戦中から敗戦直後の時代感情をそのまま記録した貴重な書

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天皇の代替わり儀式がさほどの騒ぎもなく、とはいえ右翼が渇仰したほどの新天皇ブームもついぞ巻き起こらずで、またもや日本国民にとって<天皇とは何か?>という根源的な問いに立ち戻る前に終わってしまった。
退位した平成天皇は、平和擁護者としてのイメージの装いで位を全うし終えたが、その父である昭和天皇の実像はいまだに不明だ。「戦争の最高責任者は誰であったか?」の問いも含めて。
この本の著者、米従軍記者マニングは、第2次大戦下の1940年から1945年にかけて欧州および太平洋戦域を報道記者として従軍した米国のジャーナリストで作家でもある。
著者は敗戦後の日本にいち早く降り立ち、マッカーサー元帥の信任を得て、昭和天皇裕仁の戦中戦後の言動と秘密を精細に調べ上げた。ついでマニングは占領初期、敗戦直後の日本人の国民感情も取材する。
彼は日本国中を旅行し、合衆国向けに記事を書いた。原著はその成果をもとに1986年に出版されたものである。
本著の内容は「戦争の日々」における昭和天皇裕仁の生の姿が描かれており、今日では概ね事実であると考えられているものが大半だが、「裕仁天皇は平和愛好者であり、侵略戦争に反対できたかもしれないが、軍部の横暴により阻止する力もなかった」との、弱々しい平和主義者の姿を頭から刷り込まれている多くの層にとって、その内容は何とも衝撃的だ。
蓄財だけしか頭に無い投資家としての顔
日本人の事など何も考えていなかった?

マニングは本書で「従軍記者の多くは昭和天皇がA・ヒトラーに負けず劣らず重要戦争犯罪人であることを知っていたが、”昭和天皇はパペット=あやつり人形だった”という説を広める時勢の流れはあまりにも強く、逆らうことができなかったのである」と当時の空気を伝えている。
加えて「昭和天皇の復権を目的とする宣伝活動が加速したのは、戦争中に首相だった東条英機陸軍大将がすべての戦争犯罪に関して、天皇の身代わりになることに同意したからだった」と述懐する。
さらに、昭和天皇を学問しか興味のない好人物で弱々しい平和愛好家と後世流布された評を「天皇が自分の蓄財だけしか頭に無く、日本人の事など何も考えていない事は明白である」とまで、多くの記録と資料から論述し木っ端みじんに打ち砕いている。
結論から言えば、天皇裕仁は国際金融資本ともつながりの深い利害関係人であり、裕仁の戦争動機は皇統の維持(軍閥も国会も排除した、身近な側近のみによる天皇親政と独立した資産形成)であり、その行動原理には押し込め君主になりはて死んだ大正天皇嘉仁と、明治より一代前、幕末の孝明天皇のトラウマがあると断言する。
天皇家の隠し財産(一説「神々の軍隊」によれば660億円、現在の価値に換算すると約300倍で20兆円)は、戦後BIS(Bank for International Settlements 国際決済銀行)に吸収されて世界で運用され、裕仁はその配当を受取り、投資家として動いているようだ(天皇が株式オーナーであった横浜正金銀行が日銀に代わったが)とマニングは予測している。
さらに、大戦中に中国・東南アジア諸国から略奪した金塊財宝は南米やスイスに輸送され、裕仁はそれを担保に資金を借り、米国中央情報部・CIAが日本に創立した不動産業者=森ビルと共に不動産を次々買収し、ハイテク産業にも投資して莫大な蓄財を築いたとまで、怒りをこめて論考を深める。
マニングが見た昭和天皇は、神でも「象徴」でもなく、単なる金融ビジネスマン(それも極悪の金儲け主義の)とまで喝破している。
本著は、マーク・ゲインの「ニッポン日記」(ちくま学芸文庫)と並び、戦後日本の政治史と天皇研究を続ける諸氏にとり、貴重な当時の時代感情をそのまま記した記録としてさらに重要性を増す。