

(前号からのつづき)
コロナ対策
今回の与党の勝利は迅速な新型コロナ対策の結果だという声が多い。
筆者が指摘したいのは、これらが2015年のマーズ(MERS:中東呼吸器症候群)などの教訓を生かしたということだ。
保健福祉省傘下の疾病管理本部がまとめた『2018年マーズ、中央防疫対策本部白書』は217ページに及ぶものだが、これによると2015年に韓国ではマーズ/MERS186症例が報告され、死亡者も38人発生した(別の資料では隔離対象となった接触者は16,693人にのぼったという)。
先の報告書によると、2016年から新種感染症の「流入遮断と初期対応」のため、感染症を24時間監視する官民合同チームを結成、陰圧病床も増やし、接触者隔離施設を確保、検査体系の改善やインフラの拡充をはかった。
さらに医療機関での環境改善をはかり、検査、感染疑いの人の選別、隔離、集中治療室の立入り統制の強化などを行っていた。
2018年の疾病管理本部のマーズ対策班報告書『2018年韓国内マーズ患者の監視と対応の結果』によると、その後も監視体系を整備しつづけた。
報告書によると、毎月の届出から合算した2018年の届出2,225人のうち、378人が感染の疑いとして分類され、感染者1人を割り出している。
このような対応は2014年のセウォル号事件を契機に韓国内で一気に高まった「人々の生命と安全」を国がどのように責任をもつか、という意識が背景にあったものだ。
ちなみに、日本の海外法人医療基金によると、2003年の日本のサーズ/SARS感染者は2人で、死亡者はゼロ、2014年のマーズ/MERS患者は、国立感染症研究所によると日本での発生は無しとなっている。
日韓双方で、新型コロナ感染症の発生当時の危機感が大きく異なっていたことが伺えよう。
現在、中央防疫対策本部のホームページによると、全国638の保健所と医療機関で「選別診療所」を運営、そのうち606か所でPCR検査を行っている。
診断キットを迅速に普及するための「緊急使用承認制度」を導入、累積検査数は554,834件で、検査完了数は541,284件となっており、情報は常に公開されている。
http://ncov.mohw.go.kr/
いずれにせよ緊急事態宣言も、都市のロックダウンもなしに4月18日現在の感染者合計は10,653人で死亡者は232人発生したが、隔離が解除された人は7,937人で、1日の新たな感染者は「全国で18人」に減少した。
しかし、韓国政府は感染経路の未確認患者が発生しつづけていることから、油断は禁物とクギを刺している。
3月24日に文在寅大統領とトランプ大統領との電話会談の際、韓国メーカー2社が開発したコロナ診断キット輸出の要請があり、4月11日に60万回分のキットが輸出された。
CNNは13日、「米国が韓国で75万回の診断キットの輸入契約を交わし、既に15万回分が出荷された」と報道したが、このような実績と韓国政府のコロナ対策は有権者に自信をもたせたに違いない。
民意はどのように生まれたか
これまで述べたように今回の総選挙で有権者は保守を審判し、文在寅政権への支持を表明した。
ただ、押さえておくべきは、このような動きが「自動的に」生まれた訳ではなく、運動の力で作られたということだ。
2020年3月12日、様々な市民団体の参加のもとで「総選挙市民ネットワーク」が発足した。
このネットワークは参与連帯や経済正義実現実践市民連合、財閥改革と経済民主化実現ネットワークなどの市民運動の他、韓国女性団体連合や女性民友会、ジェンダー政治研究所などの女性団体、環境会議や環境運動連合などの環境団体、民主労総や青年ユニオンなどの労働団体、韓国YMCA連盟などの宗教団体など1,545の団体で構成されている。
各団体はそれぞれ候補者にアンケートをしたり、これまでの実績を分析したりして、候補者をチェックする活動を行った。
女性団体が指摘したのは、女性候補の数。
