書評『中国の情報化戦争』ー米中戦争の熱い核心に迫る/佐藤隆

書評『中国の情報化戦争』ー米中戦争の熱い核心に迫る

はじめに
書評『中国の情報化戦争』

ディーン チェン『中国の情報化戦争』原書房
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 本書は、アメリカの保守系シンクタンクの中国系米国人研究者が人民解放軍の軍事戦略・情報化戦争を解析したものである。邦訳は右派自衛隊関係者だが、内容は実に興味深く、刺激的なものだ。

 昨年2018年12月5日カナダ政府は、イラン制裁に違反したとする米国の要請を受けて、中国通信機器最大手ファーウェイの副会長(創業者の娘)を逮捕した。本年19年1月3日には中国の探査機が月面裏側に着陸、米中の宇宙競争が激化している。正に本書はこれら事件の背景、米中対立の最も熱い核心が何であるのかを明らかにするものである。

 本書自身は中国の現在の軍事戦略を解析するものであるが、中国の軍事戦略自体が米国のそれにキャッチアップするためのものに他ならず、本書は米国と西側世界を映しだす鏡ともなっている。2013年スノーデン氏が暴露したように米国も同じことを別のやり方で、すなわちより商業主義的な、あるいは民主主義的にカモフラージュしたやり方でそれを行っているに過ぎない。

ITの巨人「GAFA」

ICTを支配する巨人「GAFA」

 1990年以降、インターネット・ICTは世界に爆発的に拡大したが、それは所与のインフラでも、平等主義の理念そのままに全ての人の為を思って設置されているわけでもない。インターネット・ICTは世界中の膨大な人々が共通の情報に迅速にアクセスすることを可能にさせた一方、今やそれは、消費者行動の分析に向かっていた巨大資本のマーケティングに独占的・独裁的ツールをもたらしている。のみならず、それは世界のパワーバランスを競う大国の最も熱い戦場とも化しているのだ。本書はその様相を知るのに重大な知見を与えてくれている。

 他方、本書を読むと中国革命に影響を受けた世代としては何とも言えない虚しさが残る。人民の利益や国際主義の視点が全く欠落しているのだ。米国当局者によって書かれたものであることが第一の理由だが、現在の中国政府がそういった毛沢東時代にはまだ存在していた政治的正義を巡る理念を全く喪失してしまっていることにもよるであろう。以下、本書の内容を紹介する。

※ICT=パソコンやスマートフォン、スマートスピーカーなど、さまざまな形状のコンピュータを使った情報処理や通信技術の総称

本書の内容

■「第1章舞台設定」

 中国共産党指導部は特に1990年代以降、ITの重要性が戦争を変化させたという認識から「情報化戦争」の考え方を進化させている。戦争において情報を作成し、収集し、伝達し、活用することに長けている方が勝利するという考え方だ。昨今ニュースとなっている中国の情報統制もこの戦略と密接に関連している。

■「第2章中国の軍隊 人民解放軍」

中国軍 この章では20世紀後半から21世紀初頭にかけて、世界のパワーバランスがいかに目まぐるしく変遷し、それに対応して人民解放軍の戦略がどう変遷していったかが解る。

 人民解放軍は兵力200万人を擁する世界最大の軍隊であり、共産党の軍隊である。1949年建国時、中国は最も貧しい国であった。1950年朝鮮戦争に介入した時、毛沢東は「人民戦争論」の下、装備や訓練は劣勢であったが優れた政治教育で支えられた数の優勢を行使した。その後、人民解放軍は1962年中印国境紛争、1969年中ソ国境紛争をたたかうことになった。1972年にはニクソン訪中と米中共同声明があり、79年から米中国交が樹立する。

 1979年中越戦争で中国軍は1か月の侵攻中に米軍がベトナムで8年間に被ったと同じ数の戦死傷者をだした。この戦争が契機となり、1978年改革開路線放を取った鄧小平は、毛沢東の「米国の核攻撃に国内での長期のゲリラ戦をもってたたかう」という戦略を転換、中国経済の再建と「近代条件下の局地戦」に焦点を当てた人民解放軍の建設に向かった。

