世界資本主義の危機と崩壊、それにどう立ち向かうか/斉藤日出治

斉藤日出治(大阪労働学校・アソシエ学長)

世界資本主義の危機の根源にあるもの
―資本の暴力性

斎藤日出治さん
斉藤日出治さん

 2008年のリーマン・ショックを機に、資本主義の終焉論が一気に吹き出した。そこには、資本主義が人類と地球の破局をもたらすのではないかという深い懸念がともなっている。

 米国の金融破綻が即座に世界金融恐慌として発現したことのうちに、グローバル資本主義の本質が語り出されている。グローバル資本主義は、デリバティヴと呼ばれる金融派生商品によって世界をひとつに結びつけた。世界が投機を目的とした金融取引によって一元化された社会状態は、自然発生的に生まれたわけではない。

 金融取引の自由化政策は、実体経済から自立して資産バブルを生み出す回路を解き放った。この回路は、ひとびとがたがいに連帯と協働にもとづいてつながるあらゆる社会諸関係を解体する暴力を発動する。地域における伝統的な相互扶助組織が解体され、グローバルな資金の流れを規制し公共の目的で回路づけようとする市民結社や社会的企業が衰弱させられる。

 その結果、ひとびとはたがいに孤立した私的個人に分解され、投機目的の金融取引の資金循環という物象の社会的連関によってひとつにつながれる。そして、たがいに敵対しあい私益を追求する競争にかりたてられる。この競争の行き着く先が、金融取引の中心部の米国における住宅資金のサブプライムローンの破綻であり、その破綻を契機とした世界的規模での金融危機であった。

ナオミ・クライン
ナオミ・クライン

 資産バブルの膨張を通して推進される経済成長は、市場取引の外部におけるひとびとの連帯と協働の関係を破壊する暴力を内包している。資本の蓄積過程は、その過程の内部にマルクスが洞察した「資本の本源的蓄積過程」の暴力を内蔵し、資本の前史だけでなく、今日の世界の各地で日々その暴力を発動している。資本の蓄積過程はひとびとの協同的・相互扶助的な社会諸関係を解体しひとびとを分断と競争の諸関係に陥れる。

 ナオミ・クラインは災害やクーデタや戦争を契機に社会を白紙状態に還元してそこにビジネスチャンスをつくりだす手法を「ショック・ドクトリン」と呼んで、新自由主義のはらむ惨事便乗型資本主義の暴力的本性を語り出した。だが、この手法は新自由主義の専売特許ではない。資本の概念そのものにこの暴力がはらまれているのである。

リスクの共進化が引き寄せる破局
-システミック・リスク

Consuming Ourselves to Death

 この危機は経済危機にとどまらず、社会と自然のあらゆる領域に深刻な作用をもたらす。なぜ危機はすべての領域に波及するのか。
 資本価値の増殖を自己目的とする運動は、生命、自然、性、文化、身体、倫理といったあらゆる領域に資本の価値増殖を自己目的とする運動の原理を浸透させることによって、これらの領域の持続的な再生産を不可能にするからである。目先の成長を最優先する思考と行動は、将来世代と長期的な将来に対する配慮を欠くことによって、生命の再生産を不可能にする。

 この思考と行動は、森林の破壊、地球の温暖化、水質汚濁、土壌汚染を意に介すことなく、人間と自然の物質代謝過程を攪乱し破壊する。地域および市民社会の相互扶助と連帯の関係を貧困化する。家族・友人・仲間の親密な友愛の関係を打算の関係に還元する。

トランプのガン 自己責任

 だから、危機はひとびとの生活過程の再生産における総過程的な危機として発現する。金融経済用語に「システミック・リスク」という言葉がある。それは、ある金融機関の決済不能あるいは倒産が金融システム全体に波及するようなリスクを意味する。世界資本主義においては、このシステミック・リスクが、金融領域を超えて、社会・自然・時間・空間の全領域を包摂する社会システムの総過程的危機として発現する。

 気候変動をはじめとする生態系の危機、核戦争の危機、原子力発電事故の危機、生命の再生産の危機、家族とジェンダーの危機、文明と歴史の危機、時間と空間の危機、これらの危機はたがいに連動しつつ、社会と自然の総過程的危機を誘発する。資本主義の終焉は、この危機が不可避であることに由来している。それは資本と国家によっては制御不可能な危機の進行にほかならない。

