法の話はすごく大事ですが…でも目の前の生活に苦しんでる人にとっては、生活どうしてくれるというのが一番大きく、そこに当たるような言い方がなかなかない。
――その苛立ちを代弁してる訳ですね。
松尾 民主政権時には職がなかったのが、非正規であろうが職を得たとか、少しはまともな派遣先に行けたとかそういう体験の人たちがたくさんいる。そんな人たちを認めないと勝てない。
――3.0と銘打った背景を語るとしたら?
松尾 左派全体を悪者にしているのではなく、本書の批判は「レフト2.0」に対してです。腰抜け中道路線だけでなく、不況のゼロ成長で満足しろとか、財政再建への痛みをとか言う高見の自意識が、現実に苦しむ大衆からすると何だと。
――イメージするに、朝日新聞教養派見たいな(笑)。 もっと生活に根ざした明るい…ラテンで。
松尾 確かに盛り上がってるのは南欧が多いです。英国コービンとか米国サンダースとかは必ずしもラテンでもないですけどね。
――先生の著作を活かすべくこれからどのような展望を?
松尾 鼎談してるブレイディみかこさんが、「地べたから」と言っておられますが、日本でも偉大な事業を地べたでやっている人たちがたくさんいる事を著書で紹介されてます。日本で厳しいのはミクロな活動とマクロな政治課題が断絶してる点だと。
――ミクロな地べたの発想からマクロへと?
松尾 …普遍的なビジョンが出てくれば皆の支持が得られます。山本太郎さんとかぽつぽつそんな姿勢の政治家が出て来てますし、希望を高く掲げてと言う情勢ですね。
(取材:7月24日大阪労働学校アソシエにて)
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「良書」は「悪書」を駆逐する
稀代のブックメーカーが導く民衆のための「経済学」
新自由主義の拡大さえ懸念される世界デフレ不況下、民心を右翼ポピュリストにさらわれないために、左派が取るべき政経戦略とは?3人の論者=松尾氏と『子どもたちの階級闘争』で第16回新潮ドキュメント賞の英国在住ブレイディみかこ氏、気鋭の理論社会学・北田暁大東大大学院教授が鼎談形式で概説したのがこの書だ。
緊縮経済への、民衆~労働側対抗軸としての欧州<反緊縮>の波の拡がりとわが国との比較、アベノミクスへの対抗策が盛り込まれている。国を越えた階級的連帯であるレフト3.0への大衆的結集がファシズムを根底から打破する真の民主主義創生も担保しうる新しい政治経済の覚醒。それをも十分に予感させる名著の登場である。
【主な目次】
・第1章:下部構造を忘れた左翼
・第2章:「古くて新しい」お金と階級の話
・補論1:来るべきレフト3.0に向けて
・第3章:左と右からの反緊縮の波
・第4章:万国のプロレタリアートは団結せよ!
・補論2:新自由主義からケインズ、そしてマルクスへ
松尾匡(まつおただす)
1964年、石川県生まれ、経済学者。神戸大学大学院で博士号。立命館大学経済学部教授。論文「商人道」で第3回河上肇奨励賞。その著作数は目覚ましく、<不況は人災です!(筑摩書房><商人道ノスゝメ=河上肇賞受賞作をもとにした・藤原書店><対話でわかる痛快明解経済学史・日経BP社>など多数。デフレを脱却し良きインフレを目指す「リフレ経済」の代表的存在だ。
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