資本と権力は何を狙っているのか
反撃の方向と課題はどこにあるか

今、何が起きているのか?
大阪広域協による大反動が始まって2年、未曾有の権力弾圧が始まって1年半。資本と権力は何を狙い、どこまで実現したのか。反撃の方向と課題はどこにあるのか。議論の一助とするべく資本と権力の動きを概観する。(永嶋靖久:弁護士)
経過の概略

2018年1月23日大阪広域協は加入各社に対して前年12月12日からのストライキを口実に「連帯労組と接触・面談の禁止」を通知し、「連帯系」とみなした企業への出荷割付停止を行った。停止された企業(従業員全員が組合員)は大阪広域協を相手どり割付維持を求めて大阪地裁に仮処分を申立て2018年6月21日、勝訴決定を得た。
しかし、その翌月から未曾有の権力弾圧が始まる。同年7月18日の湖東協理事長ら逮捕に始まる一連の弾圧は2019年11月14日の逮捕まで大阪・滋賀・京都・和歌山の4府県にまたがって18次に及び逮捕者数はのべ89名、実人数57名(人数は警察庁組対部長の国会答弁)となった。
武委員長は8月28日の逮捕から6回、湯川副委員長は同日から8回の逮捕を重ね、弁護人以外との接見が禁止されいくつもの警察留置場や拘置所をたらい回しされながら、現在も身体拘束が続く。家宅捜索は、組合事務所、組合員自宅 、関係企業など百数十カ所に及び、関生支部の活動に関わるあらゆる資料が押収されている。そして今も警察の動きは止まず、家宅捜索や任意の呼び出しが続いている。
不当労働行為はどのように行われているか

生コン製造企業は大阪広域協から生コン出荷の割当を受けられなくなることを恐れ、生コン輸送企業は生コン製造企業から輸送契約を打ち切られることを恐れ、正社員の組合員を解雇、非正規雇用の組合員を雇止め、組合員を供給する近畿地本とは労供契約を解除、あるいは関生組合員の雇用を続ける輸送企業とは輸送契約を解除などしてきた。
労働契約関係が直接的に存在しないところには雇用の維持、労働条件の切下げに対する労働法による規制は届きにくい。第18次逮捕と同日、京津地区最大の拠点分会がある生コン輸送企業(大津市)が全従業員(全て組合員)に解雇を通知し,翌日自己破産を申し立てた。
破産申立ての理由は株主であり荷主である生コン製造企業から専属輸送契約を打ち切られたためであり、荷主が輸送契約を打ち切った理由は税務署が輸送運賃が高すぎるとして経費否認したことなどであった(30年前の大争議で勝ち取られた労働条件の国税当局による否認)。労働協約の一方的解約はいくつもの企業で続いている。
何が「犯罪」とされているか

滋賀・大阪での弾圧は、生コン産業に固有の構造と就労形態に根差した、労働組合と協同組合の関係を攻撃すべき環として狙った。関生支部が掲げる一面共闘・一面闘争のうち、前者がゼネコンなどへの恐喝未遂や威力業務妨害とされ(犯罪とされた行為態様は大阪高裁で民事的に違法なしとされていたもの)、後者がバラセメント輸送企業等への威力業務妨害とされた。
しかし、京都の弾圧は全ての労働組合の活動が犯罪とされうることを示した。加茂生コン事件では常用的な日々雇用労働者が組合に加入して正社員化を要求したり、子どもの保育所入所に必要な就労証明書の交付を求めたことなどが強要未遂とされた。近畿生コン事件やベスト・ライナー事件では、何年も前の倒産争議の際の協定に基づく解決金の支払が恐喝とされた。
そして、弾圧の射程は労働運動にとどまらない。数人の組合員による短時間のビラまきがゼネコンへの威力業務妨害として逮捕・起訴され、3ヵ月以上も保釈されない。資本や権力に対抗する行為の一切が「威力」とみなされているようだ。
不当労働行為と弾圧はどのように結びついているか
各府県警は連携を取り合いながら、ほしいままに時期と対象を選んで捜索・押収・逮捕・勾留を続ける。警察・検察は、取調を受けている組合員だけでなく、その家族にまで組合脱退を誘導してその意図を隠さない。
組合脱退を表明しない限り、逮捕をほのめかし、あるいは実際に逮捕を繰り返す。組合を脱退するだけでは足りず、仲間を売る調書を作成し、弁護人も変えなければならない。完黙で保釈されても保釈金は高額の上、組合活動の一切を不可能にするような保釈許可条件が付けられる。
弾圧の手法と構造はどのようなものか

パソコン・USB・メール・スマホ等のデータが地引き網的に収集される。警察への抗議街宣や押収状況を録画するビデオまで差押さえられる。法律が定める手続の外で事実上の「司法取引」が行われる。経営者を関生と共犯の恐喝被疑者として取調べながら,関生による恐喝被害者としての調書を作出していく。
警察や検察が求めるままの調書作成に応じれば逮捕されず、もし逮捕されても起訴されない。起訴してもただちに保釈される。さらには検察官の構図では恐喝の実行正犯のはずの経営者が、逮捕もされず(タイヨー生コン事件)、逮捕されても起訴されない(加茂生コン事件)。事件は一方当事者の自白で構築される。酒席での共謀を認定するためには酒席での共謀の事実は必要ない。酒席で共謀したという一方の自白があればよい。経営者は委員長や副委員長と「共謀」したと供述し、黙秘する二人だけが起訴され保釈もされない。
全事件につき、個別・具体的な行為に関わった組合員と行為に参加しなかった役員などの間での個別・具体的な共謀を裏付ける証拠はほぼ存在しない。検察官は組合の全体的な方針・総括と抽象的一般的な組合機関の構造から組合員の共謀を主張している。
加茂生コン事件は「強要」未遂の罪名で起訴されたが、警察は「組織的な強要」の未遂で捜査を開始し、検察の冒頭陳述や請求証拠も「組織的な強要」の未遂を意識している。「組織的な強要」の共謀は共謀罪(組対法6条の2第1項2号)の対象である。現時点では共謀罪の適用はない。しかし、正社員化を要求したり就労証明を求めようとする組合内部の議論自体が共謀罪によって処罰される構造はできあがっている。
どのような力がこの大弾圧を動かしているか

生コン産業は長期的には構造不況業種でありミキサー車を利用しての輸送も減少している。産業衰退期の大争議・大弾圧という点では、三井三池(炭労つぶし)や国鉄分割民営化(国労つぶし)にも類似する。ただし、大阪地域では短期的には万博、カジノ等による生コン消費量の飛躍的な増大が見込まれている。巨大な利権に突き動かされた動きでもある。
労働運動、社会運動の全般的衰退と大衆的なあるいは実力的な運動の喪失状況を背景に、セメント・ゼネコン独占、生コン関連中小零細資本、権力、暴力団、差別排外主義潮流等々様々なベクトルが一方向に合力し、関係する諸個人の利権・思惑・忖度を現実的な駆動力としながら、日本の労働運動・社会運動に例を見ない、組織と運動の根絶に向けた包括的で大規模な組合つぶしが進行している。