よむ『ツイッターと催涙ガス』ネット時代の政治運動(2)/佐藤隆
抗議者たちのツールとしてのネットの強さと脆さ

著者: Zeynep Tufekci さん

前号からのつづき

(3)「運動の能力」と「シグナル」

ニューヨーク50万人デモ(2003)
ニューヨーク・イラク反戦デモ(2003)

 2003年2月ニューヨーク反戦デモは世界最大の反戦集会(ギネス登録)となったが、ブッシュは1か月後にイラク進攻を開始した。2011年アラブ蜂起でカイロには数十万人が集まり、政権を打倒に追い込んだ。社会運動の成功は規模だけでは測れないことは明らかだ。

 そこでは、本書では社会学あるいは生物学の概念を援用し、「運動の能力」と「シグナル」についての考察を進める。

 「運動の能力」としては、
1.「物語の能力」(物語の真相について人々を説得すること)、
2.「打破の能力」(占拠、ボイコットなど)、
3.「選挙・制度の能力」の三つを考察する。
 70年代にみられた「革命的闘争」で比喩すれば、イデオロギーと宣伝扇動、物理的な闘争、選挙など合法的な闘争とでもいうところか。

 「シグナル」とは元来、生物学の概念で、好ましい結果の為に潜在能力を意図的に相手に伝えることである。それは正直なシグナルも欺くシグナルもあり、宣言するだけの「チープトーク」でも効果の可能性はある。

 例えば、2011年1月25日にタハリール広場に集まった数千人は1年前に集まった数百人と、この「運動の能力」のレベルで格段の差があった。チュニジアの革命で世界が注目する中、数百万人のFBを組織し、活動家はSNSで「物語の能力」を獲得していた。さらに占拠という「打破の能力」も示した。しかし、その後が示すように「選挙の能力」でも同じ効果を発揮したわけではなかった。

We Are the 99 Percent
オキュパイ運動

 デジタルツールは「物語の能力」を大幅に強化する。BLMもSNSを活用し、スポークスパーソンやリーダーを持たずに「物語の能力」を蓄えた。
 2014年8月に丸腰のアフリカ系住民の少年を、白人警官が射殺したファーガソン事件では、ほとんどがアフリカ系であるファーガソンの住民の60%以上に罰金未払いの逮捕状が出ていること、市の予算は罰金に依存していること、議会や警察は全員が白人で、抗議を武装警官が弾圧していることを300万件のツイートが暴いた。
 オキュパイ運動は80か国、1000に近い都市で抗議活動が拡大したが、「われわれは99%だ」というキャッチスローガンもSNSがなければ注目は集まらなかったであろう。

 他方、デジタル技術は「能力」の関連性を切断し、いびつな社会運動が出来上がる。「最初にクライマックスがある」という運動の奇跡の逆転が発生し、「戦略のフリーズ」を経験する。ネットワーク化された運動は、首をはねられ難いが、内部の政治的争いに対処する手段もない

 それでも、スペインのポデモス、ギリシアの急進左派連合、米国バーニー・サンダースの選挙など、ネットワーク化された抗議運動が、後に「選挙の能力」へと発展していくケースも見られる。

(4)抗議者たちのツール プラットフォームとアルゴリズム

サンダース候補支援集会の若者たち
サンダース候補支援集会の若者たち

 1848年の革命・ヨーロッパ「人々の春」をはじめ、19世紀から20世紀の変化は新聞・鉄道・電報、続く電話、ラジオ・テレビから発生した。21世紀はコンピューターとインターネットとスマートフォンが公共圏を劇的に変えた。

 メルビン・クランツバーグは「技術は善でも悪でもない。中立でもない」という。
 デジタル・プラットフォームのポリシーや規約を決める立場の大手営利企業もその国の経済的現実や自社の経営的動機の中に埋め込まれるが、市場は製造者だけではなく消費者も必要とする。ツイッターのハッシュタグはユーザーが開発したイノベーション。トルコではツイッターボットがアカウントを閉鎖された人を探し出すのを助けた。

 情報コネクティビティ(連結性)はアルゴリズム(定式化された処理手順)を伴う。デジタル技術の機能は非常に柔軟で強力で、これにより数十億人が瞬時にコミュニケーションが可能となる。路上の抗議活動がオンライン活動より強力と信じる理由はない。

■ SNSの商業化が人々に沈黙を強いる

戦争できる社会

 だが、フェイスブック(FB)の基軸「いいね」は後に活動家を葬り去ることになる。エジプトの FBページ「我々はハリド・サイードだ」は数十万のアクセスを獲得したが、2010年11月、FBは「偽名」を理由に突然これを凍結、海外のエジプト人女性がリスクを引き受け、実名で受け継いで1月25日への招待を実現した。
 FBの実名主義はCEOザッカーバーグのイデオロギーだが、商業的メリットがあることは明白だ。ザッカーバーグのビーストという名の子犬すらFBページを所有しているというのに。

 SNSでは認知度は民間企業が作成したアルゴリズムによって決定される。そのアルゴリズムは、かつて従来のマスメディアとその編集への依存を減らして運動に貢献したSNSを、広告収入のために閲覧数増加を目標とするビジネスモデルによって、ネットワーク化された公共圏から商業空間へとシフトさせていく。

