香港の未来は香港市民が決めるべきである/武峪真樹
-古賀滋さんの提言に応えて

 関西で頑張っておられる古賀さんに敬意を評します。献身的な努力にはいつも頭が下がる思いがいたします。香港の問題について、古賀さんのご意見を拝読いたしました。そのご意見に対する私なりの考えを述べさせてください。(武峪真樹@ジグザグ会)

中国社会主義革命が私たちにもたらした希望

映画「辛亥革命」より
映画「辛亥革命」より

 19世紀より西欧列強の侵略・支配に抗して何度も起ち上がった中国人民は、やがて辛亥革命により独立を宣言しましたが、それはまだ独立達成には至らず、その後も列強諸国、なかんずく日本帝国主義からの15年にもわたる侵略・支配と、それに対する抵抗闘争を経験しなければなりませんでした。そしてアジア侵略戦争終結後の1949年、社会主義革命によって中国人民は新しい方向へ向かう国家建設を始めることになりました。

 これはロシア革命に続き、アジア解放の一環として、日本の私たちにも大きな希望をもたらすものでした。この歴史的事実については、まず共有したいと思います。その上でその後に変化してきた中国と香港の現実の問題について述べたいと思います。

「民族自決権」の歴史と国民国家成立の過程

 「国民国家」は英語のネイションステート(NationState)の訳です。しかしこの言葉は「民族国家」とも翻訳されます。国民国家=民族国家。実は英語ではこの区別がないのです。何故でしょうか。それは王家の私有物であった国家が一民族一国家を作ろうとする民族主義運動の中で再編され、「国民国家」=民族国家 として再構築されてきたからです。それは「民族自決権」を体現するものでした。例えばハプスブルグ家の私有物であったオーストリー・ハンガリー帝国から多くの民族国家が生まれました。

 民族自決権を尊重する思想から民族国家が生まれました。しかし、中国は多民族国家です。広い領土に56もの民族が共存し、それが省や特別市と共に、ある程度の自治権を持ったいくつかの自治区に別れています。香港は「特別行政区」です。それらの諸民族・諸地域の合意の上に中華人民共和国という、多民族統一国家が成立しています。諸民族・諸地域の意志が国家の意志と異なる場合には、「国家」と「民族・地域」がどう折り合いをつけるのかが問われることになるでしょう。

香港の未来は中国が決めるべきなのだろうか

香港

 「香港の未来は14億中国人民が決めるものだ」という古賀さんの主張には2つの疑問があります。

 第一に、香港の自治権と統一国家中国としての合意との間でどのように折り合いをつけるべきなのでしょうか? その点に全く言及することなく、一方的に「14億中国人民の意志」を香港市民に押し付けるのは正しいことなのでしょうか?
 それぞれの地域には自治権、自己決定権が認められるべきです。そうであるからこそスコットランドやカタルーニャの分離独立の主張には正当性があるのです。

 もしも地域の自治権よりも「国家の意志」の方が正しいというなら、沖縄県民の民意を無視して辺野古新基地建設を強引に推し進める日本政府の態度は正しいのでしょうか?
 相手が日本政府なら沖縄の自治権を正当と認め、中国政府なら国家の方が正しいという対応は、不公平ではないでしょうか。

中国政府の意志は14億中国人民の意志か

天安門事件
天安門事件(1989)

 第二に、中国政府の意志は本当に「14億中国人民の意志」なのでしょうか?
 それならなぜ31年前の天安門事件は起こったのでしょうか? なぜウイグル「人民」やチベット「人民」の抗議行動は起こったのでしょうか? 中国政府はなぜそれらを軍隊まで使って押し潰したのでしょうか? それは中国政府が「14億中国人民の意志」を体現していないからではないでしょうか?

