香港からの報告(2)區龍宇(アウ・ロンユー)
衛香港戰2019~香港防衛の戦い

香港議会(立法会)前での攻防
香港議会(立法会)前の攻防

 昨12月に二日間にわたって東京で開催された講演集会「BATTLE OF HONG KONG 2019-香港に自由と民主主義を」と題する講演集会。前回の陳怡(チェン・イー)さんの報告に引き続き、今号では闘争の現場から、區龍宇(アウ・ロンユー)さんの報告と分析を紹介する。
  區龍宇さんは香港の左派の民主派活動家で、香港の民主化のカギは中国の民主化にあると主張する。邦訳書に『台頭する中国 その強靭性と脆弱性』『香港雨傘運動 プロレタリア民主派の政治論集』(ともに柘植書房新社)がある。

區龍宇(アウ・ロンユー)さん報告

衛香港戰2019

自治権を守って進む香港民主化運動

區龍宇(アウ・ロンユー)さん
區龍宇(アウ・ロンユー)さん

 運動は当初、逃亡犯送還条例改正案へのたたかいとして始まったが、香港政庁は9月4日にそれを撤回した後もたたかいは続いていた。北京政府代表部が記者会見で「条例は撤回されたのになにをいつまでも騒いでいるのか」と語った。運動は既にその段階を超えて、香港の自治の問題にまで拡がっていることを北京政府は理解していない。

 香港返還後22年に、自治を守るたたかいは続いている。2003年には国家安全条例への反対のたたかい、学校での北京語強制へのたたかい。2014年の雨傘運動、そして今回。一貫して香港の自治を奪おうとする北京政府の企みに対して香港人民は抵抗してきた。

二つの世代が支える運動

香港・運動の前面に立った「i世代」の学生・労働者
運動の前面に立った「i世代」の学生・労働者(2019/07/02)

 運動は二つの世代の人々が支えている。香港返還の1997年前後に生まれた10代後半から20代の若者たちを「i世代」と呼ぶ。
 子どもの頃からスマホなどのITで育った世代が前衛としてたたかい、すでに社会に出ているもう少し上の世代が後衛としてそれを支えている。この二つの世代の協力で運動が続いている。

2月〜5月−−闘いの始まり

  陳怡(チェン・イー)さん が運動の中で克服すべき課題を提起してくれたが、一方で運動全体をどのように認識するかも必要である。運動はこの半年ほどの間に幾つかの段階を経てきた。

 2月から5月にかけては運動の萌芽期にあった。この時期の運動は「全て若者のたたかいによるもの」とは言えない。政府が条例改正案を発表した時、最初に反対の声をあげたのは上の世代の、民主派の大衆組織に参加する活動家だった。しかし規模は限定されたものだった。

警察の弾圧と青年世代の戦闘化

香港200万人デモ(2019.06.16)
200万人デモ(2019.06.16)

 5月に入ってから運動は拡がりを見せ、6月9日には103万人がデモに参加した。この時期、決定的転換点となったのは6月12日、数万人が議会を包囲した時だった。政府は法案の審議を中止した。しかし若者たちはデモの後もそこから立ち去らなかった。警察が高圧的な対応をしたため、衝突が起こった。若者の中からブロックを警察に投げつける者も現れた。

 当初政府は、「香港人はおとなしいのでデモ隊が暴力を使ったら運動の支持者が減るだろう」と見ていた。ところが衝突の翌日、政府と警察を非難する大きな声が沸き起こった。そして16日の日曜日に「民間人権陣線」が呼びかけたデモには200万人が参加した。これ以降、学生の実力闘争を支持するのかしないのかの世論調査結果が、運動の高揚と衰退を測るバロメーターとなった。

新たな段階−−ストライキの成功

香港ストライキ突入集会(2019/08/05)
三罷(ストライキ)突入(2019/08/05)