 FBは15億人のユーザーを持ち、グーグルは毎日30億件の検索がある。だがSNSの画面は同じ会社にしかつながらない携帯のようなもので、数億人のユーザーがいるツイッターですら投資家には小さすぎるのだ。ネットワークの効果はより多くのユーザーがいるほど便利だが、運営者はその集中化と監視の傾向を強める。

(5)コミュニティ・ポリシング

 プラットフォーマー(運営会社)は、「コミュニティ・ポリシング(参加者自身による警備、通報による削除)」というポリシーでサイトの監視を行っている。これは「違反を指摘されて削除しなかった場合を除き、サイトの運営者は投稿された内容に法的責任を負わない」という米国の法律が基礎になっている。

 このモデルは運営企業がユーザーの規模に比して、極めて少数のスタッフしか必要としないという金銭的な利点がある。ゼネラルモータースは数万人の直接雇用にサプライチェーンで数百万人を雇用しているが、FBは15億人のユーザーに対してわずか12600人を雇用しているに過ぎない。

ネトウヨ

 するとどういうことがおこるか。FBでは実名を使っていなくても通常は問題にならない。だが活動家は当局や反対者に通報されやすく、社会運動はこのコミニティ・ポリシングの標的にされやすい
 学習した政府は、反対派の通報を、金銭を支払うなどして奨励している。弾圧下の国では活動家はどうしても実名よりニックネームを使うが、トルコでは政敵からスパムとして通報されると何カ月もサイトが凍結される。

 一例として、2002年トルコではPKKとAKP政府との和平が実現、クルド人主体の政党が躍進し、クルド人地区最大都市の市長のFBには40万人以上が「いいね」をつけた。するとその市長のページが長期にわたって閉鎖されるという事件があった。
 トルコ政府の介入ではなく、 ナショナリストのトルコ人がコミュニティ・ポリシングを使って通報したもので、 FBへのモニタリングは アイルランドのダブリンで外注委託されていた。 FB側はアメリカ国務省のテロリスト組織リストにPKKが指定されていることで区別ができず、機械的にPKKの創始者を支援または表示するコンテンツを削除するよう指示したのだ。

  コミニティ・ポリシングの削除基準は一様でないが、商業的・法律的・イデオロギー的圧力の下、方針を動かすのは金銭的関心であり、知的財産法・著作権については積極的かつ包括的な保護措置が取られている。
 ツイッターは規制が少なく、FBは厳しい。グーグルの所有するYouTubeは暴力表現を禁止していたが、批判を受け、軍や警察の職権乱用を暴く動画は認める決定をした。

どの情報を表示するかは運営会社のアルゴリズムが決める

 また数億人のユーザーがコンテンツを共有するSNSでは、どうしても全部の内容を全員に表示することができない。ツイッターも時系列表示からアルゴリズム表示に徐々に移行しつつある。FBのニュースフィード、グーグルの検索のアルゴリズムは社会運動にとって強力な追い風にも頑丈な障害にもなる。

ファーガソン事件に抗議する人々

 ネットワーク化された公共圏は数回のクリックで社会運動が数億人に広がる可能性を持つが、同時に、サービス利用規約違反だという通報や、アルゴリズムのせいで沈黙させられる可能性もある

 たとえば、2014年のファーガソン事件(18歳のマイケル・ブラウンさん射殺事件)ではFBのアルゴリズムは重大な障害になった。事件の替わりに表示されたのは「アイスバスケットチャレンジ」。おそらく表示アルゴリズムはサイト広告主に都合のよいように設計されている。この公共圏の支配者はFBのプログラマーとビジネスモデルだ。幸いファーガソン事件はツイッターで拡散した。

■ 「自由放任主義」の負の側面がリンチを容認する

警察がレイシストを引き連れて弾圧
スワッティング

 ツイッターの共同創始者・ジャック・ドーシーは「権力に対して真実を語る」ことを理念とする。しかし、その自由放任主義の環境が、活動家に殺害の脅しを一斉に浴びせることになる

 攻撃者は同じアフォーダンスを使って攻撃を組織化する。個人情報をネットでさらす「ドキシング」や警察を対象者に向かわせる「スワッティング」を行い、自分は隠れたままで、陰から女性・マイノリティ・反体制派を攻撃している(日本でも辛淑玉さんや伊藤詩織さんがこのような攻撃で海外移住を余儀なくされた)。
 ネット上の活動家は実名主義のマイナス面と、仮名のプラットフォームの脅威の狭間に立たされるのだ。

 やがてデジタル・コネクティビティは右派も活用するところとなる。米国ティーパーティー・パトリオットは2009年2月19日、ケーブルテレビでモラルハザードを告発、SNSを駆使して4月15日「税の日」に50万人を集め、その後、富裕層からの支援を駆使して選挙のプロセスに深く関与、FBを使って議員連盟設立、2016年ドナルド・トランプ大統領当選へとつながっていく。
次号につづく

佐藤隆(愛知連帯ユニオン)

目次
<はじめに 本書の魅力>
(1)ネットワーク化された社会運動の特徴と文化
(2)ネットワーク化された運動の脆さと課題

(3)「運動の能力」と「シグナル」
(4)抗議者たちのツール プラットフォームとアルゴリズム
(5)コミュニティ・ポリシング

(6)政府の逆襲 「注目」と「信憑性」の否定
<最後に 「尋ねながら我々は歩く」>

   

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