 1991年のソ連・東欧崩壊以来、世界的二重権力構造は消滅しました。その中で中国が占める国際的位置は、今も「帝国主義圏に立つ社会主義の孤塁」と言えるのでしょうか? 実情を考えればそうは言えないと思います。

 中国は大幅に資本主義経済を受け入れ、世界中から資本を導入してきました。上海や香港に日本よりも大きな金融市場を建設し、経済規模は日本の3倍近くに達しています。巨額の資産を持つ中国人資本家が国内にたくさんいる一方、貧困問題も深刻です。中国はもはやどこから観ても「資本主義国」なのです。

 ところが、他の資本主義諸国と比較しても、政治的自由、報道や言論の自由が大きく制限されています。ウイグル人やチベット人、また天安門に集まった人々は、政治や言論の自由を求めただけなのです。香港市民を弾圧する中国政府の行動も、必ずしも「14億中国人民の意志」とは言えないと私は思います。

香港市民は外国反動勢力に操られているのか

 中国政府は英国旗や星条旗を掲げる人々の写真を「証拠」に、民主化運動を「帝国主義者の陰謀」と非難しています。古賀さんも活動家の中に英国系香港人がいると仰る。

香港警察庁長官
香港警察トップ

 長い英国支配が続いてきた香港では「英国人」は珍しくありません。それどころか、実はこの民主化デモの弾圧を命令してきた香港警察のトップ3人が英国人である事は、コモンズ紙の記事の通りです。

 香港市民は政治的自由、言論の自由を求めて起ち上がったのであり、それを応援するアメリカやイギリスに感謝して旗を掲げるのは何ら不思議ではありません。いや、むしろ香港市民が米英になびくような事があるとすれば、その責任は香港政庁による市民弾圧と、その背後から弾圧を指示してきた中国政府にこそあると言わねばなりません。

 そもそも百万人もの市民の決起を「帝国主義者に操られている」などと決めつけるのは、右翼がロシア革命や中国革命を「共産主義者の陰謀」と非難するのと同じくらい根拠のないデマです。
 この運動は「独立運動」でもありません。香港の活動家アウ・ロンユーさんは、「独立」を考える香港市民はわずかだと語っています(前述記事参照)。

 古賀さんはこのデモに関して「香港の資本家の陰謀」を疑っておられるようですが、むしろデモによる香港取引所の「経済的惨状」がロイターなどで報道されています。どうして香港経済界が自らの損害を引き起こすようなことをするでしょうか。またアウ・ロンユーさんの指摘のように、香港の運動は圧倒的多数の労働者階級の力によるものです(同137号138号)。

人民の抵抗権を認めずして民主主義はない

香港警察の弾圧

 香港民主化運動の発端は、香港政庁が「逃亡犯条例」改正を謀ったからです。これは中国政府に抵抗する政治犯が香港に逃げ込んでも、それを捕まえて中国本土へ引き渡せるようにするためです。政治犯は中国本土に引き渡されたら処刑されます。中国政府の目的は、中国全土で唯一、最後に残された「言論の聖域」を叩き潰し、中国本土と同じ弾圧下に置くことです。これが通ってしまったら香港市民は政府を自由に批判できなくなります。

 民主主義の重要な権利として「政府に対する抵抗権」があります。人民には政府を批判し、あるいは監視し抵抗する権利がある。資本主義政府であろうと社会主義政府であろうと、どのような政府にあっても政府批判の権利は守られねばなりません。人民が政府への抵抗権を奪われることは「民主主義の死滅」を意味します。

 言論や批判の自由には、もちろん「資本主義宣伝の自由」も含まれますが、だからと言って、言論を圧殺することは決して資本主義への反撃にはなりません。思想の自由も言論の自由も批判の自由も無いところに、いったいどんな社会主義を建設するつもりなのでしょうか?

 香港の未来は中国が決めるのではない。香港市民自身が決めるべきであると私は思います。

カタルーニャはカタルーニャ人の手に!
沖縄は沖縄県民の手に!
香港は香港市民の手に!

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