 1989年には天安門事件が発生、改革開放は一時中断する。1991年湾岸戦争があり、同年、ソ連が崩壊する。皮肉にもソ連崩壊は、中国と西側の協力関係の必要性を失わせた。湾岸戦争の砂漠の嵐作戦はわずか42日であったがイラク全軍の破壊と政権の崩壊をもたらし、中国指導部に戦争の闘い方か根本的に変わりつつあることを認識させた。

 将来戦が、(1)非接触(GPSにより視認距離以遠から精密攻撃)(2)非線形(前線と後方の区別がない)(3)非対称に特徴づけられると結論づけ、「近代条件下の局地戦」という概念は「ハイテク条件下の局地戦」へと改められた。
 同時に、1991年に始まる人民解放軍の第8次5か年計画から統合作戦が促進された。これは1982年のフォークランド紛争と91年湾岸戦争の経験を教訓化したものである。

 1991年からはじまり、1999年(あるいは2001年)コソボ紛争にまで続いたユーゴスラビア紛争は、人民解放軍のこの戦略転換を一層進化させるものとなった。中国自身1994年にインターネットに接続、電子線優勢とコンピューター・ネットワーク優位が重視されるようになり、この二つを合わせて「情報優勢」という用語が使われるようになる。
 第9次5か年計画(1996年~)では政府主導のICT及び情報化が推進された。1999年~2004年にかけて「ハイテク条件下の局地戦」という概念は、「情報化条件下の局地戦」という概念に置き換えられた。

■「第3章情報化紛争、第4章情報戦、第5章情報作戦」

 この3つの章は、戦略レベル・戦役レベル・作戦レベルの各段階で、情報化戦争とそこにおける情報優勢を人民解放軍がどのように達成しようとしているかを述べている。以下、いくつかをピックアップするが、特に、それが平時と戦時の境界、軍と民間の境界がないものであることに注目されたい。単純化すると平時のICT産業のシェアがそのまま戦時の情報優勢につながるということである。

 人民解放軍は、社会が農業から工業に移行して戦闘が「冷たい武器」から「熱い兵器」に移行したように、ITCの発達した現代戦においては情報の役割が中心になりつつあると認識するようになった。それはネットワーク化された戦闘と指揮系統が情報化された軍として具体化する。

 「熱い兵器」がハードキルをめざすのに対し、情報戦はソフトキルに焦点を当てる。敵の脆弱性は軍事システムにあるのではなく、金融システムやインフラにこそある。近代化されたITは、戦時と平時、軍と民間の境界線を不鮮明にする。

 人民解放軍は政治戦として三戦(世論戦、心理戦、法律戦)を挙げる。ITが進歩するにつれて心理戦・世論戦の影響は広範になる。米国は、イラク・セルビア・タリバンに、あるいはグルジアに始まるカラー(フラワー)革命においてこれを実施した。

中国ネット規制 この経験をふまえた中国指導部は、情報支配を確立するためには敵が自国の大衆に悪影響を与えることを阻止しなければならないと考えている。中国は最もハッキングされることの多い国である。中国は現在のインターネットの管理が米国によって作られたと判断し、インターネットの管理主権は国家にあると主張する。国外からのアクセスに対し、接続点を減殺したり、「グレートファイアウォール」用いたりして制限している。

 「金盾」でサイトを監視し、「巨砲」のDDOS攻撃で反撃する。また、法的規制を強化して国内サイバー界を統制し、検索・投稿動画・SNS・オンラインショッピングは、米国製の Facebook や YouTube などから「百度」「優酷」「新浪微博」「淘宝」等の国内社に置き換えている。

 「情報化条件下の局地戦」の勝利の核心は統合作戦である。海底から宇宙空間、電磁波領域・サイバー領域にまで及ぶ作戦を、リアルタイムで正確な情報を適切に処理して行わなければならない。敵のシステム体系を凌駕することは情報優勢の要諦である。そして精密攻撃で敵を制圧することである。湾岸戦争とコソボ紛争においてはこれを実現した米軍・NATO軍は前線で戦闘犠牲者をほとんど出していない。

 電子戦は情報戦の初期形態であるがますます重要になっている。電子機器は現代の戦艦コストの20%、戦闘車両の24%、軍用機の33%、ミサイルの45%、衛星の66%をなしている。

