松尾匡教授との往復書簡 前号書評をめぐって

財政赤字の主因は民間セクターにあり
大衆増税と緊縮策の根本的誤り
当紙5月号所載・松尾匡立命館大学教授・経済論文『反緊縮のマクロ経済政策諸理論とその総合』への佐藤論評に関しての松尾先生との往復書簡
――愛知連帯ユニオン・佐藤 隆

【佐藤・記】前回コモンズ5月号6面に掲載された佐藤の論評(松尾匡立命館大学教授・経済論文『反緊縮のマクロ経済政策諸理論とその総合』への論評)に対し、松尾匡先生ご自身からコメントが寄せられ、メール交換での討議交流が行われた内容である。松尾教授は、大阪労働学校アソシエの講師であり、佐藤は労働学校に参加する生徒である。

大衆を疲弊させる日本銀行の動向を注視せよ

大衆を疲弊させる日本銀行の動向を注視せよ

 いま安倍失政の大きなツケを大衆無視の消費増税で覆い隠そうと画策する自公与党。その税制政策に真っ向から対峙する「反緊縮」策に大きな注目が集まる。そこれら薔薇マーク運動を提唱者する松尾匡立命館大学教授の根本理念である『反緊縮のマクロ経済政策諸理論とその総合』を前号論評で紹介した。この論評を記した佐藤隆氏と松尾教授との間で、この学説の核となる学説―セイ法則・ワルラス法則など国家財政~金融論に新しい視点を拓くべき重要な質問応答が交わされた。
 両者了解のもと、大衆経済に貢献する経済論争の更なる発展のきっかけの場として、この紙面でそれら内容を紹介したい。

1、松尾から生徒・佐藤へ 
企業がろくに設備投資も賃上げもせず、内部留保を膨らませていることの帰結としての、政府債務増の裏の民間債権増

 ご感想いただきましてありがとうございます。
 以前いただいていたご論文をまだ検討する余裕がなくてもうしわけありません。
 とりあえずご説明だけ。
 セイ法則の定義は「諸財の超過需要の和は恒等的にゼロ」というもので、収入をきっかり支出する前提から帰結します。
 ワルラス法則は、貨幣なども含めて、「諸商品の超過需要の和はゼロ」というもので、これはセイ法則とは別のもので、予算制約式の総和からでてくる絶対の真理です。ワルラス法則に、貨幣を余計に持たないという特殊な仮定を入れたものがセイ法則になります。
 論文のこの部分の話は、市場メカニズムがうまく働くか働かないかと関係なく、式の数と変数の数が合わずに普通の意味での一般均衡自体がもとから存在し得ないという、非常に強烈な不均衡がおこることを述べたものと、現代的なケインズ理論を解釈したものです。
 これが起こる原因としての貨幣愛は、ケインズは心理的なものと解釈しましたが、それは『資本論』で述べられているとおり、私的商品生産のシステムであることに本質的に起因するものです。
 総需要不足を解消して完全雇用にすること自体は、資本主義のもとでも可能というのが本稿の立場ですが、それ自体が元来資本主義と相入れることかというと、産業予備軍がないと階級支配が維持できないという意味では相容れないことだと思います。完全雇用になってこそ、労働者管理企業の優位性が出るのだと思います。

 政府債務増の裏の民間債権増は、企業がろくに設備投資も賃上げもせずに、内部留保を膨らませていることの帰結です。
 そういう民間セクター内のろくでもない事態が原因で財政赤字になっているのだから、それを大衆増税や緊縮で解決しようとしてもおかど違いだということが拙論の主張になります。

 政府と中央銀行を統合して互いの国債を相殺したときの、統合政府に残る「負債」は、形式的には、日銀当座預金になります。
 これは形式的には、日銀が民間の銀行に負っている債務です。しかし、民間の銀行がその債務を返せと言って支払いを要求したら、出てくるのは日銀券です。
 これは日銀はどれだけでも作ることができますし、現代においてわざわざ必要以上に日銀当座預金を日銀券に換えることは全く意味のないことで、誰もそんなことはしないでしょう。
 だから事実上債務性はありません。

 これからのプログレッシブな政策は、目の前の安倍改憲阻止のための選挙政策のレベル、貧困やケア不足に対処して社会の損壊を防ぐレベル、資本主義体制の克服を目指すレベルの三つぐらいを区別して組み立てないといけないと思いますが、のちのレベルにつながるように前のレベルを作りつつ、のちのレベルの目標を共有しない人とも共同できるようにしないといけないと思っています。
 「ひとびとの経済政策研究会」のマニフェストやこの論文を、薔薇マークキャンペーンの責任ではない別の文書としつつ、参考資料として示しているのは、そういうつもりのところがあります。

2、佐藤から松尾先生への返信とお尋ね  
企業が投資を控えるのは利益が確実な部門が少ないからではないか?
日銀当座預金の引き出しはあり得ないのか?