 6月から7月にかけて若者たちは警察と激しく衝突し、それによって香港政庁と警察が北京政府の傀儡に過ぎないことが明らかとなった。
 実力闘争は高揚して行ったが、同時に若者たちは限界も感じるようになり、ストライキの必要性を訴えるようになった。ストライキはそれ以前には呼びかけても成功してこなかったが、実力闘争の高揚と、香港政庁の反動的な正体が暴露されたことによる人々の怒りがストライキの成功を導き出した。

 8月5日、ストライキの呼びかけに対して香港中のかなりの交通機関や経済活動が麻痺し、空港でも半分が欠航に追い込まれた。ストライキ当日、香港の7箇所でストライキ突入集会が行われたが、こんなことは香港では初めてのことだった。

北京政府の反撃

香港機動隊の弾圧
香港機動隊の弾圧

 それに対して北京政府は反撃に出る。香港の地元のキャセイ航空の2人の経営陣の首をすげ替え、新しい経営者はストライキに参加した労働組合委員長を解雇した。

 9月に入って運動の発展が困難な局面となる。9月は学校が始まる時期だが、9月の3日に呼びかけられていたストライキは成功しなかった。8月のストライキへの報復が明らかとなり、人々が報復を恐れてストライキへの参加を見合わせたためである。
 そこで学生たちは新しい方法でのストライキを考え出した。線路上に妨害物を置いたり、道路上のバスの路線を妨害したりすることで交通全体が混乱したのだ。

香港デモ

 このストライキには「副作用」があった。そのようなストライキは労働者自身の主体的な闘争意欲を減退させてしまい、「あとは任せたよ」ということになり、8月5日以後10回以上ストライキを呼びかけたが成功しなかった。しかし運動そのものは高揚していた。9月から10月にかけて拡がって行った。

 まず各地で中高生が起ち上がった。自分たちでグループを作り、ヒューマンチェーンなど様々な形で運動に参加して行った。
 また運動が地域のコミュニティの中にも浸透して行った。さまざまな地域でデモが起こり、それに対して警察が催涙弾を浴びせて蹴散らすという事態となった。それに対して地域から警察への抗議の声が湧き上がっていった。こうして地域住民の抗議と警察の弾圧との応酬が続き、警察に対する住民の怒りが蔓延してゆく事態となった。
 運動は大きく発展するのも困難だったが、一方、政府の方も弾圧に成功はしていない。

 11月の11日以降、大学を中心に警察との攻防戦が行われてゆく。警察が大学を包囲し、18日には「学生を救え」と10万人の市民が理工大学へ駆けつけた。もしこの時10万人の市民が警察との衝突も辞さずたたかいに入っていたら、情勢はさらに革命的な状況へと推移していただろう。
 しかし、市民の側にはその準備がまだできていなかった。2万人から3万人の市民がクーロンの理工大学前で警察と対峙していた。しかし実際に警察の警戒線を突破し警察との衝突も辞さずに学生たちを救おうとしたのは数千人に留まった。

 9月以降、運動はそれ以上発展できず、警察との間で互いに対峙しながらどちらも引くこともできない状態で事態は推移していった。大学への2度の包囲戦では学生側が多くの逮捕者を出して敗北した。そして12月。今は新たなたたかいの再編に向けて見直しを進めている段階にある。
 実力闘争には大きな代償が伴う。約6000人が逮捕されたが、その数はそれ以外の罪で収監されている総数を超えるものとなっている。

運動は労働者階級を活性化させた

 このたたかいに参加した人々の割合を示す表がある(中文大学伝播輿民意識調査センター)。それによると、上層階級の参加者の数は少なく、とりわけ6月12日の国会包囲戦の時にはゼロ%。一方、中産階級と庶民階級の参加者の数は両方を合わせれば90%を超えている。しかし中産階級には医者や高額収入の人など非常に広い範囲の人々も含まれている。したがって、やはり最も多いのは労働者階級だったと言える。

