敗戦記念日にあたって安倍首相へ by 野添憲治(ノンフィクション作家)

敗戦記念日にあたって安倍首相へ
野添憲治(ノンフィクション作家)

岸信介

岸信介

 安倍首相殿、あなたの祖父である岸信介さんはアジア・太平洋戦争の東條英機内閣で商工大臣となり、朝鮮半島や中国から日本国内に多くの人たちを連行する中心的な役割をしました。朝鮮半島からは調査研究した学者により約87万7300人から約150万人以上、中国人は約4万人とされているのはご存じでしょうね。日本国内では多くの炭鉱や鉱山、またダムや飛行場建設の現場で、食事も十分に支給されないまま重労働をさせられ、日本人の監督者その他の暴力で多くの人が殺された事実も知っていることでしょう。

 しかも、敗戦後も強制連行の事実さえ認めず、まして謝罪や賠償をしないばかりか、殺した人たちの遺骨さえ十分に保存していないのです。わたしは北海道から沖縄まで、朝鮮人や中国人が強制連行されて働いた現場を約9年かけて歩きましたが、遺骨は埋められたままの所や、どこにあるのかさえわからない所が多かったですね。また、中国や朝鮮半島に十数回行き、強制連行させられたが幸いに生きて祖国に帰った人たちに会い、日本が戦時中に冒した過ちをお詫びしたうえで、その体験を聞こうとしました。日本に残った人の場合もそうでしたが、体験を語る前に30分から1時間ほど、声をあげ、涙を流して号泣するのです。その後に涙をふき、泣いたのを詫びてから体験を語るのです。日本での苦しかった日々や、日本人の監督たちの暴力に耐えきれずに亡くなった同胞たちのことを初めて聞かれ、語る前に思いが高ぶるのでしょう。わたしも同じに泣いたことが何度もありました。

 それなのに安倍首相殿、あなた方は強制連行の調査もしないばかりか、1993年に河野洋平内閣官房長官が従軍慰安婦問題の事実を認めて謝罪した「河野談話」を打ち消そうと必死になっています。日本の戦時中の残忍な行為に対する謝罪を「未来志向の談話」に修正しようと発言し、隣国を激怒させています。真っ当な人のやることではありません。

 ところで安倍首相殿、あなたは現在の日本がかかえている過去の重大な問題を解決する努力をしようとするどころか、さきには特定秘密保護法を成立させ、武器輸出三原則の廃止も決めました。そして自民党は6月13日に集団的自衛権を使えるようにするため、自衛権発動の際の新しい前提条件(新三要件)を示しました。この新三要件は実に曖昧で、武力行使が拡大する可能性があり、いつの間にか戦争への道を歩きはじめました。さらに7月1日の臨時閣議では、他国への攻撃に自衛隊が反撃する集団的自衛権を認めるために、憲法解釈を変える閣議決定をしました。そもそも集団的自衛権は、自国が攻撃されていないのに武力を行使する権利で、容認すると海外の戦場に国民を向かわせることにつながるのです。

 1954年に吉田内閣が自衛隊の発足にあたって示した見解では、「武力の行使」を禁止する憲法9条の元でも、自国が直接攻撃された場合には武力で反撃できるとして、個別的自衛権の行使を認めました。その後の日本の歴代内閣は長い間、憲法9条の解釈で集団的自衛権の行使を禁じてきたのです。ところが安倍首相、あなたはその積み重ねを捨てて、我が国憲法の理念である平和主義を根底から覆す解釈を行なったのです。

 憲法9条は海外派兵を想定はしていません。そこに踏み込むと憲法解釈の許容範囲を超えてしまい、憲法違反意外の何物でもありません。国会の議決も国民の投票も経ず、政権だけの判断でおこなうというのは、日本の民主主義を踏みにじる暴挙です。
 かつてアジア・太平洋戦争の時に日本の政府・財界・軍部が共同して行なった隣国人に対する強制連行で犠牲になった方や家族の前で体験を聞いて帰る時に、再びあの時のような国にはしませんとわたしは頭を下げました。その人たちにわたしは嘘をついていたことになり、慚愧に堪えない日々を送っています。

 安倍首相殿、あなたがたは祖父のように自国や隣国の人たちの生命を危険にさらしても、己の保身を策する程度の人であったのですか。わたしは再び戦争への道を歩むことに、全身で反対しています。

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