1)ワルラスの「超過需要」という概念が解りません。
 セイ法則は実際に行われた交換を前提にしており、そういう意味ではトートロジーのような感じもします。
2)完全雇用は僕らの若い頃は実際にほぼそうでしたね。
3)企業が投資や雇用を控えるのは、総体的な景気の停滞があって、利益が確実な部門が制限されているからではないでしょうか?
 企業は利益が出るなら誰にも遠慮せずに投資・雇用するでしょう。
4)現状、日銀の当座預金の引き出しが行われていない、あるいは行うことが必要ではない状況で、それがインフレにならない理由であると思いますが、これは続くのでしょうか?
5)昨年の夏に先生と置塩理論のお話をしました。
 その時、思ったのですが、マルクス主義には形而上学に対する弁証法という考え方があります。
 労働価値説も、価格と価値の関係を固定的に確定することが趣旨ではなく、需給の関係の中で、価格は何に向かって運動するのか、という論理であると思います。

 弾圧で労働学校の運営も厳しい時ですが、機会があったら、また、お話ししましょう。

3、松尾から生徒・佐藤へ再返信 
市場価格変動メカニズムの根拠
セイ法則に関する様々の理論
大衆の暮らしに直結する経済論争こそ!

日本円札束イメージ① 取り急ぎ、メール文のセイ法則のところだけ。
 実際に行われた取引をもとにしていたらまさしくトートロジーですが、セイ法則とはそうではありません。
 売るつもりと買うつもりの間の関係です。だから、個々の財については、過剰生産や過少生産が起こり得ます。
 セイ法則が成り立てば、過剰生産された財がある裏には必ず過少生産の財があることになります。
 これがミソで、これが価格メカニズムがうまく働く根拠になっています。
 なぜなら、過剰生産された財の価格が下がり、過少生産された財の価格が上がると、相対価格が変わるからです。
 セイ法則が成り立たないと、すべての財について過剰生産することが起こり得るので、その場合には相対価格が変わらずにすべての財の価格が下落するということが起こり得て、最も素朴な議論では相対価格が変わらないから実物経済には何事も起こらず、価格メカニズムはこの不均衡を解消できないことになります。
 そこで拙稿にとりあげたようないろいろな議論が生まれてくるというストーリーになっています。
 ちょうど先日書き上げたばかりの共著本の担当章でそれに間することを書いているので、添付します。
 ご笑覧いただけたら幸いです。

② 3)はそのとおりだと思います。拙稿で投資関数のグラフが下の方にある図で示しているとおりです。
 4)ですが、日銀当座預金を「引き出す」と日銀券になるので、今日ではほとんど意味がないことなので、引き出すことはしないと思います。
 問題は、民間の銀行は、預金に公定預金準備率をかけたところまで日銀当座預金に入れていればいいので、日銀当座預金が膨大に膨らむと、貸し出しで預金を作っていい額がものすごく膨らんで、本当にそうなったらインフレが悪化するということでしょう。
 このこと自体は形式的には公定預金準備率を上げればいい(貸し出しで預金を作っていい上限が形式的には下がる)だけの話ですが、そこまでいく前に、売りオペで金利を上げて貸し出しを抑えると思います。
 5)についてはそのとおりで、本質がそれと矛盾する現象に「化ける」というのが弁証法の見方だと思うので、姿形は別物でも、正体は同じものが貫いているということが大事なのだろうと思います。
 ですが例えば、価格の変動の重心が数学的に投下労働価値と一致するというような必要はなく、投下労働価値法則が示すそう労働の社会的必要に応じた配分が、社会の再生産を壊さない範囲で成り立つ力が働くならばそれでいいということだと理解しています。

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