それによると共に民主党12.65%、未来統合党10.975、正義党20.76%、民政党6.90%、民衆党46.67%だ。
セウォル号の遺族や支援者で作る「4.16連帯」は、セウォル号沈没の原因を作った人物、乗客の救助に責任のある人物、真実を歪曲し被害者を冒とくする発言をした人物など5つの項目で採点し、落選させるべき17人の名簿を公表した。
また、経済正義実践市民連合(経実連)では「政党選択ツール」を公開した。
これは20項目の設問があって、財閥や大企業の金融会社の所有を許容すべきとか、私立大の入学金も国公立のレベルにすべき、保育や高齢者施設の増設、北への制裁は緩和すべき、韓米同盟に偏よった外交政策は改めるべきなどの内容がある。
設問の答を自己採点すると、「あなたの答えは〇〇党の公約に近いです」と出てくる仕組みで、比例政党に迷う有権者に投票を促すようになっている。
さらに国会で「悪い法案」140の法案を洗い出し、それを発議した議員77人を公開した。
総選挙市民ネットワークでは4月9日、「悪い候補者178人」を発表、そのうち様々な団体で分析し5つの分野で1位の「悪い候補者」、前述のナ・ギョンウォンを含む3人を発表、4つの分野の悪い候補者16人を発表した。
その結果は公表されていないが、筆者が選管の結果を調べた結果、16人のうち9人(56%)が落選していた。
「親日清算」の活動
一方、「安倍糾弾市民行動」は3月17日に「親日清算4大立法と強制動員賠償判決」などについて684人の出馬予定者にアンケートを送付し、4月9日に結果を発表した。
それによると、アンケートの応答率は民衆党61.6%、正義党39.47%、共に民主党が25.3%となっている。
さらに市民行動では、「親日政治家の集中落選運動」を繰り広げるとして、ナ・ギョンウォン、ファン・ギョアンなどの8人の名簿を公表した。無所属1人以外の7人は未来統合党の候補者だった。選挙結果は8人のうち、5人(62.5%)が落選した。
言うまでもないが、ここでの「親日政治家」とは「日本と親しい政治家」という意味ではなく、韓国の歴史をどう見るかという根本問題が含まれている。
4月11日、文在寅大統領は来年オープン予定の「韓国臨時政府記念館」記念式典に出席し、「これからの韓国の歴史は親日ではなく、独立運動が主流になる」と述べたが、このような発言も保守勢力の日韓ゆ着を正す投票力学が働いたと思われる。(次号に続く)
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「光州事件の真実こそ民主化の礎」
5・18光州民主化運動40周年記念式での文在寅大統領演説(抄訳)

尊敬する国民の皆さん、光州・全羅南道の市・道民の皆さん、五月の光州から40周年になりました。
私たちは今日5・18広場で依然として冷めない五月の英霊の熱い想いに出会います。
常に分け合うことと連帯、共同体精神として蘇る五月の英霊を悼み、彼らの精神を民主主義の約束として見守ってきた有功者、遺家族たちに深い慰労と尊敬の想いを捧げます。
1980年5月27日の明け方、戒厳軍の銃剣によりここ、全南道庁で倒れていった市民達は残った人々がより良い世の中を作っいくと信じました。
今日の敗北が明日の勝利になると確信しました。生きている者は死んだ者たちの呼び声に応え、民主主義を実践しました。
光州の真実を知らせることが民主化運動となり5・18は大韓民国民主主義の偉大な歴史になりました。
“五月の精神”はより広く共感されなければならず世代と世代をつなぎ、何度も新しく生まれなければなりません。いま私たちは政治・社会での民主主義を超え家庭、職場、経済での民主主義を実現しなければならず、分け合い協力する世界秩序のためにふたたび五月の全南道庁前の広場を記憶しなければなりません。
それがあの日、道庁を死守し死んだ人々の呼び声に生きる者たちが真に応える道です。
ありがとうございます