ウルリヒ・ベック
ウルリヒ・ベック

 分断され孤立した諸個人はこのシステミック・リスクをストレートに被る。ウルリヒ・ベックが指摘する「リスク社会」とは、この総過程的な危機にむきだしの個人が直面する社会のことである。社会を喪失した個人は、自分だけが頼りの世界に投げ出され、総過程的な危機に何の保護もないままに裸でさらされる。

 2018年2月、フロリダで銃乱射事件が発生したとき、トランプ大統領はなんと言ったのか。かれは銃を公的に規制しようとするのではなく、学校の教師も銃で武装すべきだと唱えたのだ。政府が市民にむかって自衛のための武装を呼びかける。だが、個人が銃でいくら武装しても、核戦争や気候変動の脅威に立ち向かうことはできない。

 また、核の脅威にはいかなる科学技術も無力である。福島原発事故の汚染水処理は、海洋放出か大気放出しかないという結論が下された。自然と人間の物質代謝過程を破壊するシステミック・リスクに科学技術は無力なのだ。

対抗的共進化の創造を!
-システミック・オルタナティヴ

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 では、資本と国家によっても制御不能なこのシステミック・リスクにわれわれはどう立ち向かったらよいのであろうか。資本と国家が暴力の矛先を向けている当の社会を復権させることである。

 総過程的リスクにおいて発動される暴力に立ち向かうためには、資本の総過程の運動に対抗して、社会のあらゆる領域において連帯と協働の関係を創造する社会闘争に取り組まなければならない。

 自然の生態系にもとづいて人間と自然の物質代謝を回復する、都市住民の自治と自己決定にもとづいて都市空間を生産する、生命の再生産を企業や国家に委ねることなく自己決定する、核武装や軍事力の強化による国家安全保障に抗して地球的な規模での民衆の安全保障を追求する、企業の内部や企業間関係や産業のありかたを資本の利益によって組織するのではなく、働く者、暮らしを営む者の視点から再組織する。

 これらの多様な闘いが共進化して、社会の諸領域を資本蓄積や経済成長に向けて総動員する現行の体制を圧倒するようになるとき、荒れ狂う暴力の惨禍のなかで資本主義の自壊に代わるオルタナティヴな世界がたちあらわれる。

パブロ・ソロン
パブロ・ソロン

 パブロ・ソロン(ボリビアの先住民のビビール・ビエン運動の推進者・元国連大使)は、システミック・リスクに抗するこの道を<システミック・オルタナティヴ>とよぶ。
 わたしたちの取り組む運動は、性差別、障害者差別、民族・人種差別、都市問題、脱原発、反戦平和、協同組合・労働組合の組織化、反植民地主義、など多岐に亘るが、これらの運動がたがいに共進化しつつ、システミック・オルタティヴの社会闘争として結実するとき、資本主義というシステムが発動するシステミック・リスクの手を逃れて、そのリスクを制御するオルタナティヴな社会を手にする方向へと向かうことができる。

 政府と資本の激しい弾圧にさらされている関西生コンの連帯労組は、このシステミック・オルタナティヴの社会闘争を展開してきた。
 業種別組合の結成によって労働者の権利獲得の組織を創造する、生コンの中小企業経営者と連携して協同組合を組織し、セメント産業および建築産業との価格交渉に介入する、生コン産業の各種の産業政策(技能形成、技術開発、教育、都市政策)に取り組む。さらに、沖縄の辺野古基地移転阻止闘争や韓国の労働者との連帯を追求する。

大阪府警本部前に翻る連帯旗

 この一連の運動は社会的連帯経済という資本主義のオルタナティヴを追求する運動へと発展した。このようにして連帯労組は、自力でシステミック・オルタナティヴの社会闘争を創出してきた。大企業と政府と警察権力が束になって仕掛けてきた大弾圧は、この社会闘争を圧殺するための攻撃にほかならない。

 この世界は、いま経済という名の戦争状態に突入している。ひとびとをシステミック・リスクにさらし社会を破局に追いやる力と、協同と連帯によってそのリスクに立ち向かう力とがせめぎ合う戦争状態がそれである。わたしたちは、社会のいたるところで、多様で広範にシステミック・オルタナティヴの運動を創出していくことが求められている。

斉藤日出治さん
1945年生まれ。社会経済学・現代資本主義論専攻。名古屋大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。元・大阪産業大学経済学部教授、大阪労働学校・アソシエ学長 。
著書に『グローバル化を超える市民社会』(新泉社)、『帝国を超えて−グローバル市民社会論序説』(大村書店)、『空間批判と対抗社会』(現代企画室)、『国家を越える市民社会』(現代企画室) 他多数。

関連書籍:斉藤日出治さんの著書から

   

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