 ネットワーク戦は他の作戦と同様に攻勢と防勢、さらに偵察を一体的に含んでいる。攻撃はバックドアの取り付け、セロデイ(脆弱性)攻撃、ハッキング、マルウエア、論理爆弾、ウィルスとワームへの感染、リダイレクト(誤送信)、DDOS攻撃等を含んでいるが、敵の脆弱性の発見は平時からの偵察で探し出しておく必要があり、偵察と攻撃は最後の瞬間まで区別がつかない。

 専用の軍事ネットワークは情報化戦争が必要とする大量の情報を扱うことができず、民間の通信基盤にある程度依存することになる。したがって、これも情報偵察作戦の対象となる。指揮統制系統への攻撃が重要となり、諜報情報への依存が高まる。諜報活動は平和と戦争をまたいでいる。

■「第6章 宇宙と情報戦」

中国軍ロケット 人民解放軍は情報化戦における宇宙戦に関する評価も進化させ、宇宙を情報化戦争における「戦略的高地」だとしている。
 1990~91年砂漠の盾および砂漠の嵐作戦では約260平方キロメートルに機甲部隊・空母・長距離爆撃機が展開したが、70個の衛星が米国の戦略情報の90%を提供し、有志連合の全データの70%を伝達した。

 ユーゴ紛争ではNATO軍は86個の衛星を使用し、戦場監視と偵察の80%を、気象データの100%を提供し、宇宙情報を用いる精密誘導弾薬98%を使用してセルビアを敗北させた。

 中国の宇宙能力もここ20年に様々な衛星を展開することに成功している。それにとどまらず、2007年には、運動エネルギー撃破型対衛星システムASATの上昇実験を行い、2012年には2機の超小型衛星を誘導して衝突させている。

 宇宙戦は、宇宙空間の戦闘の他、打ち上げ施設への動的電子的攻撃、軌道妨害、時間帯の妨害、情報封鎖など様々な攻撃方法がある。衛星は「高価で脆弱」であるという特徴を持っており、軍民共用ともなっている。人民解放軍は宇宙戦能力を持つことが抑止に働くと考えている。

■「第7章 情報優勢を確保するための組織化」

 2015年12月31日より人民解放軍の組織改革が行われ、地上軍を中心に統括する組織から、統合戦と情報化戦争を担う組織へと改変が進められている。

■「第8章 将来戦に関する中国の見方と米国にとっての意味合い」

 米国のシンクタンクの研究員の立場から、米国と中国は必ずしも相反する目標を追求するものではないが、競争は激化し軍事化しつつあるとしている。そして、米国流の情報の自由な流れの原則に関して譲歩してはならないとし、平時から中国が情報優勢が実現できないように防止すべきだとしている。

 これはファーウェイ事件を暗示する指摘である。ICTを巡る経済的競争と対立は安全保障上の競争と対立に直結しているのだ。

最後に

米中の矛盾的共存(トランプと習近平) ソ連崩壊後の1990年代から21世紀初頭の今日まで、米国の一極支配の下でグローバリゼーションが進む中、米国が開発したインターネット・ICTは世界中に普及するようになった。インターネットはアドレスの運営をICANN、通信プロトコルの運営をIETFなど「非営利団体」が行っているが、それらは純粋に非営利というわけでもなく、米国の影響を強く受けている。

 経済ではFAANGなどの米国の巨大IT企業群がビックデータとして個人情報を掌握し、独占的・独裁的な経済的地位を築くに至った。今やそれが世界のパワーバランスを競う最も熱い戦場と化している。トランプの「アメリカ・ファースト」政策が端的なように、米国の没落が始まり、世界は相互に依存しながら各国が対立を深める新たな矛盾した局面に入った。

 他方、世界では国家のインターネット統制と検閲に対して、VPN(仮想専用網)を使用する等、民衆の抵抗が起きている。軍隊や治安機関を含め、膨大な情報を共有しながらその全てを国家が管理することは不可能だろう。
 インターネット・ICTを人間の幸福のために使いこなすには、資本と国家が支配する社会を、民衆自身が主人公となる社会へと変革しなければならない。