香港金融街でサラリーマンがデモ
香港金融街でランチタイムに会社員がデモ

 ホワイトカラーの人々でストライキや抗議行動に参加するのは普通は少ないが、10月から11月にかけてはほぼ毎日、ランチタイムになると香港島のセントラル(中環)地区、アメリカで言えばウォールストリートのような金融街で何千人もの人々がランチタイムデモを行なうようになった。誰かが組織したわけでもなく、スローガンも横断幕もない、自然発生的に起こってきた。香港返還以降の22年間の民主化運動の中でこれほどまでに労働者階級が運動に参加したことは今まで無かった。

 運動が始まってから、主に外国メディアから、香港市民が掲げる5つのスローガンについて「公平な分配とか、経済的要求はないのか」という質問を受けるが、それはレストランで注文を待ちきれないお客さんである。美味しい料理を食べたいのであれば、じっくり料理をする時間、待っていて欲しい。

 運動ではゼネストが呼びかけられ、多くの労働者階級の人々が活性化している。今まで香港の労働運動は弱かったが、運動を通じて強化されていることを多くの人たちが再認識している。

 運動が始まるまで若い労働者たちは労働組合をばかにしていた。しかし、運動を経験し、ストライキの力を実感し、労働組合を作らなければならないと動き出している若い労働者たちが現れている。いま確認されているだけで38の業種で新しい労働組合が結成され、あるいは準備中である。

香港は独立をめざしているのか?

香港議会(立法会)を包囲・突入・占拠
包囲・突入・占拠される香港議会(立法院)(2019/07/01)

 運動に参加する人々の政治傾向と参加率の表によれば、温和民主派と激進民主派を合計するとほぼ50%を占めている。本土派は全体の25%を占めている。これらの人々の99%は何らの組織にも所属していない。

 選挙では民主派は約6割を占めているが、その中で大きな政党でも数百人程度しかいない。北京政府は香港の運動を「独立運動だ」と言っているが、香港全体で調査すればおそらく「香港独立」を求めるのは1割にも満たないだろう。民主派の要求の中にも「独立」要求は無い。北京政府の認識は間違いである。

外国勢力が香港に介入しているのか?

 デモ隊がアメリカの旗を振っている写真をよく見るが、中には親米派極右もいる。しかし半年前にはたたかいに参加したこともないた若い人たちがたくさんいる。初めて参加した運動を応援してくれるアメリカに感謝する単純な考えで旗を振っている人も多くいるわけで、この二つの違いを認識しておく必要がある。

香港警察庁長官
香港警察幹部

 また北京政府はこの運動を「外国勢力の介入」と言うが、外国勢力の介入には我々も反対である。しかし、香港警察はルパート・ドーヴァーを筆頭に3人の英国人幹部の指揮の元でデモを弾圧している。またその配下には数百人の白人警官がいる。警察だけでなく香港政庁の高級官僚の中にも外国籍パスポートを所持する多くの職員がいる。北京政府はなぜこういう「外国人勢力」を非難しないのか。

 香港基本法(香港特別行政区基本法)は北京政府と西側諸国との妥協の結果誕生したものだ。基本法が制定されていくのは80年代だが、中国が80年代以降、資本主義を復活させていくことを交換条件として制定された。

香港金融管理局
香港金融管理局

 基本法の中では公用語として英語も使うこと、香港の裁判所の裁判官に外国人も採用できること、外国人を香港政庁の高官に採用できることなども認められている。また基本法では中国の法律を香港には適用できないと決められている。イギリスやアメリカはこのように自国の権益を香港に残している。そのようなイギリスやアメリカが香港を大混乱に陥れようとするだろうか?

 アメリカもイギリスも香港の安定した条件の中で金融センターとして香港を活用するのが彼らの方針に他ならない。現在の対立構造を引き起こしたのは香港基本法を破棄し、中国の法律を香港にも適用しようとの北京政府の策略が原因である。

   

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