よむ『ツイッターと催涙ガス』ネット時代の政治運動(3)/佐藤隆
権力者側がフェイクニュースや個人攻撃などネット逆利用へ

Fake News
日本でも沖縄問題などで権力者側がフェイクニュースを量産する戦術にでた

前号からのつづき

(6)政府の逆襲「注目」と「信憑性」の否定

 2011年1月、ムバラクが携帯電話とネットを遮断したことは完全に裏目に出た(ストライサンド効果)。暗闇に放り込まれた国民はタハリール広場へ集まり、残っていた政府と大企業をつなぐプロバイダや衛星電話を使用した連絡が行われた。注目こそが社会運動のリソースである。

 地球上の人口よりも携帯の契約数が多い中、SNSはマスメディアほど規制が簡単ではない。IPアドレスを偽装するVPN、発信元と内容を隠すブラウザTor、エンドユーザーを暗号化するワッツアップ、放送機能として使われるテレグラムも存在する。

「ニュース女子」のデマ報道糾弾  東京MXテレビに抗議
沖縄へのフェイク報道に抗議する人々

 各国政府は新しい公共圏とデジタル・コネクティビティの規制を学習しはじめ、情報過多を作り出すことで「注目」と「信憑性」を否定することを始めた

 権力者は、情報の発信→個人の意志・主体性の発生→抗議活動→社会運動という因果関係の連鎖を断ち切ることを狙い、迅速かつ効率的に情報の真偽を確かめる方法がない情報過多を作り出す。抗議活動を無視させ、別の抗議運動を組織化、政敵や反体制派への嫌がらせを促す。

 どの国よりも敏捷な戦術を実施しているのは中国である。万里のファイアーウォールを築き、「微博」や「人人」など自前のプラットフォームを用意している。2014年雨傘運動に対しては中国政府は戦略的な忍耐と意図的な「注目」の回避をおこなった。中国政府は極めて多数の投稿を24時間以内に削除できるが、一般に批判は削除せず、集団行動を促す可能性のある投稿を削除する。政府の職員が政治的に重要な時期に大量の別の投稿を行い「気をそらす」。

 ロシア政府は「トロール部隊」によるフェイクニュースの拡散や反対派への集中的な嫌がらせを行っている。スウェーデンのNATO加盟問題では、「NATOにスェーデンが加盟したら核兵器を配備する」「承認なくロシアを攻撃する」とのデマが拡散された。

言いがかりやデマで運動の力を削ぐ

 2015年トルコ南部でクルド反乱軍との対立が再び激化した時、SNSでは破壊された家や撃たれた女性と子供の画像に対して「フォトショップで加工したもの」だとか「別の場所だ」とかいう非難が浴びせられた。9月難民船が転覆、トルコの浜辺にシリア難民アイラン・クルディの遺体が打ち上げられた写真が拡散すると、右派サイト・ブライトバードなどから多くの言いがかりが寄せられた。

 米石油燃料業界はSNSで気候変動の科学的見解に疑問を向けるキャンペーンを行っている。2016年米国大統領選挙では外国政府が米民主党の選挙キャンペーンの情報を不正に入手した。「オバマが司法省の予算をクリントンに投入」「オバマが離職を拒否」などフェイクニュースをでっち上げるアルバイトでマケドニアの青年はゴールドラッシュ沸いた。

有名人がネット上で大拡散させたデマ
一度拡散させると責任のとりようもない

 デジタル技術は双方に武器を与える。情報過多は情報の真偽を確かめることを極めて困難にし、エコチェンバーによる二極化を作り出す。左派は行動を呼び起こすには「注目」と「正当性」が必要だが、権力者は単に行動させなければよい。「どちらが本当かわからない」と思わせればそれだけでいいのだ。疑惑が生む無力化は運動のエネルギーを剥奪する。

 インターネットが政府の追跡力を大幅に向上させた。Eメール、SNSが乗っ取られ、暴露され、脅迫に使われる。アゼルバイジャンでは反体制派の女性の寝室が盗聴されている。DDOS攻撃は反体制派の手段から権力者の手段となった。 今や、アラブの春を作ったSNSがアラブの春を壊しつつある

最後に「尋ねながら我々は歩く」

 本書を読むと、デジタル技術の変化がコミュニケーションの在り様と社会を如何に大きく変化させたかが良く解る。情報過多の中でのフェイクニュースの氾濫やネット上での活動家への脅迫が現代の情報構造に深く規定された情報支配様式になっていることが明らかになる。勿論、この社会変化は、コミュニケーション技術によるだけではなく、土台である世界経済構造の多極化という変貌にも深く根差しているのではあるが。

 本書は、2016年、あれほどデジタル・コネクティビティを嫌悪したエルドアンが、それによってクーデターを阻止した事件を見届けて書かれている。素晴らしかった「アラブの春」が、今や深刻な混沌をもたらしていた。

イルハン・オマル
初のムスリム系女性議員となったイルハン・オマル

 しかし、それでもその後、現在、スーダンとアルジェリアで新たな蜂起が起り、香港では「逃亡犯引き渡し条例」反対の抗議が爆発している。バーニー・サンダースの選挙は、イルハン・オマルやオカシオ・コルテスら4人の勇敢な女性マイノリティ議員の誕生に引き継がれた。運動の歩みは止まってはいない

 トゥフェックチーさんは、サパティニスタとスペインの若い女性が期せずして語った同一の言葉を最初と最後に引用している。「尋ねながら我々は歩く」。そして、こう続ける。「過去から学ぶことは確かに大切だが、前に歩みを進めること、疑問を発し続けることの方がもっと大切だ」
(了)

2019年8月
佐藤隆(愛知連帯ユニオン)

目次
<はじめに 本書の魅力>
(1)ネットワーク化された社会運動の特徴と文化
(2)ネットワーク化された運動の脆さと課題

(3)「運動の能力」と「シグナル」
(4)抗議者たちのツール プラットフォームとアルゴリズム
(5)コミュニティ・ポリシング

(6)政府の逆襲 「注目」と「信憑性」の否定
<最後に 「尋ねながら我々は歩く」>

   

著者の講演会(日本語字幕)

「コモンズ」136号の目次にもどる

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