1919年1月記 佐藤隆(愛知連帯ユニオン

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13:30 “他者への想像力”を~日韓の歴史認... @ オンライン
“他者への想像力”を~日韓の歴史認... @ オンライン
10月 31 @ 13:30 – 16:00
“他者への想像力”を~日韓の歴史認識をめぐる問題にジャーナリストと共に目を向けて @ オンライン
【同時通訳付き Web開催】 SJFアドボカシーカフェ第67回 “他者への想像力”を ~日韓の歴史認識をめぐる問題にジャーナリストと共に目を向けて~  組織ジャーナリズム・メディアの報道に接する日々において、政権に対する「忖度」やフェイクニュースの横行など目を覆うばかりの状況に不信感や危機感が高まっています。  長年メディアの中で活動をしてきたベテラン(?)のおじさん・おばさんたちも危機感を共有してきました。そこから、ジャーナリストを目指す若い人たちに「権力を監視し、市民の側に立つ」という姿勢を育んでもらおうと、「ジャーナリストを目指す日韓学生フォーラム」の活動が3年前から始まりました。  なぜ「日韓」なのか。日韓の間には、従軍慰安婦や徴用工の人たちのこと、強制労働など、今も「歴史認識」をめぐる問題が横たわっています。その解決のためには、まずお互いが相手を学び、理解していくことが必要です。その行為は、ジャーナリストにとって大切な“他者への想像力”に思いを寄せることにもつながります。  ジャーナリストが日々伝える「今」の一つひとつは、「過去」つまり歴史を背負っています。そこに目を向けられるようなジャーナリストが日本で、韓国でニュースを発信していければ、今のメディアは少しずつ変わっていけるのではないか。そんな日韓学生フォーラムの試みをもとに、日韓の皆さんと歴史認識を共有する道を探っていければと思います。 ゲスト 〇植村隆さん:  1958年、高知県生まれ。早稲田大学政経学部卒、82年、朝日新聞社入社。大阪社会部記者などを経て、テヘラン、ソウル特派員。北海道報道部次長や外報部次長などを経て、北京特派員、函館支局長など。2014年、早期退職。17年秋に「ジャーナリストを目指す日韓学生フォーラム」をジャーナリスト仲間たちと立ち上げる。また現在まで、16年より韓国カトリック大学客員教授、18年より週刊金曜日発行人兼社長、19年6月から「金曜ジャーナリズム塾」塾長も務める。 〇西嶋真司さん:  1957年生まれ、早稲田大学卒。81年に「RKB毎日放送」入社。記者として報道部に配属され、91~94年にJNNソウル特派員。2000年に制作部に異動し、ドキュメンタリー番組を制作。18年に退社し、映像制作会社「ドキュメント・アジア」を設立。ドキュメンタリー映画の代表作に『抗い 記録作家 林えいだい』。現在は元朝日新聞の植村隆記者のバッシング問題をテーマにした映画『標的』を制作中。 〇「ジャーナリストを目指す日韓学生フォーラム」に参加し、現在メディアで働く記者や学生も出演します。 詳細 ●日時: 2020年10月31日(土)  13:30~16:00 ※受付時間13:00~13:25 ●会場: オンライン開催 ★オンライン会議システム・Zoom(言語通訳機能付き)を使用します。スマホやPC等の端末から参加いただけます。参加方法の詳細は、お申込みくださった方に10月26日までにメールいたします。 ★グループ対話セッション(逐語通訳付き)や、ゲストとの対話も行う予定です。聞くだけの参加も可能ですが、この対話の場を一緒につくれるよう、お声を出していただけましたら幸いです。参加者さまのお顔は写らないよう初めはこちらで設定いたしますが、グループ対話中は、自主的にお顔を写していただけます。 ●参加費: 無料  ※通信料は参加者さまのご負担となります。 ●お申込みフォーム: https://socialjustice.jp/20201031.html ★先着50名様。完全事前登録制(上記フォームからのみの受け付けとなります)。 ★締め切りは【10月25日】、または【定員に達した時点】の早い方とさせてください。 ●イベントホームページ: http://socialjustice.jp/p/20201031/ ★同時通訳(日本語・韓国語)をいたします。 ★韓国語でのご案内ページ http://socialjustice.jp/p/ko20201031/ もございます。オンライン開催のため韓国など海外からの参加も容易です。もしお知り合いで韓国語でのご案内の方がよろしい方がいらっしゃいましたら、こちらのリンクを広めていただけましたら幸甚です。 ― 助成: オープン・ソサエティ財団/JANICグローバル共生ファンド ― ■主催・お問い合わせ先: 認定NPO法人まちぽっと ソーシャル・ジャスティス基金(SJF) メール: info@socialjustice.jp
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